エリートレベルのアスリートが望むスポーツ栄養士、好みの栄養教育のスタイルとは?
スポーツ栄養教育のスタイルに対するアスリートの好みを調査した研究結果が報告された。極めて効果的と支持される教育方法は実例の提示であり、個人的な栄養関連の目標を設定することを重視するという姿勢も認められた。また、好ましいファシリテーターの人物像として、スポーツの知識とスポーツ栄養学の経験、信頼性を備えたスポーツ栄養士が挙げられた。
アスリートが好むスタイルのスポーツ栄養教育を探る
質の高い食事がアスリートのパフォーマンスと健康にとって重要であることは言うまでもないが、実際には多くのアスリートが野菜や果物の摂取量が少ないこと、一部の栄養素を過剰に、または過少に摂取していることがしばしば報告される。これに対して、さまざまな栄養教育のスタイルが提案されてきていている。最近の研究では、より若年の世代、例えばミレニアル世代では、動画などの視覚的ツールを用いた教育手法が好まれることが示されている。ただ、それらの教育スタイルのうちどのような手法が最も好まれるのかという点は、十分に検討されていない。
この論文の研究は、アスリートのスポーツ栄養教育に対する好みを、オンラインによる横断調査として行っている。回答者はTier4以上(高度なトレーニングを行っていて国内大会、国際大会に出場するレベル)として、2021年9~11月に実施された。
調査に用いた質問は、元アスリートで栄養学を修めている研究者が作成したオリジナルのもので、パイロットテストで回答所要時間や回答しやすさを評価し、問題点を修正後に用いられた。
エリートレベル120人強のアスリートが支持するスポーツ栄養教育とは?
138人から回答が得られ、うち2人は16歳未満、11人は競技レベルがTier4未満、1人が回答の研究への利用に同意しなかったため、解析対象は124人となった。年齢は中央値22歳(四分位範囲18~27)、女性が54.8%であり、81.5%がニュージーランド、15.3%がオーストラリア、3.2%がその他の国に居住していた。また半数以上(55.6%)が大学卒または大学在学中で、8.9%は栄養関連の大学で修学中だった。行っている競技は、ボート26.6%、陸上8.9%、自転車8.9%、トライアスロン7.3%などだった。
居住環境は家族と同居が38.7%、パートナーと同居が25.0%、ハウスメイトと同居が23.4%、独居が4.8%、寮や宿泊施設での居住が3.2%。食品の購入は、自分自身が41.1%、ほかの世帯員と共同が27.4%、自分以外の世帯員が23.4%、給食が3.2%。食事の支度は、ほかの世帯員と共同が43.5%、自炊が37.9%、自分以外の世帯員が11.3%。何らかの制限など特別な食事スタイルをもっている割合が19.4%だった。
全体の83.1%が、スポーツ栄養学に興味があると回答した。栄養に関する情報源は、コーチが71.8%、ほかのアスリートが69.4%、スポーツ栄養士が65.3%、ソーシャルメディアが63.7%だった。
スポーツ栄養教育の総合的な好みは?
スポーツ栄養教育への期待として、96%は「魅力的」であって、81.4%は「楽しい」ものであることを期待していた。また、83.9%は、栄養に関する目標を設定することが重要であると考えていた。その目標をファシリテーターが監視する必要性については、53.2%が重要とし、75.0%は本人とファシリテーターの間でフィードバックが行われることを重視していた。
好ましい教育技法は、実例の提示、デモンストレーション、実践、聴覚や視覚を組みあせて用いる方法であり、読み書きや記録に関連した手法は、モバイルアプリケーションやワークブックを使用した自己モニタリングなども含めて、あまり好まれなかった。
望まれているコンテンツは?
アスリートが必須と考えられる栄養学のトピックは、エネルギー要件(52.9%)、水分補給(52.9%)、栄養素の欠乏(43.3%)だった。また、パフォーマンスにとって必須と考えるトピックは、回復時の栄養(58.1%)、運動前と運動中の栄養(それぞれ51.6%、50%)、エネルギー必要量(49.2%)だった。必須と考える栄養学的なスキルとしては、トレーニング要件に合わせて食事を調整すること(37.9%)、および、行動変更のテクニック(26.6%)が挙げられた。
好まれる教育フォーマット?
アスリートの25%は、「対面のグループセッションと1対1のセッションの組み合わせ」を支持し、続いて「1対1のセッション」が19.2%、対面のグループセッションが18.3%に支持された。反対に、最も望ましくないフォーマットは、「オンライン配信のみ」であり13.3%がこれを指摘。「1対1セッションとオンライン配信の組み合わせ」(7.5%)もあまり支持されなかった。一方で、ウェビナーはアスリートの65.8%が、好ましいオンライン配信方法としてランク付けした。
また、グループ教育の場合に、同じ競技のアスリートであること(61.3%)、同じ年齢のアスリートであること(52.4%)、チームメイトやコーチとともに受けること(ともに51.6%)が好まれた。1回のセッションで最も好ましい時間31~60分(61.3%)であり、頻度は月に1回(37.5%)または2カ月に1回(29.0%)が支持され、オフシーズンを中心に年間を通じて行う方法への支持が高かった。
ファシリテーターに望まれることとは?
望ましいファシリテーターは、スポーツ栄養士(82.1%)が支持され、また、82.3%のアスリートは、「すべて」または「ほとんど」の教育セッションが同じファシリテーターによって行われることを望んでいた。
ファシリテーターに望まれる人間性としては、信頼できる人であること(73.4%)、親しみやすく好感が持てる人であること(ともに66.9%)、教育内容に関するスポーツの知識が豊富であること(85.5%)、そして、そのスポーツについて学ぶ意欲があること(71.0%)が挙げられた。
また、信頼できるファシリテーターの要件としては、スポーツ栄養学の経験があること(76.6%)が最も高く、次に登録された有資格の専門家であること(67.7%)だった。
文献情報
原題のタイトルは、「Athlete Preferences for Nutrition Education: Development of and Findings from a Quantitative Survey」。〔Nutrients. 2023 May 29;15(11):2519〕
原文はこちら(MDPI)