パラアスリートの相対的エネルギー不足(RED-S)リスクはどのように評価すべきか
パラアスリートのエネルギー可用性(energy availability;EA)が低下した状態(low energy availability;LEA)やスポーツにおける相対的エネルギー不足(relative energy deficiency in sport;RED-S)をどのように評価すべきかについて考察した、ナラティブレビューが昨年報告されている。要旨を紹介する。
パラアスリートの栄養
夏季と冬季のパラリンピックには、世界各国から4,000~5,000人のパラアスリートが参加し、28種類の競技で競い合う。パラアスリートのパフォーマンス発揮にとって栄養戦略が重要であることの認識が高まり、現在、多くのスポーツ栄養士がこの領域で活動するようになってきた。ただし、エビデンスは少ない。現在のところ、パラアスリートの栄養戦略は、健常アスリートまたは一般人口を対象とする推奨事項を参照し、個別にアレンジして行われている。
摂取エネルギー量と消費エネルギー量との差が少なく、エネルギー可用性(EA)が低下した状態(LEA)は、アスリートの健康とパフォーマンスに負の影響を及ぼすことが知られているが、パラアスリートの場合、その影響がより大きく現れる可能性も考えられる。例えば慢性的なLEAにより懸念される状態の一つに骨量低下が挙げられるが、自分の体重を脚で支えていない車椅子アスリートでは、骨への負荷の刺激が不足することによって、骨代謝をより低下させるとする報告がある。
また、パラアスリートのLEAの実態について、女性では研究期間中の73%、男性では30%でLEAが発生した日が存在していたというデータがある。とはいえ、LEAか否か、あるいはスポーツにおける相対的エネルギー不足(RED-S)か否かを知るためには、摂取エネルギー量(energy intake;EI)と運動による消費エネルギー量(exercise energy expenditure;EEE)、または安静時代謝量(resting metabolic rate;RMR)を把握することが必要であり、その評価そのものが簡単ではないことがある。さらに、RED-Sを示唆する何らかの症状がみられる場合に、それが本当にRED-Sによるものなのか、そうではなく、身体等の障害によるものなのかの判断は、実際のところ困難なことが少なくないという。
以上を背景として、この論文の著者らは、パラアスリートのLEAやRED-Sのリスク因子を評価する際に直面する課題を明確にすることを目的に、ナラティブレビューとしてまとめている。また、LEAやRED-Sが、障害の症状に明らかに寄与しているかどうかも併せて検討している。
相対的エネルギー不足(RED-S)とは
スポーツにおける相対的エネルギー不足(女性アスリートのコンディショニングと栄養)エネルギー可用性(EA)をどう評価する?
エネルギー可用性(EA)は、摂取エネルギー量(EI)から運動による消費エネルギー量(EEE)を引いた値であり、生理機能に利用できるエネルギー量を意味し、除脂肪体重(fat free mass;FFM)1kgあたりの数値として表すことが多い。EAが十分高いことが健康とスポーツパフォーマンスにとって重要とされる。
では十分なEAとは、どのように定義されるのだろうか。本論文の著者によると、健常アスリートでは一般にLEAのカットオフ値が30kcal/kg除脂肪体重とされるが、その根拠は座位行動の多い女性で行われた研究に基づくものであり、最近はこの値をアスリートに適用可能なのかという議論が生じているという。当然ながら、パラアスリートにその値を適用できるか否かということも、現状では不明である。加えてパラアスリートでは、後述の固有の問題も未解決である。
運動による消費エネルギー量(EEE)をどう評価する?
エネルギー可用性(EA)の評価に必要となる、摂取エネルギー量(EI)と運動による消費エネルギー量(EEE)のうち、前者については健常者アスリートとその評価手法に大きな違いはないかもしれない。ただ、パラアスリートでは食材の入手可能性、摂取後の消化吸収の遅延または不規則性、薬剤を服用している場合のその影響などを考慮する必要はあるだろう。
後者のEEEについてはより複雑だ。行っているスポーツの種類やトレーニング量は当然のことながら、障害の種類や程度、補装具の特徴などによって、EEEは大きく異なる可能性がある。例えば、脊髄損傷であっても障害の生じている部位によって、EEEは異なる。25kmの車いすレースのタイムトライアルに参加した5人のエリートパラアスリートでの研究では、EEEに最大2倍の差があったという報告がみられるという。
重要な点として、消費エネルギー量評価のゴールドスタンダードである二重標識水法を用いた研究が、パラアスリートでは実施されていないとのことだ。ウェアラブルデバイスなどによる評価は簡便ではあるが、パラアスリートでのEEEの評価の精度は十分検討されていない。
一方で、車椅子アスリートのEEEの評価に役立つMET(metabolic equivalent)スコアの開発も進められている。また、間接熱量測定装置を用いてEEEを把握する試みもあるという。
そのほかの課題
除脂肪体重(FFM)の測定は、二重エネルギーX線吸収(dual-energy X-ray absorptiometry;DXA)法を用いることが多い。しかし、パラアスリートには体型、身長、身体コンパートメント間のFFMの分布に大きなばらつきがあるため、健常者の基準で判定することができない。
また、RED-Sとして何らかの症状が発現したとき、それがRED-Sによるものなのか、元にある障害の進展などによるものなのかの鑑別が必要となる。さらに、RED-Sの影響が生じていても、それがマスクされることがある。例えばRED-Sにより骨折等が生じていても、脊髄損傷などのために痛みを生じないこともありうる。痛みを感じないとしても、適切な処置がなされない場合、炎症、感染リスク、骨破壊などのリスクが上昇する。
このほかに、論文中ではホルモン分泌への影響、ボディーイメージと摂食障害などについて、現状の課題と将来への展望が述べられている。
文献情報
p> 原題のタイトルは、「How Do We Assess Energy Availability and RED-S Risk Factors in Para Athletes?」。〔Nutrients. 2022 Mar 3;14(5):1068〕原文はこちら(MDPI)