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視覚障害者のスポーツ参加率を国ごとに比較 低所得国で低い傾向が明らかに

国ごとの市民のスポーツ参加率は、高所得国で高く低所得国では低いことが知られているが、このような傾向は健常者だけでなく、パラアスリートにもみられることが報告された。パラスポーツの中でもスポーツ参加へのハードルがより高いと考えられる、ブラインドパラアスリートで検討した研究結果。

ブラインドパラアスリートも居住する国の経済レベルの影響を受けている?

身体活動が肥満や糖尿病、心血管疾患、うつ病、癌などのさまざまな疾患リスクを抑制することは広く知られている。しかし障害者はその障害のために身体活動へのアクセスが制限されている。何らかの障害のある人の慢性疾患罹患リスクは健常者の約4倍に上るとされ、そのような関係の一部に身体活動量の少なさが影響を及ぼしていると考えられている。

とくに視覚障害者は身体活動量やスポーツへの参加率が低いことが報告されている。例えば、20歳以上の障害のない成人の平均歩数が9,964歩/日で、中~高強度運動(moderate to vigorous physical activity;MVPA)が23.5分/日であるに対して、視覚障害者では5,992歩/日、MVPA9.3分/日だとする報告がある。世界には3,600万人の失明者と2億1,700万人の視覚障害者が生活していると推計されており、それらの人たちの身体活動量を増やす施策が求められている。

一方、スポーツ人口はその国の経済状況の影響を受けており、高所得国では高く、低所得国では低い。ただしそのような傾向が、視覚障害アスリート(ブラインドパラアスリート)の人口にもみられるのかどうかは、これまで検討されていない。

国ごとの視覚障害者数対人口比とブラインドパラアスリート人口を対比

今回取り上げる論文の研究は、世界各国の視覚障害者数の対人口比と、視覚障害者のスポーツ参加率との関連を検討したもの。ブラインドパラアスリートの人口は、国際視覚障害者スポーツ連盟(international blind sports federation;IBSA)の2019年4月のデータを用い、123カ国・地域、2,500人のアスリートについて解析した。失明者や視覚障害者の対人口比は、世界銀行の2015年の年齢で標準化された値を用いた。

女性や低所得国では、視覚障害者のスポーツ参加が少ない

地域別の検討

まず、ブラインドパラアスリートの地域別の分布をみると、2,500人のうち西ヨーロッパが539人(21.56%)と多く、欧州全体では1,045人(41.80%)と4割を超えていた。アメリカ大陸も551人(22.04%)を占め、アジアは492人(19.68%)、アフリカ390人(15.60%)、オセアニア22人(0.88%)だった。

国際視覚障害者スポーツ連盟(IBSA)に加盟している123カ国・地域のうち、31カ国はブラインドパラアスリートが登録されていなかった。しかしそのうち22カ国の視覚障害者の人口比は世界平均よりも高い値を示していた。また、31カ国中17カ国は、アフリカと中東の国々だった。なお、2019年には40カ国でブラインドパラアスリートの登録数が増加し、21カ国で減少していた。登録数が最も増えた国はモロッコであり、最も減った国はモーリシャスだった。

日本が含まれる東アジアの国々のブラインドパラアスリート数に着目すると、最多は日本で85人、韓国がほぼ同数の83人、中国48人、台湾14人、香港6人だった。

性別・年齢層別の検討

性別にみると、1,762人(70.48%)と7割以上を男性が占め、女性アスリートは738人(29.52%)だった。大半の地域で男女比が2:1を超えており、とくに南ラテンアメリカ(68:15)とカリブ海地域(12:1)で最も高いアスリート人口の性差が観察された。オセアニアは男女比が1未満の唯一の地域だった(4:7)。

年齢層については20~40歳が中心であり、他の年齢層より有意に多かった。ただし、中央ヨーロッパのみ、50歳以上のアスリートが他のすべての年齢層よりも多かった。

国民所得との関連

次に、世界銀行のデータに基づき、高所得国と低所得国に分類して比較検討した。

視覚障害者の対人口比は高所得国が1.35%であるのに対して低所得国は3.61%であり、後者が有意に高かった(p<0.001)。

南アジアは視覚障害者数が世界の28.86%を占め、視覚障害者の対人口比の高い地域だが、ブラインドパラアスリートは世界全体の0.88%を占めるのみだった。同様に、アフリカも視覚障害者が多いにもかかわらずブラインドパラアスリートが少なかった。

全体として、国民所得が低い国でブラインドパラアスリート数が少ない傾向があったが、相関は非有意だった。

視覚障害のある人の健康増進に、スポーツ参加率の向上を

論文の著者によると、本研究は視覚障害者の対人口比とそのスポーツへの参加との関連を検討した初の研究という。結論としては、「視覚障害者が多いにもかかわらず社会的なリソースが限られている国では、視覚障害者のスポーツ参加が進んでいないことが示された」と述べられている。また、とくに女性の視覚障害者のスポーツ参加が遅れているとしている。

これらの検討結果に基づき、「スポーツ関係者や各国政府・組織は、視覚障害者がスポーツに参加する機会の公平性の確保に向けて取り組むことが推奨される。このギャップを埋めることは、身体活動量が少ないことによる健康被害を最も受けやすいと考えられる、視覚障害のある人々の社会的包摂の推進につながる」と提言がなされている。

文献情報

原題のタイトルは、「Blind sports’ blind spot: The global epidemiology of visual impairment against participation trends in elite blind para sport」。〔J Rehabil Assist Technol Eng. 2022 Aug 29;9:20556683221122276〕
原文はこちら(SAGE Publications)

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