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持久系アスリートのための炭水化物研究とその適用のオーバービュー

今回は、「Sports medicine」誌に最近掲載された、「持久系アスリートのための炭水化物研究と適用の新たな展望(New Horizons in Carbohydrate Research and Application for Endurance Athletes)」という、英国の研究者による総説を取り上げる。論文全体はイントロダクションに続き、(1)競技会や高強度のトレーニングセッションにおける炭水化物の重要性、(2)トレーニングでの炭水化物摂取の適用、(3)炭水化物摂取量の個別化――という三つのテーマでのナラティブレビューとしてまとめられている。ここでは(1)の要旨を中心に紹介する。

持久系アスリートのための炭水化物研究とその適用のオーバービュー

イントロダクション

エリートアスリートのパフォーマンスにとって最も重要なエネルギー基質が炭水化物であることは、現在では広く認識されている。しかし、過去には常にそうであったわけではない。近代オリンピックがスタートした1896年当時、タンパク質がアスリートにとって最も重要なエネルギー源であると考えられていた。ただし、パフォーマンスに対する炭水化物の重要性を示す研究は早くも1920年代に現れ始め、1960年代から精力的に研究が行われ、1976年のモントリオールオリンピックでは、アスリートとコーチの間で炭水化物の重要性が認識されていた。その後の研究で、炭水化物摂取によるパフォーマンス向上、回復促進、外傷予防のメカニズムが明らかにされてきている。

競技会や高強度のトレーニングセッションにおける炭水化物の重要性

大会前

炭水化物の貯蔵量が運動パフォーマンスに影響を与える可能性があることは、数十年前に指摘されるようになった。筋グリコーゲンの貯蔵量は、トレーニングと食事により増やすことが可能であり、高度にトレーニングされた集団では793±17mmol/kgドライウエイトまで増加する可能性がある。一方、疲労時には、トレーニングを行っていない集団では190±90mmol/kgドライウエイト、トレーニングを行っている集団でも280±90mmol/kgドライウエイトとのデータが報告されている。

これまでに、大会に備えたグリコーゲンロード戦略がいくつか提案されてきている。例えば競技の36~48時間前に10~12g/kgの高炭水化物食が推奨される。ただし、この時間内にもアスリートはトレーニングを行うことが一般的であり、さらに自転車競技などでは競技期間が連日におよび、回復に当てられる時間が24時間未満であることが多く、大会前の筋グリコーゲン濃度を維持することは困難であることが明らかになっている。これにいかに対処していくかは今後の研究課題の一つであろう。また、グリコーゲン貯蓄は水分の保持を伴うため、アスリートの体重増加につながりパフォーマンスに影響を及ぼし得るという視点での研究も望まれる。

一方、肝グリコーゲンにも筋グリコーゲンと同様に、超代償という現象が生じるのかという点のエビデンスはまだ確立されていない。その一方で、筋グリコーゲンは通常、ひと晩の絶食中に大幅に低下することはないが、肝グリコーゲン貯蔵は大きく低下し得ることが、見過ごされがちだ。競技が午前中に行われる場合、前夜からの肝グリコーゲンレベルに留意することが必要だろう。

競技中

持久系競技の運動中の炭水化物摂取がパフォーマンスを向上させることについては、十分にエビデンスが確立されている。これには二つのメカニズムが提案されており、第一に炭水化物が口腔内で感知され、特定の脳領域の活性化を引き起こして中枢神経系の刺激につながること、第二に運動中のATP形成の源となるとともに、安定した血糖値を維持して筋グリコーゲンが減少しても炭水化物の酸化が維持されることである。

最長3時間の運動セッションでは、グルコースやフルクトースなどの急速に酸化される炭水化物を最大60g/時とすることが推奨されている。ガラクトースは酸化されにくいため運動中の摂取は推奨されていないが、最近の研究では適度な速度で摂取した場合、酸化速度が制限されないことも示されている。

一方、現時点では90g/時を超える炭水化物摂取は、追加のメリットをもたらさないと考えられており推奨されていない。ただしこの点についても最近、高度にトレーニングされたアスリートで120g/時の炭水化物摂取が90g/時に比べて高い酸化を示したことが報告されている。

環境要因

近年、低酸素または暑熱環境での炭水化物代謝の変化に関する研究が行われるようになってきた。低酸素状態では外因性炭水化物の酸化能力が低下するというデータがある。また、高地馴化によって、外因性炭水化物の酸化能力低下が抑制されるというデータもある。

一方、暑熱環境でも外因性炭水化物の酸化能力が低下し、グリコーゲン分解の増加が生じるという。暑熱馴化が外因性炭水化物の酸化速度の低下を抑制し得るかという点は、まだ研究されていないようだ。

競技後

競技後の炭水化物摂取の主な目的は、肝臓と筋肉のグリコーゲン貯蔵の回復にある。筋グリコーゲンが完全に補充されるには24~36時間、肝グリコーゲンの完全な補充には11~25時間が必要とされる。

現在の栄養ガイドラインでは、最初の4時間でグリセミックインデックスが中程度から高値の炭水化物を1.0~1.2g/kg/時で、なるべく早く摂取することを推奨している。しかし、とくにエリートアスリートの場合、これは単純すぎる可能性がある。研究報告を精査すると、1.2g/kg/時よりも高用量、すなわち1.6g/kg/時程度が用いられることがある。ただし、これが有利な戦略なのか否かの判断には、今後の研究が必要。

以上、(1)競技会や高強度のトレーニングセッションにおける炭水化物の重要性という項目から、一部の内容を紹介した。これ以降は、(2)と(3)の中から、それぞれ1項目ずつのみをピックアップする。

トレーニングでの炭水化物摂取と個別化戦略

脂質酸化を増やすトレーニング

炭水化物の利用可能性を制限するトレーニングの試みがなされるようになってきた。これは、そのようなアプローチによって、競技中の脂肪の酸化速度の増加につながり、内因性の炭水化物貯蔵を節約してパフォーマンスを向上させるという考え方に基づく。ただし、エネルギー基質の利用率は運動強度、トレーニング状態、性別、急性および/または習慣的な食事などの多くの要因に影響を受けるため、この考え方は単純すぎるように思われる。

脂肪を酸化する能力はトレーニング状態の改善と自然に結びつくべきであり、運動中の脂肪の酸化速度を変えるための栄養/トレーニングの変更は、望ましいトレーニング状態が達成された後にのみ考慮されるべきだと言える。言い換えれば、脂肪の酸化率を高めるという取り組みが、有酸素能力を向上させるという目標の前に置かれるべきではない。なお、脂肪の酸化を促すとするトレーニングと食事が、持久力パフォーマンスの向上につながるかという点の研究も欠かせない。

炭水化物摂取量の個別化

最近、最適なパフォーマンスを得るために運動中の炭水化物摂取量をパーソナライズすることを目的として、持久系アスリートの間で連続的血糖測定デバイスの使用が増えている。これらのデバイスは、糖尿病治療の分野で豊富な歴史があり、その有用性は明確に実証されている。血糖値の変動がアスリートに何らかの影響を与えること(例えば回復速度など)が立証された場合には、これらのデバイスを使用することも推奨されるだろう。

文献情報

原題のタイトルは、「New Horizons in Carbohydrate Research and Application for Endurance Athletes」。〔Sports Med. 2022 Sep 29〕
原文はこちら(Springer Nature)

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