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クレアチン摂取でベンチプレスのパフォーマンスが向上するぶん、回復には時間がかかる?

ベンチプレスのパフォーマンスと回復に対するクレアチン摂取の影響を、二重盲検試験でテストした結果が報告された。対プラセボで短期間での有意なパフォーマンスの向上が認められたものの、それだけに回復が遅延する可能性を示唆する結果となったという。

クレアチン摂取でベンチプレスのパフォーマンスが向上する分、回復に時間を要する可能性

無作為化二重盲検比較試験でクレアチンの回復への影響を検討

クレアチンは骨格筋に高濃度に存在しているアミノ酸。筋肉中のクレアチンの約3分の2はクレアチンリン酸で、残りは遊離クレアチンとして存在する。筋肉内のクレアチンの一部は分解されて代謝産物のクレアチニンとなり尿中に排泄されていくため、一定量の補給が必要だ。クレアチンの必要量の約半分は、主に赤身肉と甲殻類を中心とする食事から得ており、残りは腎臓や肝臓において、アミノ酸のアルギニン、グリシン、メチオニンが媒介する反応で内因性に合成されている。

30年ほど前に、外因性クレアチン一水和物の摂取によって筋肉内のクレアチン貯蔵が増加することが報告されて以来、スポーツパフォーマンスを向上されるとする研究報告が相次ぎ、現在、多くのアスリートの間で最も人気のあるサプリメントの一つとなっている。クレアチン一水和物は、オーストラリアスポーツ研究所によるサプリメントのカテゴリー分類でも、クラスA(パフォーマンス向上のエビデンスがあるもの)と位置づけられている。

ただし、短期間でのパフォーマンス向上は疲労の増大と表裏一体という側面がある。そこで本論文の著者らは、クレアチン摂取の回復への影響を研究の主要目的として、無作為化二重盲検比較試験による検討を行った。

研究プロトコルと被験者の特徴

この研究の参加者は、スポーツ科学を修得中で中程度のトレーニングを行っている男子学生から募集された。まず、ベンチプレスを1回だけ挙上可能な最大重量である「1RM」(repetition maximum)を計測。その1週間後に、70%1RMの重量の挙上を繰り返し、施行不能となるまでの最大反復回数(maximum number of repetitions;MNR)を把握。

その後、全体を無作為に2群に分け、1群はクレアチン一水和物0.3g/kg/日を摂取する群、他の1群はプラセボ(同量のマルトデキストリン)を摂取する群として1週間介入。1週間後に再度、最大反復回数(MNR)の評価を行った。

MNRの評価は2分間の休憩をはさんで3セット実施した。また、MNRの計測前、および3セットの試行終了直後、5、10、15、20分後に、1RMの45~50%の重量負荷でバーをできるだけ速く挙上することを3回ずつ行い、その平均挙上速度(mean propulsive velocity;MPV)を評価。また、試行終了直後、5、10、15、20分後には指先穿刺採血により乳酸値を測定した。

なお、被験者の割り付けは被験者本人と研究者もわからないように二重盲検化されていた。また、被験者には疾患を有する者は含まれておらず、研究期間中は結果に影響を及ぼし得る薬剤やサプリメントの摂取が禁止され、各テストの3時間前以降の食事摂取が禁止された。各試験は同じ曜日の同じ時間帯(±2時間)に実施された。

介入期間中の試験薬の飲み忘れや飲酒、試験前日の運動などを報告した被験者は解析対象から除外され、最終的に各群25人、計50人を対象に解析した。

解析対象者の主な特徴は、年齢22.4±3.31歳、BMI24.0±2.33、相対強度(relative strength ratio;RSR)1.06±0.20kg/kg、平均挙上速度(MPV)0.17±0.07m/秒。介入前の主要なパフォーマンス指標に有意差はなかった。

クレアチン群でパフォーマンスが有意に向上し、回復中は乳酸値上昇、MPV低下

それでは結果について、まずベンチプレスパフォーマンスへの影響をみると、1週間の介入によってクレアチン群では最大反復回数(MNR)がプラセボ群より、有意に高値となっていた。例えば、3セットのうち1セット目は、クレアチン群のMNRが14.8回、プラセボ群は13.6回で前者のほうが有意に多く、2セット目も同順に、8.0回、6.7回でありクレアチン群のほうが有意に高値だった(いずれもp=0.006)。3セット目は5.3回、4.7回でクレアチン群のほうが多いものの有意差はなかった(p=0.176)。

クレアチン群で回復遅延を示唆するデータ

一方、回復への影響に目を向けると、3セット終了の10分後の平均挙上速度(MPV〈p=0.003〉)、15分後のMPV(p=0.020)、20分後のMPV(p=0.015)に有意差がみられ、いずれもクレアチン群のほうが低値だった。

次に乳酸値に関して、まず時間効果をみると、負荷5分後、10分後、15分後の値は、クレアチン群、プラセボ群ともに負荷前よりも有意に高値となっていた。負荷20分後は負荷前と有意差がないレベルに低下していた。続いて介入効果をみると、負荷5分後の乳酸値は両群同等だったが、10分後(p=0.043)、15分後(p=0.043)、20分後(p=0.040)は、いずれもクレアチン群の乳酸値のほうが高値だった。

プラセボにマルトデキストリンを用いることに一考が必要か?

著者らによると、本研究はクレアチン摂取によるベンチプレスによる負荷後の回復への影響を平均挙上速度で評価した初の研究だという。論文の結論は上述の検討結果をまとめたものとなっている。

なお、研究の限界点として、研究期間中の栄養素摂取量をモニタリングしていなかったこととともに、プラセボとして用いたマルトデキストリンについて、近年、マルトデキストリンが腸内細菌叢の組成に影響を与えることが示されていることを指摘。現状ではスポーツパフォーマンスへの影響は報告されていないものの、その可能性を考慮し、今後の研究では配慮が必要とされるのではないかとしている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of Creatine Supplementation after 20 Minutes of Recovery in a Bench Press Exercise Protocol in Moderately Physically Trained Men」。〔Nutrients. 2023 Jan 28;15(3):657〕
原文はこちら(MDPI)

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