水球のポジション別の最適な栄養戦略とは? ハンガリー代表選手でのクラスター分析
ハンガリーの男子水球代表選手を対象とする研究から、競技のポジションによって体組成や栄養素摂取量が異なる傾向のあることが報告された。著者らは、アスリートへの食事摂取に関する推奨は、行っている競技ごとに規定するだけでなく、将来的にはポジションごとに既定する必要があると述べている。
水球のポジションごとに適した体組成があり、よって栄養戦略も個別化が必要
栄養がアスリートのパフォーマンスに重要であることは、今日では広く認識され、各競技の特徴を考慮した栄養戦略の個別化も進んでいる。水泳は水中での競技であり、他のスポーツと異なる点が多く、やはり固有の栄養戦略がとられる。ただし、水球選手の栄養戦略に関してはあまり研究が行われていない。水球も他の団体競技と同様に、ポジションによって適している体組成が異なると考えられ、よって最適な栄養戦略についてもポジションごとに既定する必要性が想定される。しかし、そのような視点で行われた研究は現在まで報告されていない。
ハンガリー男子代表レベルの19人の体組成や食事摂取状況などを分析
この研究の対象は、ハンガリーの代表として世界レベルで活動している男子エリート水球選手19人。年齢は25.2±3.4歳(範囲18~34歳)、競技歴15.2±3.4年、体重93.7±2.66kg、身長193.5±1.32cm。ポジションは、ゴールキーパー4人、ウィンガー7人、ディフェンダー3人、センター3人、シューター2人。
4カ月間のシーズンの前とシーズン終了後に、体組成の評価や血液検査、および健康関連QOLの指標であるSF-36を用いた評価を行い、それらの変化を把握。また、3日間の食事記録に基づき栄養素摂取量を分析した。
体格や体組成で2つのクラスターに分類可能
人体計測と体組成データに基づき、研究参加選手を2つのクラスターに分類できることがわかった。クラスターIは、ゴールキーパー4人とウィンガー7人の計11人、クラスターIIは、ディフェンダー3人、センター3人、シューター2人の計8人。両群の体格や体組成などに多くの有意差のある項目が存在した。
例えば、体重はクラスターIが85.672±9.002kg、クラスターIIは104.838±10.953kg、骨格筋量は同順に44.355±3.572kg、51.250±2.645kg、除脂肪体重77.018±6.196kg、89.738±4.63kg、全身水分量56.400±4.413L、65.175±3.323L、ミネラル5.235±0.544kg、6.419±0.445kgであり、基礎代謝量は2,033.091±133.767kcal、2,297.750±100.183kcalだった(すべてp<0.01)。また、体脂肪率は10.073±3.277%、14.650±5.545%で、やはり有意差があった(p<0.05)。身長については、クラスターIが191.090±4.056cm、クラスターIIが196.875±4.559cmであり、後者で高かったが群間差は有意水準未満だった。
2つのクラスターで、栄養素摂取量にも異なる傾向
この2つのクラスターの栄養素摂取量も、非有意ながら差異が観察された。
例えば、タンパク質摂取量は、クラスターIが1.24±0.296g/kg/日、クラスターIIが1.56±0.296g/kg/日、炭水化物は同順に2.09±0.643、2.87±0.643g/kg/日、脂質は0.77±0.23、1.18±0.316g/kg/日であり、体重あたりの換算値でもラスターIIのほうが高値だった。
よって摂取エネルギー量はクラスターIIのほうが高かった(20.87±3.526 vs 28.65±4.824kcal/kg/日)。なお、食物繊維の摂取量は類似していた(0.21±0.004 vs 0.24±0.005g/kg/日)。
著者は「これらクラスター間で観察された違いは、水球のプレーポジションに応じて、選手に特定の栄養上の推奨事項が必要であることを示している可能性がある」と記している。
シーズン中の4カ月での変化
次に、シーズン前とシーズン終了後の4カ月間での変化に着目すると、まず、SF-36で評価した健康関連QOLは、36項目のうちシーズン前後で有意差がなかったのは3項目だけであり、大半の評価項目について、アスリートの精神的および知覚的な状態に好ましくない変化が生じていた。またシーズン後に多くの選手が疲労を感じており、健康状態の好ましくない変化が認められた。
体組成については、ミネラルのみ有意な低下が認められた(p<0.01)。体重や体脂肪率、全身水分量、および基礎代謝量などは有意な変化がなかった。
栄養素摂取量に関しても、シーズンの前後で有意差は観察されなかった。ただしこの点について著者は、「恐らく標準偏差が大きいために有意差が検出されなかったのだろう」と述べている。
このほか、シーズン前からシーズン後に、ヘマトクリットと赤血球数の有意な増加が認められた(いずれもp<0.01)。これは、シーズン中に血液の酸素運搬能が上昇したことを表している可能性がある。
結論として著者は、「人体計測と体組成の特性に基づくクラスター分類は、水球のポジション固有のトレーニングと栄養に関する推奨事項を開発するのに役立つだろう」とまとめている。また、「検討対象アスリートは国際レベルで活躍しており、成功を収めていると言える選手であるにもかかわらず、炭水化物とタンパク質の摂取量は国際的な推奨値よりはるかに少なかった」と付け加えている。
文献情報
原題のタイトルは、「Hungarian male water polo players’ body composition can predict specific playing positions and highlight different nutritional needs for optimal sports performance」。〔BMC Sports Sci Med Rehabil. 2022 Sep 5;14(1):165〕
原文はこちら(Springer Nature)