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持久力運動中の炭水化物の酸化率は、エネルギー可用性の高低で異なるのか?

利用可能なエネルギーが十分な時とそうでない時で、炭水化物の酸化率が異なるのか否かを検討した研究結果が報告された。立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科の後藤一成氏らの研究によるもので、「PLOS ONE」に論文が掲載された。極端な条件設定ではなく、多くの持久系スポーツアスリートが経験する可能性のある、一般性の高い条件設定で行われている点が特徴としてあげられる。

持久力運動中の炭水化物の酸化率は、エネルギー可用性の高低で異なるのか?

エネルギー可用性の低いことの炭水化物酸化への影響を、一般的な状態で検討

高強度のトレーニングは食欲を減退させ、摂取エネルギー量の不足につながる。また、体重が軽いことが競技戦略上、有利になると考えられるスポーツでは、アスリートが自主的に摂取エネルギー量を抑えている場合もある。これらの結果、とくに持久系アスリートでは、エネルギー可用性(energy availability;EA)の低い状態となっていることがある。エネルギー可用性が低い状態では、持久系パフォーマンスが低下をしたり、骨代謝やホルモン分泌、またはメンタルヘルス面への悪影響を及ぼし得ることから、その状態を回避することが重要とされる。

一方、エネルギー可用性が低いことによる炭水化物の酸化への影響、とくに運動前に摂取した外因性炭水化物の酸化への影響は、十分に明らかにされていない。これまで複数の研究が行われてきているが、それらの多くは、条件間の違いを際立たせた研究、例えばグリコーゲンを枯渇させたうえでの検討などが行われおり、必ずしもアスリートの競技戦略に援用できるものではなかった。

そこで後藤氏らは、より現実的な条件設定のもとで、エネルギー可用性が低いことによる炭水化物酸化への影響を検討した。

若年男性10人を対象とするクロスオーバー法で検討

この研究は、身体活動量の多い10人の男性(年齢21.4±0.6歳、BMI21.5±0.4、VO2max56.5±1.3mL/kg/分)を対象とするクロスオーバー試験として実施された。

エネルギー可用性の低い状態の設定(low energy availability trial;LEA条件)は摂取エネルギー量を15kcal/kg/日、通常の条件設定(normal energy availability trial;NEA条件)では45kcal/kg/日として、2日間にわたって参加者ごとに個別化された食事を提供した。両条件の試行順序は無作為化し、10日以上のウォッシュアウト期間を設けた。

各条件の1日目と2日目に、トレッドミルを用い70%VO2maxの強度で60分間のトレーニングをしてもらった。炭水化物の酸化率は、ひと晩絶食後の2日目の午前9時に標準化された食事を摂取し、その40分後に開始したトレーニング中に測定した。グリコーゲンの酸化率は、呼吸交換比(respiratory exchange ratio;RER)で評価し、外因性炭水化物の酸化率は安定同位体標識を用いて評価した。

このほか、走行距離、体組成、心拍数、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)、血液検査値(血糖値、乳酸値、インスリン、ケトン体、遊離テストステロン)などへの影響も検討した。

外因性炭水化物の酸化は同等だが、グリコーゲンの酸化に有意差

まず、各条件での栄養素摂取量をみると、摂取エネルギー量はLEA条件が1,788±53kcal、NEA条件は3,250±67kcal、エネルギー可用性(EA)は同順に19.9±0.3、46.6±0.2kcal/kg/日で、炭水化物摂取量は3.71±0.08、6.84±0.15g/kg/日であり、有意差が認められた(すべてp<0.001)。

体重と体脂肪量は、1日目の朝は条件差がなかったが、LEA条件の2日目は有意に低値だった(1日目に対してとNEA条件に対して、いずれもp<0.05)。除脂肪量と骨格筋量は1日目と2日目で有意な変化がなく、条件差も有意ではなかった。また、走行距離や心拍数、自覚的運動強度(RPE)も有意な変化がなく、有意な条件差もみられなかった。。

炭水化物の酸化率の比較

では、研究の主題である炭水化物の酸化率についてみてみよう。

外因性グリコーゲンの酸化は同等

安定同位体標識を用いて評価した、朝食時に摂取された炭水化物の酸化率は、両条件ともにトレーニング開始とともに有意に上昇したが(p<0.001)、条件間の差(p=0.235)、交互作用はいずれも有意ではなく(p=0.325)、上昇曲線下面積は同等だった(p=0.99)。

LEA条件ではグリコーゲンの酸化率が低下

それに対して、呼吸交換比(RER)で評価したグリコーゲンの酸化率には、以下のような条件間の有意差が認められた。
1日目のRERは、LEA条件が0.84±0.01、NEA条件は0.80±0.02であり、前者のほうが有意に高値であって、炭水化物の酸化が亢進していた。それに対して2日目は、同順に0.77±0.02、0.81±0.01となり、NEA条件は前日から変化がなかったが、LEA条件は有意に低下し、かつNEA条件に比べて有意に低値となっていた(すべてp<0.05)。つまり、LEA条件では2日目の炭水化物の利用が減少していた。

血液検査値の変化

血液検査値については、1日目に有意差のみられた項目はなかった。

2日目は、血糖値とインスリン、レプチンはLEA条件が有意に低値、乳酸値とケトン体はLEA条件が有意に高値を示した。遊離テストステロンには条件間で有意差はみられなかった。

エネルギー可用性が低い状態がより長期間続いた場合は?

以上一連の結果をもとに著者らは、「エネルギー可用性が低い状態での持久運動は、通常の状態での同等の運動と比較して、全身のグリコーゲンの酸化を有意に低下させたが、外因性の炭水化物の酸化には影響がみられなかった。この知見は、エネルギー可用性が低い持久系アスリートの長時間運動に対する栄養戦略に応用できる可能性がある」と結論づけている。

また、本研究は介入期間が2日間であったため、「エネルギー可用性が低い状態がより長期間持続した場合の影響を検討する必要がある」と、今後の研究の方向性について付言している。

文献情報

原題のタイトルは、「Exogenous glucose oxidation during endurance exercise under low energy availability」。〔PLoS One. 2022 Oct 12;17(10):e0276002〕
原文はこちら(PLOS)

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