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世界中の栄養関連ガイドラインで使われている「控えるべきもの」を意味する言葉の変遷

栄養指導で頻繁に使用されるフレーズの一つに「○○は控えてください」が挙げられるが、この控えるべき食品が、世界各国のガイドラインではどのように定義づけられ表現されているのかを調べた研究結果が報告された。それらの言葉は、しばしば明確に定義づけられることなく使用されているという。要旨を紹介する。

世界中の栄養関連ガイドラインで使われている「控えるべきもの」を意味する言葉の変遷

「控えるべき食品(foods to limit;FTL)」は議論になりやすい言葉

食品ベースのガイドライン(food-based dietary guidelines;FBDG)は、食品政策と栄養教育で重要な役割を果たしてきている。例えば、推奨される食品群の摂取量と食事パターンの指針を専門家と一般集団に示し、学校の栄養カリキュラムや施設の給食のポリシーの基盤として利用されることがある。

FBDGの開発に栄養学が中心的な役割を担っていることは間違いない。ただ、FBDGは科学だけによって決定されるのではなく、実現可能性、コスト、文化なども考慮されたうえで定められている。FBDGは、使用対象である一般消費者、政策立案者、研究者に明確なメッセージを伝えるため、用語にも配慮される。例えば、FBDGで「健康に良い」などの言葉が使われた場合、それを利用したコマーシャル戦略がとられることが想定される。また、ガイドラインで使用される言葉の定義があいまいだったり、定義が頻繁に変更されたとしたら、消費者の混乱を招いたり、研究や政策の一貫性に影響が生じてしまう。

栄養素ベースの推奨と食品ベースの推奨のエビデンスの違い

近年では、栄養素ベースのガイドラインは、実際に使用される場面が減少し、一方で実生活により即した食品ベースのガイドラインが好まれるようになってきた。いずれも科学的エビデンスに基づいて作成されることに違いはないが、根拠とされる研究が全く同じというわけにはいかない。

前者の栄養素ベースのガイドラインのエビデンスとしては、個々の栄養素の摂取/非摂取を無作為化した研究も不可能ではないが、反対に後者の食品ベースのガイドラインのエビデンスは観察研究が主となるだろう。一般に、無作為化比較試験に比べて観察研究は、エビデンスレベルが低いと判断される。そのような違いも、ガイドラインに用いられる用語に影響を及ぼすかもしれない。

多くの用語の中で、「控えるべき食品(foods to limit;FTL)」という言葉の使われ方は、流通や食品メーカーの売り上げに直結する可能性があり、議論の的になりやすい言葉と言える。

世界各国の新旧ガイドラインを収集し分析

以上に基づき、本論文の著者らは、食品ベースのガイドライン(FBDG)で使用されている「控えるべき食品(FTL)」の定義について、時代的な変遷と地域性を考察した。

世界各国の行政機関のWebサイトから、現行のFBDGに関する情報を取得したほか、Google検索などによって過去のFBDGに関する情報を可及的に収集した。多くの国は、専門家向けガイドラインと一般消費者向けガイドラインの2種類を発行していた。この研究では研究意図から、2種類ある場合は後者のガイドラインを分析の対象とした。英語以外の言語で執筆されているものは、Google翻訳を用いて翻訳のうえ検討した。成人以外の特定のグループ(例えば小児のみ)を対象とするものや疾患治療目的(例えば糖尿病の食事療法)について述べられたものは分析対象に含めなかった。

「控えるべき食品」を定義づけたうえで使用しているガイドラインは22%

収集されたガイドラインは、新旧あわせて96カ国で発行された148件だった。原稿のガイドライン86件のうち、「控えるべき食品(FTL)」を定義付けているガイドラインは19件(22%)だった。

「控えるべき食品」の解説文は、多くの場合、栄養素によって説明されており(78件、91%)、複数の用語を組み合わせて解説しているものも多かった。最も多いパターンは、栄養素に基づく用語と食品名の例示の組み合わせだった。

制限に関するメッセージは、1976年のデンマークによる砂糖の制限が初

次に経年的な変化に着目すると、まず、栄養素や食品の摂取の制限を促す何らかのメッセージが記されているガイドラインは、1976年にデンマークで発行されたものであり、砂糖の摂取制限を推奨していた。その後しばらく、1970年代後半から1980年代にかけては、栄養素に基づく推奨事項が支配的に使われていた。

1987年になると、ハンガリーから特定の食品を制限する最初の勧告が記されたガイドラインが発行されていた。それには、「菓子やケーキは、食事の締めくくりとして週に1回のみとする。食事の合間に食べるべきでない」と述べられていた。

1990年代から2000年代には、主に栄養関連(多くは脂肪、飽和脂肪、塩、砂糖、アルコール)、そして食品関連(揚げ物、バター、マーガリン、スナック、炭酸飲料、油、肉、卵など)を控えることを推奨する文言が登場する。

食品の加工にかかわる言葉としては、1998年にインドの食事ガイドラインで、加工食品に関連する最初のメッセージが見出しとして用いられた。その後、各国のガイドラインに加工食品の記載が増え、2014年にはブラジルのガイドラインで「超加工食品」という用語が登場する。

栄養素に基づく用語は、以前に発効されたガイドラインでは最も一般的であり、62件中52件(80%)で使われていた。2011年以降に発行されたものでも63件中56件(88%)と依然としてその比率は高いものの、現在では栄養素名単独で使用されることは少なく、食品名との組み合わせで使用されている。

このほかに論文中では地域別の傾向の解析や、ガイドラインに変化を及ぼした出来事、例えば1992年の栄養に関する世界初の国際会議開催、疾患構成の変化との兼ね合いなど、多面的な考察が加えられている。

そのうえで結論には、「過去20年間で加工関連の用語や食品名の使用が増加しているが、FBDGは歴史的に栄養ベースの用語に強く依存してきている。消費者の理解と将来の研究のために、食事関連ガイドラインでは明確な定義を持つ単純な用語を使用することを優先し、概念的に混乱した用語の使用を避ける必要がある」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「From harmful nutrients to ultra-processed foods: exploring shifts in ‘foods to limit’ terminology used in national food-based dietary guidelines」。〔Public Health Nutr. 2022 Dec 2;1-12〕
原文はこちら(Cambridge University Press)

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