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スーパーマーケットのショッピングカートを利用した「ナッジ」で野菜・果物の購入が増える

日用品の購入のためスーパーマーケットに訪れた人々に対して、わずかな行動変容の働きかけをする「ナッジ」によって、野菜や果物の購入を増やすことができる可能性のあることを示す、比較対象研究の結果が報告された。野菜や果物の購入は増えたにもかかわらず、買い物の総支出額は有意差がなかったことから、一般消費者の負担を増やすことなく、野菜・果物の摂取量を増やすことができるのではないかと著者らは述べている。

スーパーマーケットのショッピングカートを利用した「ナッジ」で野菜・果物の購入が増える

日本もオーストラリアも野菜・果物の摂取不足は共通

野菜や果物の摂取量が少ないことは、肥満や2型糖尿病、心血管疾患、一部のがんのリスクの高さと関連のあることが知られており、多くの国が国民向けに、野菜・果物の摂取を増やすような呼びかけを行っている。わが国も例外ではなく、健康・栄養関連組織・団体などが野菜・果物の摂取量を増やすための活動を推進しているが、国民健康・栄養調査からは、野菜の摂取量は目標の350g/日に70%不足しており、果物については目標の200g/日に100%不足していることが報告されている。さらに、10年前から比べると、とくに果物において漸減傾向がある。これには、社会経済状況の停滞や所得格差の拡大も一因として指摘されることがよくある。

今回紹介する研究が行われたオーストラリアも同様であり、同国が推奨している1日あたり果物2サービング、野菜5サービングという摂取量を満たしている人は、国民の20人に1人(5.4%)とのことだ。

ナッジで野菜・果物の購入を増やせるか?

人々の日々の不健康な習慣を改善へと導く方法として、従来から、その習慣を続けた場合のリスクを伝えて変更を促すという教育的な手法が行われてきている。例えば、喫煙者にタバコがいかに有害かを伝えるといったことだ。しかしこのような手法に限界があることから、近年では本人の気づきを重視する手法がとられるようになってきている、その一つとして、ナッジが利用される。

ナッジは、わずかに後押しする行為のことで、本人の気づきを促し行動変容につなげる。今回紹介する論文では、「選択肢を制限したり、経済的なインセンティブを大幅に変更したりすることなく人々の行動を変える手法」という定義づけを紹介している。

これまでにも、ナッジを利用して人々の野菜・果物の購入を増やすという試みがいくつか行われてきている。しかし本論文の著者によると、それらの研究には限界点を指摘できるという。例えば比較対照群が設定されていない、または、研究参加者が自分の購入したものを後で研究者にチェックされることを知っていた、といった点が、結果解釈を困難にしているとのことだ。

そこで今回の研究では、以下のように、消費者に研究が行われていることがわからないような状況で比較検討した。

メルボルンの比較的富裕層の多い地域の店舗での研究

この研究は、オーストラリアのメルボルン近郊にある大型スーパーマーケットで行われた。このスーパーは同国最大の独立系小売業であり、比較的、社会経済的地位の高い層が顧客の中心層だという。

研究対象者に研究が行われていることを伝えないという手法のため、対象者の性別や年齢などを直接的に調べることはできなかったが、別の機会に実施した調査では、同店来店客の最多年齢層は35~44歳であり38%を占め、性別は84%が女性、世帯人員は3.4±1.2人であり同国の平均である2.61人より多かった。また、72%の来客が1日に2サービングの果物を摂取し、これは同国全体の51%より高かった。野菜に関しては5サービングを摂取しているのは16%に過ぎなかったが、同国全体平均の7.5%の2倍以上の高値だった。

ショッピングカートの底にメッセージ

ナッジは、同店にある約100台のショッピングカートのうち30台のカート底面に、メッセージを記載したカードを敷くことで行った。そのカードには、野菜や果物の写真とともに、「当スーパーを利用される人の10人に9人以上は、野菜や果物を購入しています」と記載した。そのメッセージは実際に同店のデータに基づくものだという。

このカードが敷いているショッピングカートを利用した来客を介入群、カードのないショッピングカートを利用した来客を対照群として、来客がレジを済ませた後に、その買い物の記録を収集して、野菜・果物の購入額および全体の購入額などを比較した。

支出総額は増えずに野菜・果物の購入が増える

では結果だが、野菜・果物の購入額は対照群が27.10±24.00ドル、介入群は36.20±26.30ドルで、介入群のほうが有意に多く購入していた(p=0.008、効果量〈d〉=0.36)。食品の重量で比較しても、同順に4.19±3.75kg、5.45±4.65kgで有意差があった(p=0.020、d=0.32)。

ところが、すべての商品の購入費用の総額は、対照群116.70±72.70ドル、介入群127.80±78.20ドルであり、群間差は非有意だった(p=0.277)。購入費用全体に占める野菜・果物の費用は、22.8%、29.6%だった(p=0.005)。

介入の長期的な効果の検証が求められる

以上を基に著者らは、「スーパーマーケットのカートにメッセージを記載することで、来客が総支出額を変えずに野菜・果物の購入を増やしていた。効果量は中等度であり対照群との差は少ないように見えるが、簡便で低コストな栄養介入の可能性を示している」と結論づけている。

一方、限界点として、研究が1日のみであったことから、長期間続けた場合にも継続的に効果がみられるのか否かの検討が必要としている。ナッジに対する目新しさが薄れてしまう可能性や、買いだめによって食品廃棄が増える可能性も考えられるとのことだ。

文献情報

原題のタイトルは、「Using social norm nudges in supermarket shopping trolleys to increase fruit and vegetable purchases」。〔Nutr Bull. 2023 Mar;48(1):115-123〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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