柔道のパフォーマンス向上に最適なカフェイン摂取量は? ポーランドの代表選手での検討
柔道のパフォーマンス向上に適したカフェイン摂取量を、二重盲検クロスオーバー法で検討した研究結果が昨年報告されている。ポーランドの国家代表レベルの選手を対象に、3mg/kgと6mg/kgとで比較したもの。
カフェインの柔道に対する効果は摂取量によって異なるか?
柔道の試合時間のほぼ半分は、技をかけるのに有利な相手の道着を把持するための組み手争いで経過するという。この争いは当然ながら握力を含む上半身の筋力が強いほうが有利であり、また技をかける瞬間には素早い全身の動きとともに下半身の筋力が要求される。このような柔道の特性から、筋力や筋持久力、集中力等を向上させるとするエビデンスのあるカフェインが有効と考えられる。
これまでに柔道家を対象としたカフェイン摂取の有効性の検討が複数実施されてきており、対プラセボで種々の評価指標を有意に向上させ得ることが示されている。ただし、その効果は必ずしも一貫性のあるものではない。一貫性欠如の理由として、研究に用いられたカフェインの用量の違いや、ふだんのカフェイン摂取量の違いの関与などが考えられる。今回紹介する論文の研究では、同一選手にカフェイン3mg/kgと6mg/kg、およびプラセボという3条件で、パフォーマンステストを行い、カフェインの有効性が用量によって異なるかが検討された。
ポーランド代表選手での検討
研究参加の適格条件は、柔道歴が10年以上であり前年に1日2時間以上、週6日以上のトレーニングを行い、帯は黒帯で神経・筋骨格系疾患がなく主観的に健康であり、研究結果に影響を及ぼし得る薬剤やサプリメントを摂取していない非喫煙者。最終的に経験の豊かな10人の柔道選手(男性6人、女性4人)が参加。全員がポーランドの代表で、習慣的に軽度のカフェインを摂取していた。主な特徴は以下のとおり。
男性は年齢26.4、女性20.8歳、体脂肪率は同順に11.9、20.1%、柔道歴17.5、11.5年、習慣的なカフェイン摂取量2.6、2.7mg/kg/日、摂取エネルギー量3,347、2,056kcal/日、タンパク質摂取量1.9、1.2g/kg/日、脂質摂取量1.4、1.0g/kg/日、炭水化物摂取量6.0、4.2g/kg/日、ベンチプレス1RM(repetition maximum.1回だけ実行可能な最大負荷量)110.8、62.5kg、ベンチププル1RM101.7、65.0kg。
試験デザインについて
試験デザインは、無作為化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー法であり、カフェイン3mg/kgと6mg/kg、およびプラセボという3条件が、無作為化された順序で72時間以上のウォッシュアウト期間をおいて、研究室内の同一の環境で試行された。
評価項目は、50%1RMでベンチプレスおよびベンチプル3回を3セット行い、そのバー挙上の最大速度と平均速度、カウンタームーブメントジャンプ(countermovement jump;CMJ)、握力、柔道着グリップ力テスト(judogi grip strength test;JGST.柔道着を把持しての懸垂の回数)。カフェインまたはプラセボ摂取の60分後から、上記の順に行った。
そのほかに、副作用や気分の状態について、上記データの収集直後および24時間後に聞き取りを行った。また、盲検化が成功していたか否かを確認した。
一部の評価項目にカフェイン用量で反応の違いが観察される
ベンチプレス/ベンチプルではプラセボ条件との有意差を確認
では結果だが、まずベンチプレスの平均挙上速度は、カフェイン3mg/kg条件では1セット目のみ、プラセボ条件より有意に早かった。それに対してカフェイン6mg/kg条件では、1~3セット目すべてでプラセボ条件より有意に早かった。また、最大速度に関しては、3mg/kg条件では3セット目のみプラセボ条件より有意に早かった。6mg/kg条件では1~3セット目すべてでプラセボ条件より有意に早かった。
ベンチプルに関しては、平均速度がカフェイン3mg/kg条件、6mg/kg条件ともに、2~3セット目にプラセボ条件より有意に早かった。最大速度は両条件ともにプラセボ条件との有意差が観察されなかった。
JGSTもプラセボと有意差
ベンチプレス/ベンチプル以外に、柔道着グリップ力テスト(JGST)も、プラセボ条件では17回であるのに対して、カフェインの2条件はいずれも20回であり、有意に懸垂回数が多かった。その他の評価項目である、握力(利き手とその反対の手の双方)やCMJなどは、カフェイン条件とプラセボ条件で有意差が認められなかった。
副作用や気分の状態に関しては、テスト直後の評価では「活力が増した」との回答がカフェイン摂取条件で有意に多かった。カフェインの用量ごとに検討した場合、6mg/kg条件でのみプラセボ条件よりその割合が有意に多く、3mg/kg条件はプラセボ条件と有意差がなかった。ただし、カフェインの6mg/kg条件と3mg/kg条件との比較も、有意差はなかった。
プラセボ条件では7割の選手がカフェインでないと正しく認識していた
各条件の試行後に、「どのサプリメントを摂取したと思うか?」との質問を行い、その正答率から盲検化の成功率を検討した。プラセボ条件では70%が「プラセボを摂取した」と正しく認識されていたが、カフェイン3mg/kg条件でのその割合は40%、6mg/kg条件では50%であり、用量については盲検化が成功していたと判断された。
以上の結果を基に著者らは、「高度なトレーニングを行っており習慣的にカフェインを摂取している柔道選手では、異なる摂取量のカフェインがパフォーマンスに及ぼす影響は似通ったものだった」と述べ、「一般には有効とされる最少用量の3mg/kgを選択する必要があると考えられるが、選手個々の反応を考慮して摂取用量を調整すると良いのではないか」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Preliminary Research towards Acute Effects of Different Doses of Caffeine on Strength–Power Performance in Highly Trained Judo Athletes」。〔Int J Environ Res Public Health. 2022 Mar 1;19(5):2868〕
原文はこちら(MDPI)