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ケトジェニック食でエリート競歩選手のトレーニングの質が低下する

低炭水化物、高脂肪のケトン産生食は、競歩のトレーニングには向かないようだ。エリートレベルの選手を対象に行われた研究の結果、高炭水化物食との比較で、トレーニングの量と強度の双方が低下する可能性が示されたという。詳細は、「International journal of sports physiology and performance」に掲載された。

ケトジェニック食でエリート競歩選手のトレーニングの質が低下する

持久系スポーツにおけるケトジェニック食の位置づけ

持久系アスリートの栄養戦略は長年、高炭水化物食によりエネルギー基質としてのグリコーゲン貯蔵を増やすことを主眼とし、近年ではトレーニングセッションでの急性需要に合わせて炭水化物摂取量をより細かく調整する方法がとられるようになった。しかし一方では過去10年ほどの間に、体内により豊富に存在している脂肪のエネルギー可用性に着目し、その依存度を高めて持久力パフォーマンスを向上させる試みがなされるようになった。低炭水化物、高脂質でケトン産生を刺激するケトジェニック食だ。

ケトジェニック食に変更することで、持久系アスリートの脂質酸化が2倍に上昇するという報告があり、確かにエネルギー基質の変更は可能であるようだが、それがパフォーマンス向上に結び付いているとのエビデンスはまだ少ない。今回紹介する論文の研究では、エリート競歩アスリートのトレーニングの質へのケトジェニック食の影響が検討された。

三つの栄養介入でトレーニングの質を比較

研究参加者は、男子競歩選手21人(27±4歳、体重65.8±7.3kg、VO2max64.3±5.8mL/kg/分)。Tier5(オリンピック、世界選手権のメダリスト、国内記録保持者など)とTier4(ジュニア国際アスリートや世界クラスのアスリートのトレーニングパートナーなど)のアスリートが含まれていた。

アスリートは、2015年11月と2016年1月にオーストラリアスポーツ研究所で行われたトレーニングキャンプのいずれかに参加。8人は両方に参加し、合計29件のデータセットが得られた。研究参加者には、研究参加前に以下の3種類の食事スタイルのメリットとデメリットの教育が行われ、各人の考え方と特徴(年齢、体重、VO2max、自己ベスト、トレーニング歴など)を考慮して、3群に割り付けた。

比較した三つの栄養条件

3種類(群)の食事スタイルと解析対象件数は、以下のとおり。2回の試験に参加した参加者は、クロスオーバーさせて2条件が試行された。

  1. 摂取エネルギー比が水化物の60~65%、タンパク質15~20%、脂質20%という割合で一定させる一貫した高炭水化物食(high carbohydrate intakes to consistent high carbohydrate;HCHO)、9件
  2. 基本的な摂取エネルギー比は上記のHCHOと同様だが、トレーニングセッションの炭水化物需要に応じて摂取量を変化させ、代謝適応を高める周期化された高炭水化物食 (periodized carbohydrate;PCHO)、10件
  3. 摂取エネルギー量はHCHOと同等で、摂取エネルギー比が脂質75~80%、タンパク質15~20%であり、炭水化物は50g/日未満のケトジェニック食(low carbohydrate high fat;LCHF)、10件

3週間のトレーニングの量や質を評価

参加者は、それぞれの栄養介入条件のもとで、3週間にわたりトレーニングを継続。トレーニングは、インターバルトレーニング(400mトラックを6分サイクルで10回)、テンポトレーニング(標高差450mで14kmのロード)、ロングウォーク(平坦な道を25~40km走行し、2kmごとに各栄養介入条件に即した栄養サポートが行われる)といった内容。

トレーニング中は、連続モニタリングシステムを利用し、血中(滲出液中)のケトン体、糖濃度、乳酸濃度を測定したほか、歩行速度、心拍数などを測定し、またトレーニング時間、総走行距離、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)などをアスリート本人に記録してもらった。

研究からの結論と実際への適用

では結果だが、LCHF(ケトジェニック食)群は高炭水化物の2群より、トレーニングでの総走行距離が短かった(HCHOとの比較でp=0.006、効果量〈d〉=0.35)。PCHOとの比較でp<0.001、d=0.69)。また3週目のトレーニング距離は1週目より短かった(p<0.001、d=1.1)。トレーニング負荷量についは、3群間に有意差はなかった。

インターバルセッションでの評価では、走行速度(p=0.001)、およびVO2maxで調整した走行速度(p<0.001)のいずれも、LCHF群では高炭水化物の2群より有意に遅かった。LCHF群に比べてHCHO群は絶対速度が2.8%、PCHOは5.6%速く、VO2max調整速度は同順に8.0%、8.2%速いという結果だった。またLCHF群は心拍数が高炭水化物の2群より有意に高かった。

テンポセッションでも、LCHF群は高炭水化物の2群より絶対速度と調整速度が遅く、記録は平均3.2%長く要していた。代謝関連指標では、LCHF群でケトン体の上昇、および乳酸値と血糖値の上昇抑制が認められた。

このほかに有害事象としてLCHF群では、栄養介入から1~2週間後に色素性痒疹の報告があった。これは栄養介入終了後に急速に軽快した。

以上より著者らは、「ケトジェニック食を行っているエリート持久力アスリートは、高炭水化物食のアスリートと比べてトレーニングの質が低下しており、心拍数が高く、より低いスピードでトレーニングを完了することが示された」とまとめている。また、実際への適用として、「この研究は、LCHF食の遵守がトレーニング能力、特に高強度で行われるトレーニングを阻害することを示した。しかし、それでもLCHF食を続けるアスリートは、トレーニングによるストレスの増加とその結果として生じる疲労を抑制するために、炭水化物の選択的な摂取を考慮する必要がある」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Carbohydrate, High-Fat Diet Is Associated With Diminished Training Quality in Elite Racewalkers」。〔Int J Sports Physiol Perform. 2023 Jun 1;1-9〕
原文はこちら(Human Kinetics)

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