スポーツリハビリテーションにおける栄養の役割と可能性
今回は、スポーツリハビリテーションにおける栄養戦略の可能性を考察したナラティブレビュー論文を紹介する。ギリシャやブルガリアの研究者によるもので、ビタミン、ミネラルのほか、カロテノイド、コラーゲン、クレアチンなど、主として微量栄養素について、これまでのエビデンスからの考察が述べられている。
イントロダクション
アスリートが外傷によって普段どおりのトレーニングを行えず、それが長期に及ぶ場合、筋肉量や筋力の低下と身体機能の低下を来す。そのような反応を抑え、早期の復帰を可能とするためのリハビリテーションは戦略的に進めていく必要があり、栄養もその重要な一部といえる。
リハビリテーションの初期段階では、創傷治癒促進のために十分なエネルギーと栄養素の摂取が必要とされ、怪我からの回復段階にはそのレベルに応じた適切な栄養素摂取が求められる。主要栄養素である炭水化物、タンパク質に関しては、既に多くの研究や検討が行われてきている。それに対してリハビリテーションでの微量栄養素に関してはあまり検討がなされていない。本論文の著者らはこれを「非常に大きな可能性を秘めた未開発の領域だ」としている。
以下、論文では、栄養素ごとにこれまでの知見をまとめている。それぞれの一部を抜粋して紹介する。
カロテノイドとポリフェノール
果物や野菜には約600種類のカロテノイドが含まれており、β-カロテンは最も一般的。一部のカロテノイドはビタミンAの前駆体として、他のカロテノイドは抗酸化物質として作用する。複数の研究から得られた知見は、活性酸素種(reactive oxygen species;ROS)の増加によって生じる酸化ストレスによる健康障害に対し、カロテノイド摂取の抗炎症および抗酸化作用の有用性を支持している。
レスベラトロールなどのポリフェノールや、ケルセチンやカテキンなどのフラボノイドも、酸化ストレスから筋肉を保護する作用が注目されてきた。しかし、筋肉量や筋力、身体能力に対する潜在的なメリットは確認されていない。とはいえ、フラボノイドは、その抗酸化作用により、怪我や炎症の治癒機転を促進する可能性がある。毎日の食事に含まれるフラボノイドが、重度損傷からの回復に有用とする報告もみられる。関節疾患に対しては、身体活動とフェノール化合物摂取の組み合わせによる、軟骨組織の恒常性に対するプラスの効果が報告されている。
ビタミンD
世界中で10億人がビタミンD不足または欠乏症の状態にあると推定されている。ビタミンDは骨代謝だけでなく、筋肉の成長と細胞の分化にもプラスの影響を与えるようであり、さらに筋肉の収縮性を高める可能性もある。また、in vitroの研究では、ビタミンD受容体が、損傷後の筋肉幹細胞で発現するという。ただし最近のレビューでは、いかなる供給源からのビタミンD補給も、高齢者の筋肉量に影響を及ぼさないとされた。一方、ランダム化比較試験のメタ解析では、健康な成人におけるビタミンD補給は、上肢および下肢の筋力の増加と有意に関連していた。
ビタミンC、E、A
これらのビタミンは「抗酸化物質」と呼ばれることがあり、リハビリ中の摂取を支持する考え方が広がっている。ランダム化比較試験では、一般集団ではビタミンC補給は支持されなかったが、ビタミンC需要が増加している手術患者などでは有用な可能性もある。
ビタミンEについては、脊髄損傷後のラットにビタミンEを補給すると、後肢の自発運動機能が改善され、脊髄の組織病理学的評価が改善し、炎症が抑制されたという報告がある。ただし、リハビリ中は抗酸化物質の摂取が必要だが過剰摂取は推奨されない。大量のビタミンA、Eの補給によって、筋力トレーニング後の骨密度の改善が妨げられる可能性が報告されている。
クレアチン
クレアチンはアスリートのエルゴジェニックエイドとして多くのエビデンスがある。それに比べると、身体活動量が低下している期間の筋損失に対する影響という点でのエビデンスはまだ明確でない。しかしながら、上腕固定後の筋肉量と筋力の損失が、20g/日、7日間のクレアチン補給で抑制される可能性を示す報告などもある。ただし、腕と脚の筋肉で、この反応は異なるようだ。
この報告以外にも、リハビリ中のクレアチン摂取の有用性については複数の研究があり、怪我による安静期間中の筋肉量の低下抑制や、脊髄損傷パラアスリートの運動能力向上を示唆する研究などがみられる。
ゼラチン、ビタミンC/コラーゲン
腱や靭帯の損傷の予防と治療に、コラーゲンタンパク質とビタミンCなどの微量栄養素による栄養サポートの有用性が報告されている。リハビリへの適用、エリートアスリートでの効果はいまだ不明だが、コラーゲン産生の増加と痛みの軽減をもたらす可能性がある。
ミネラル
マンガン、銅、亜鉛、鉄、セレンなどのミネラルは抗酸化物質として作用する。マグネシウム、鉄、セレンなどの適切な摂取は、筋肉の収縮、酸素輸送、抗酸化能力などに関与している。
オメガ3脂肪酸
不飽和脂肪酸は、抗炎症作用と免疫調節作用を有する。外傷後や術後に炎症反応が遷延する場合、リハビリテーションに有害な可能性があり、活性酸素種の産生を低下させ筋肉の炎症を減少させるオメガ3脂肪酸の有用性を示唆する報告もある。また、オメガ3脂肪酸の長期摂取は、アミノ酸に対する同化感受性にメリットをもたらす。ただし、リハビリテーションにおける適切な投与量に関しては、さらなる議論が必要とされる。
チームリハビリテーションにおける栄養士の役割
これらの微量栄養素をリハビリテーションの推進のためにアスリートに推奨するには、さらなる研究が必要である。最適なリハビリテーションには、医師と看護師、理学療法士、栄養士からなる学際的なチームが求められ、そのなかで栄養士には、アスリートのニーズと好みを考慮し、リハビリ中の栄養に関する最新のガイドラインに従い、個別の栄養プログラムを計画するという重要な役割が期待されている。
文献情報
原題のタイトルは、「The Key Role of Nutritional Elements on Sport Rehabilitation and the Effects of Nutrients Intake」。〔Sports (Basel). 2022 May 26;10(6):84〕
原文はこちら(MDPI)