食への価値観や知識・技術と、実際に食べている物の栄養学的質との関連 国内成人2,231人を調査
日本人の男性では、食の栄養学的質が高い人ほど有機食品を重視し、食に関する好き嫌いが少ない傾向にあり、女性では、食の栄養学的質が高い人ほど健康を重視し料理技術が高く、好き嫌いが少ない傾向があるとする研究結果が発表された。東京大学の研究グループの研究によるもので、詳細が「British Journal of Nutrition」に論文掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースとして掲載された。著者によると、「本研究は、食の栄養学的質と食に関する価値観・知識・技術・行動との関連を包括的に評価した、世界で初めての研究」であるという。また、「本研究の成果は、健康的な食事を目指した効果的な政策、教育・介入プログラムの科学的な基盤となると考えられる」としている。
発表概要
この研究では、日本人成人2,231人を対象に詳細な質問票調査を実施し、食の栄養学的質と食に関する価値観・知識・技術・行動との関連が調べられた。妥当性が確立している質問票を用いて、食の栄養学的質、食に関する価値観(便利さ重視、健康重視、有機食品重視など)※1、栄養に関する知識※2、料理技術※3、食全般に関わる技能※4、食行動(食を楽しむ傾向、食に関する好き嫌いが激しい傾向など)※5を把握。
その結果、男性では、食の栄養学的質が高い人ほど、有機食品を重視し、食に関する好き嫌いが少ない傾向にあった。女性では、食の栄養学的質が高い人ほど、健康を重視し、栄養に関する知識が豊富で、料理技術が高く、食に関する好き嫌いが少ない傾向にあった。このようなテーマの研究は、欧米を中心に世界各地で行われてきたが、食の評価が野菜や果物の摂取量のみであったり、栄養に関する知識のみを検討していたりなど、いずれも限定的な検討にとどまっており、その全貌は明らかになっていなかった。
本研究は、食の栄養学的質と食に関する価値観・知識・技術・行動との関連を包括的に評価した世界で初めての研究。この成果は、健康的な食事を目指した効果的な政策、教育・介入プログラムの科学的な基盤となると考えられる。
発表内容
研究の背景:日本人はどのように食べるものを決めているのか?
不適切な食事摂取は、1年あたり1,100万人の死亡(総数の22%)の原因であると推定されている。このため、食の栄養学的質に関連する要因の解明は、世界的な最優先課題の一つになっている。このような流れの中で、食に関する価値観、すなわち、個人が食品を購入・摂取するかを決定する際に考慮する要因に注目が集まってきた。また、最近になって登場した概念に、フードリテラシー※6がある。フードリテラシーとは「食を計画、管理、選択、準備、摂取するために必要な、相互に関連した知識、スキル、行動の集まり」のこと。この定義に基づいて、本研究ではフードリテラシーを、栄養に関する知識、料理技術、食全般に関わる技能(食事の計画と準備、買い物、予算の立て方、食品ラベルの読み方に関わる技能)、食行動で構成されるものと考えた。
食の栄養学的質と食に関する価値観やフードリテラシーとの関連に関する研究は、欧米を中心に世界各地で行われてきたが、食の評価が野菜や果物の摂取量のみであったり、食に関する知識のみを検討していたりなど、いずれも限定的な検討にとどまっており、その全貌は明らかになっていなかった。そこで本研究では、一般日本人成人を対象とした質問票調査を実施し、食の栄養学的質と食に関する価値観・知識・技術・行動との関連を調べた。
研究の内容:性別による差異も明らかに
本研究は、2018年10~12月にかけて実施した、全国規模の質問票調査で得られたデータを使用した。調査参加者は、全国規模の詳細な食事調査に参加した成人で、一般家庭で生活する健康な日本人。調査地域は、地理的な多様性と調査の実施可能性に基づいて、日本の総人口の85%以上を占める32 都道府県とした。475名の管理栄養士が参加者の募集とデータ収集を担った。全国規模の食事調査の成人参加者2,983人のうち、2,248人がこの研究に参加(参加率75%)。データに欠損がある人(5人)、19~80歳の年齢の範囲外の人(12人)を除外したのち、19~80歳の2,231人(男性1,068人、女性1,163人)のデータを解析した。
食の栄養学的質の評価には、健康食インデックス(Healthy Eating Index)を用いた。これは、現時点での科学的知見を網羅的にまとめたうえで定められた「アメリカ人のための食事ガイドライン」(Dietary Guidelines for Americans)の遵守の程度を測る指標で、日本人における有用性も検証済み。健康食インデックスに含まれる因子は表1のとおり。100点満点でスコアがつけられ、点数が高いほど食の栄養学的質が高いことを示す。
表1 健康食インデックス(Healthy Eating Index)に含まれる因子
項目 | スコア |
---|---|
〈多く食べるほどスコアが高くなる項目〉 | |
果物 | 0〜10 |
野菜 | 0〜10 |
全粒榖物 | 0〜10 |
乳製品 | 0〜10 |
たんぱく源 | 0〜10 |
脂肪酸比: (一価不飽和脂肪酸+多価不飽和脂肪酸) =飽和脂肪酸 | 0〜10 |
〈少なめに食べるほどスコアが高くなる項目〉 | |
精製榖物 | 0〜10 |
ナトリウム | 0〜10 |
添加糖類 | 0〜10 |
飽和脂肪酸 | 0〜10 |
〈合計〉 | 0〜100 |
食事以外のデータの収集にも、有用性が確立されている質問票を用いた。この研究で調べたのは、食に関する価値観(8項目:入手しやすさ、便利さ、健康、伝統、感覚的魅力、有機食品、快適さ、安全性)、栄養に関する知識、料理技術、食全般に関わる技能、食行動(8項目:空腹を感じやすい傾向、食べ物に反応しやすい傾向、感情的になると食べる量が増える傾向、食を楽しむ傾向、満腹になりやすい傾向、感情的になると食べる量が減る傾向、食に関する好き嫌いが激しい傾向、ゆっくり食べる傾向)。
主な結果を表2に示す。男性では、食の栄養学的質が高い人ほど、有機食品を重視し、食に関する好き嫌いが少ない傾向にあった。女性では、食の栄養学的質が高い人ほど、健康を重視し、栄養に関する知識が豊富で、料理技術が高く、食に関する好き嫌いが少ない傾向にあった。
表2 食の栄養学的質と食に関する価値観・知識・技術・行動との関連のまとめ
男性(1,068人) | 女性(1,163人) | |||
---|---|---|---|---|
BDHQで 評価した 食の 栄養学的質 | FCQで 評価した 食の 栄養学的質 | BDHQで 評価した 食の 栄養学的質 | FCQで 評価した 食の 栄養学的質 | |
〈食に関する価値観〉 | ||||
入手しやすさ重視 | − | − | ||
便利さ重視 | − | |||
健康重視 | + | + | + | |
伝統重視 | ||||
感覚的魅力重視 | ||||
有機食品重視 | + | + | + | |
快適さ重視 | ||||
安全性重視 | + | |||
栄養に関する知識 | + | + | + | |
料理技術 | − | + | + | |
食全般に関わる技能 | + | |||
〈食行動〉 | ||||
空腹を感じやすい傾向 | ||||
食べ物に反応しやすい傾向 | ||||
感情的になると食べる量が増える傾向 | − | |||
食を楽しむ傾向 | ||||
満腹になりやすい傾向 | ||||
感情的になると食べる量が減る傾向 | ||||
食に関する好き嫌いが激しい傾向 | − | − | − | − |
ゆっくり食べる傾向 | + |
今後の展望:明らかになった関連は、食事の種類によって異なるのか?
本研究は、食の栄養学的質と食に関する価値観・知識・技術・行動との関連を包括的に評価した世界で初めての研究。ただ、食の栄養学的質は、食事の種類(朝食、昼食、夕食、間食)によって大きく異なることが知られている。よって今後は、食に関する価値観や知識・技術・行動といったフードリテラシーと食の栄養学的質との関連が、食事の種類によって異なるかを明らかにしていく必要がある。
プレスリリース
食の栄養学的質と食に関する価値観・知識・技術・行動との関連 一般日本人成人を対象とした質問票調査(東京大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Associations of food choice values and food literacy with overall diet quality: a nationwide cross-sectional study in Japanese adults」。〔Br J Nutr. 2023 Apr 5;1-11〕
原文はこちら(Cambridge University Press)