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オリンピック出場レベルの女子レスリング選手の摂食障害に関連する行動 定性的研究

オリンピックに参加するレベルで競技を行っている、女子レスリング選手の摂食障害に関連するリスクのある行動について、定性的研究を行った結果が報告された。主として試合前の減量戦略にかかわる問題点が浮かび上がったという。スペインで行われた研究。

オリンピック出場レベルの女子レスリング選手の摂食障害に関連する行動 定性的研究

オリンピック代表選手22人にインタビュー

アスリートは摂食障害(eating disorders;ED)のリスクが高く、とくに体重階級のある競技(柔道、レスリング、ボクシングなど)、審美系競技(体操、フィギュアスケート、アーティスティックスイミングなど)、および持久系競技のアスリートでより高いと報告されている。レスリングもこれらに含まれる。

レスリングはオリンピックの記録上、最も古くから行われている競技の一つであり、打撃を使わずに対戦相手を倒すことなどによって勝敗が決まる。体重が重いことが有利に働くため、選手は試合前に減量を行い、軽い階級で戦おうとする。このとき、適切でない減量法が採用されることがあり、それが摂食障害(ED)リスクの上昇につながると考えられている。

過去に報告された文献の中には、女子レスリング選手のED有病率は46.15%という記述がみられる。ただ、オリンピックに出場するようなハイレベルの女子レスリング選手のEDリスクに関する研究はほとんど行われていない。また、EDの有病率は研究手法次第で変化する可能性も指摘されている。つまり、EDのように、自分自身の言わば“恥”ともとらえかねない部分を、たとえ研究者に対してでも、正確に報告しないことが考えられる。この点において、複数の研究者が定性的な手法をとることの適切性を指摘している。

女子レスリング競技歴をもつ研究者などが参画

この研究の協力者は、スペインの女子レスリング代表チーム30人。コーチから各選手の連絡先を聞き、研究参加協力を打診した。適格基準は、スペイン国内のチャンピオンであったことがあるか代表チームの一員であったことがあり、EDや食習慣関連疾患の既往があること。30人中2人は辞退し、6人はEDまたは食習慣関連疾患の既往がなく、残りの22人が研究に参加した。平均年齢は20.82±2.79歳(範囲16~26)。

ハイレベルの女子レスリング競技歴をもつ研究者と、定性的研究の専門家、計2人が半構造化インタビューのフォーマットを作成。ボランティア選手を対象とするパイロットインタビューを2回行って調整したのち、本番のインタビューに用いられた。選手1人あたり1回のインタビューを終了した時点で、情報は十分得られ、追加のインタビューの必要はないと判断された。

減量戦略と摂食障害(ED)リスクにかかわる行動の関係

インタビューで交わされた会話を分析した結果、主要なテーマは三つに集約されることがわかった。一つ目は減量を必要とする理由であり、二つ目は適切でない減量戦略、三つ目はサポートスタッフの役割について。論文ではこれら3点について、インタビュー時の選手の発言を交えながら考察を重ねている。以下に、その一部を抜粋する。

減量を必要とする理由

国際大会の参加枠

主要な国際大会では、体重階級ごとの各国代表選手は1名に制限される。これにより、同じカテゴリーのチームメイト間で激しい競争が生まれる。場合によっては、代表として出場するために体重階級を変更する必要に迫られる。

「選択肢は二つあった。階級を上げるか下げるかだ。話し合いの結果、私は下の53kgに出場することになった。それまでは59kgだったのだが…」(21歳、身長170cm)。

発達による変化

選手を高いパフォーマンスに導く指導は通常、選手が肉体的に成熟する前に始まる。よって、発育とともに体重階級を変更することが避けがたい。しかし、同じ階級で競技を続けようとする選手は少なくない。また、自分自身のボディーイメージの低下を伴うことがある。

適切でない減量戦略

適切な情報の欠如

減量に関しては、多くの選手が周囲に助けを求めようとしなかったと報告した。

「人に助けを求めたくない年齢というものがある」(20歳)
「アドバイスをくれる人はたくさんいるが、そのアドバイスが問題を引き起こす」(22歳)。

危険な行為

当初は体重管理を目的としていた行動が、後にアスリートの健康にリスクをもたらす可能性のある習慣として続けられることがある。何人かの選手は、嘔吐や下剤・利尿剤の使用などにより急激な減量を行った経験を報告した。

「かつては1週間で4kg落としていた。汗をかき、水を飲まず、嘔吐、下剤服用などを行った。とても不安になったり落ち込んだ。ひどい状態だったので医者に連れて行かれた」(20歳)。

計量後にリバウンドし、その後に再び体重を落とさなければならないというサイクルを報告した選手もいた。

「計量の後は、それまで食べられなかったものをたくさん食べた。その晩、自分の体がとても重く感じた。次の日、目が覚めると、なんと表現すればいいのかわからないが、体が重く、明らかに競技に適した状態ではなかった」(23歳)。

サポートスタッフの役割

スポーツ環境

女子レスリング選手は一般的にコーチを信頼しており、多くの場合、適切なアドバイスを得ている。ただし、レスリング界の伝統的な体験に基づいて、危険な行為が再現される可能性を否定できない。また場合によっては、コーチは問題が生じていることを発見できず、障害につながる可能性のある行動を軽視してしまうことがある。

「私は無知だった。なぜなら、競技に参加する際に、コーチの指示に従って体重を減らし、脱水症状などを引き起こしていたからだ」(17歳)。
「誰も私に何かをコントロールするためのツールを与えてくれなかったし、自分の何が問題なのかもわからなかった。それが普通だと思っていたので、自分に尋ねることもなかったのだが」(20歳)。

社会環境と家庭環境

選手は、家族や友人など、レスリングの世界の一員ではない周囲の人々から誤解されていると感じることがよくあったと報告した。

「私が体重を落とせないことでストレスを感じているときに母がよくやってくれることは、体重を減らすために何を食べなければならないかを計画することだ」(19歳)。

著者らは、「今回の研究は、女子レスリング選手が直面する減量とEDの現実を独自の視点から示し、この状況を改善するための解決策と今後のアプローチ戦略に資するものと言える」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Training Conditions and Psychological Health: Eating Behavior Disorders in Spanish High-Performance Women’s Olympic Wrestling Athletes—A Qualitative Study」。〔Int J Environ Res Public Health. 2023 Jan 30;20(3):2441〕
原文はこちら(MDPI)

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