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卓球選手への栄養に関する推奨事項 栄養素の摂取方法、エルゴジェニックエイド、時差ボケ対策など

卓球選手のための栄養に関する推奨事項が報告された。シンガポールの研究者によるナラティブレビューによるもの。卓球の特徴の解説にはじまり、推奨される主要・微量栄養素の摂取方法、およびエルゴジェニックエイドの考え方、時差ボケ対策などのトピックが取り上げられている。要旨を紹介する。

卓球の特徴:ボールの規格変更で身体への負荷が増加している

卓球は、世界で2番目の人気のあるラケットスポーツで、敏捷性とパワー、持久力、集中力などが必要とされる。2000年にボールのサイズが38mmから40mmに拡大され、空気抵抗が大きくなったことの影響で、速度が低下しラリーは10秒ほどが長引いたことが報告されている。一方で力強いストロークやリターンのために、より高い筋力やスキルが必要とされるようになった。また、2014年にはボールの素材がセルロイドからプラスチックに変更され高速スピンがかかりやすくなったことも、試合中の身体への負荷を増やしていると考えられる。

北京オリンピックでの試合時間の平均は、男子が27.5分、女子は32.3分であり、これは他のラケットスポーツに比べて長いとは言えないが、大会ではシングルとダブルス、チームといった複数のカテゴリーに参加することが多く、1日に複数の試合に出場する。通常1週間程度続く大会期間中、タイムリーなエネルギー補給戦略が必要になる。

しかしこれまでのところ、卓球選手に特化した栄養戦略は確立されていない。そこで本論文の著者らは、既報文献を対象とするナラティブレビューにより、現時点のエビデンスを整理し推奨事項をまとめた。

英語文献に基づくナラティブレビュー

文献検索にはPubMedとGoogle Scholarを用い、それぞれの開始から2022年6月までに収載された文献を対象として、「卓球」「生理学」「代謝」などの語句で検索。英語で執筆され、査読システムのあるジャーナルに掲載された報告を抽出した。時差ボケに対する栄養管理などのトピックに関しては、ハンドサーチを行った。

卓球の生理的な課題

最適な体格・体組成

男子選手上位100人の身長や体重と試合成績との関連を検討した研究では、それらの体格に関する指標とパフォーマンスとの間に有意な相関は確認されなかった。ただし、卓球大国である中国や日本からのこのトピックに関する報告が不足していた。卓球にはパワーと敏捷性が求められることを考えると、スリムでPWR(power weight ratio.筋力を体重で除した値)が高いことが有利ではないかと考えられる。

エネルギー基質

試合をシミュレートした検討から、ゲーム中の代謝は基本的に有酸素性であり97±2%を占め、嫌気性は1±0.7%、クレアチンリン酸分解が3±1%と報告されている。嫌気性経路の寄与は低いと考えられるが、一方で無酸素性パフォーマンスが高いほど試合中に高強度のラリーが可能であることも報告されている。  つまり、卓球という競技の特徴を考慮すると、力強いストロークとリターンには無酸素能力が必要と考えられる。ただしエネルギー源としては炭水化物が主体であるべきで、加えてクレアチンリン酸の筋肉内貯蔵を高めるために、クレアチンの摂取も必要。また、ラリーが比較的短時間であるという特徴から、精神的集中力を高めるような栄養戦略も考慮される。

消費エネルギー量

1日3時間のトレーニングを行っている男子学生卓球選手の消費エネルギー量を二重標識水法で測定した研究によると、3,700±450kcalだったという。同じ研究で、フットワークなしのトレーニングでは4.5~5.2METs、フットワークありでは9.5~11.5METsであるとされている。別の研究からもこれに近い、トレーニングでは8.5METs、試合では10.5METsというデータが報告されている。

卓球選手に対する栄養に関する推奨事項

論文中には、卓球選手の栄養素摂取に関する推奨事項が表形式でまとめられている。以下はその抜粋。

主要栄養素

炭水化物

なるべくグリセミックインデックスが低~中等度の炭水化物食品を摂取する。リンゴ、バナナ、ベリーなどの多くの果物がこれに該当する。トレーニング中は血糖値の維持のため、炭水化物-電解質飲料を摂取する。運動後の回復を促進するために、炭水化物とタンパク質の双方を含む食品(牛乳など)を摂取する。

タンパク質

タンパク質は、3回の食事と2回の軽食に分散して摂取する。推奨される食品は、牛乳、赤身肉、大豆製品、卵など。1回あたりのタンパク質の最適摂取量は、体重1kgあたり0.3g。筋肉の合成と回復を促進するために、就寝前に徐放性タンパク質(カゼインなど)を摂取する。就寝前のタンパク質摂取量は25~40gの範囲。

脂質

できるだけ低脂肪の食品を選び、家禽類の皮や脂肪などの飽和脂肪を多く含む食品の摂取を控える。多価不飽和脂肪酸(ω-3および6)が好ましく、魚、種子、ナッツなどから得ることができる。

微量栄養素や水分

ビタミンについてはビタミンDに関して、定期的なビタミンDレベルのモニタリングと必要に応じた経口補給と日光曝露を推奨している。ミネラルについては鉄に関して、少なくとも週に2回は赤身肉を摂取すること、マグネシウムに関して濃い緑色の野菜、全粒穀物、ナッツ、種子を習慣的に摂取することを推奨。

水分については、水分を補給した状態で運動を開始することや、ハードなトレーニングセッション中や1日に複数の試合に出場するときは、炭水化物-電解質飲料を摂取することとしている。

卓球に特異的なエルゴジェニックエイド

このほか、エルゴジェニックエイドについては、カフェイン、クレアチン、β-アラニンを取り上げ、身体的パフォーマンスを高めるための摂取方法を既報文献に基づきまとめている。また、卓球に要求される視力との関連から、ルテインとゼアキサンチンを取り上げ、以下のように述べている。

若年の健康成人では、ゼアキサンチン20mg/日または26mg/日、ルテイン8mg/日、ω-3脂肪酸190mg/日を含む混合処方を4カ月間継続すると、運動反応時間が約10%短縮したとの報告がある。ゴジベリーまたはクコの実は、ゼアキサンチンの豊富な供給源。20mgのゼアキサンチンを得るには、1日15gを摂取する。ほうれん草、ケール、エンドウ豆、パセリ、バジルなどの緑の野菜は、ルテインの豊富な供給源。8mgのルテインを得るには、1日100g以上の緑色野菜を摂取する。

なお、著者は本研究の限界点として、英語論文のみを対象にレビューしているため、卓球大国である中国や日本などの言語で執筆された文献が含まれていないことを挙げている。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutrition Recommendations for Table Tennis Players—A Narrative Review」。〔Nutrients. 2023 Feb 2;15(3):775〕
原文はこちら(MDPI)

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