持久系アスリートが試みる食事療法の種類やタイプは性別によって異なる
性差に焦点を当てた調査の結果、女性の持久系アスリートは男性に比べて何らかのダイエット(食事療法)を行っている人が多く、多くの場合、摂取量を制限するタイプの食事療法を行っていることが明らかになった。論文の著者らは、「スポーツ栄養士やコーチは、アスリートの摂食行動を評価し、適切な介入を行う必要がある」と述べている。
自主的なダイエットは頻繁に戦略が変更されやすい
アスリートがパフォーマンス向上のために、本人が理想と考える体型を得ようとして極端なダイエットを行うことが、摂食障害のリスクと成り得ることが知られている。体重が軽いことが有利と考えられやすい持久系競技では、摂食量を制限するというダイエットに取り組むアスリートも少なくなく、とくに女性では摂食障害の有病率が高いことが報告されている。
ただし、ダイエットの習慣はしばしば変更されやすいため、時間軸を考慮した研究が必要とされる。今回紹介する論文では、男性と女性の持久系アスリートを対象に、現在および過去のダイエットパターンを調査し、性差の検討を試みている。
調査方法と対象者の特徴
この研究のための調査は、2020年6月~2021年2月に18歳以上の持久系アスリートを対象に、インターネットによるアンケートとして実施された。世界各地の持久系アスリートのソーシャルメディアグループ(Facebook、Twitter、Instagram)などを通じて回答協力を呼びかけた。アンケートの質問項目は、現在ダイエットを行っているかや、過去に行ったことがあるか、行っている(いた)場合はそのダイエットのタイプ、ダイエットを止めていた場合はその理由などを質問した。
257人の持久系アスリートが回答し、26人は回答内容不足のため除外され、231人を解析対象とした。年齢38.5±13.3歳、男性46.3%、BMI23.9±4.3、白人が88.7%。週あたりのトレーニング時間は5.4±1.3時間だった。競技レベルは、プロアスリートが4.8%、学生アスリートが13.0%、元学生アスリートが15.7%で、他の66.5%はアマチュア/レクリエーションレベルだった。行っている競技は、トライアスロン36.4%、長距離35.5%、自転車20.3%が多く、その他、水泳、ボートなどがあった。
性別で比較すると、男性は女性より高齢で(p=0.011)、BMIが高値であり(p<0.001)、トレーニング量が多かった(p=0.016)。また、男性はサイクリストが多く、女性はランナーが多かった(p<0.001)。
食事療法を行っているアスリートでの性差
現在、計画的な食事療法を行っているとの回答は29.9%であり、性別による有意差はなかった。
食事療法のタイプとしては、「バランスのとれた食事(食品の選択と食事摂取量の認識)」、「植物性食品ベースの食事(ベジタリアン、ビーガンなど)」がそれぞれ26.1%を占めた。これを性別に比較すると、男性アスリートは「バランスの取れた食事」を行うオッズ比(OR)が4.4、女性は「植物性食品ベースの食事」がOR8.3であり、有意な性差が認められた。
食事療法を行う理由
食事療法を行う理由は、男性では「パフォーマンス向上のため」(OR9.8)、女性は「個人的理由、医学的理由」(OR4.4)が多くを占めた。また、全体の過半数の58.0%は食事療法の実践に「困難はない」と回答し、性別による差はみられなかった。
食事療法の継続期間は、72.1%が1年以上であり、女性は男性よりその割合が有意に高かった。
食事療法を行っていないアスリートでの性差
70.1%は現在、特定の食事療法を行っていなかった。食事療法を行わない理由は、規則に従いたくない(39.5%)、難解(25.3%)などが多く挙げられた。
55.6%は、現在は食事療法をしていないが過去に行った経験を有していた。性別にみると、女性は男性よりその割合が有意に高かった。
過去に行ったことのある食事療法
過去に食事療法を行った回数は、男性(2.0±1.3)より女性(3.0±2.0)のほうが有意に多く(p=0.002)、3回以上試みた割合にも有意差がみられた(p=0.022)。
過去に行った食事療法の種類は、炭水化物/エネルギー制限、植物性食品ベースの食事、および除去食が挙げられ、性別の比較では、女性はケトジェニックダイエット(p=0.047)、低炭水化物食(p=0.002)、エネルギー制限(p=0.010)を試みていた割合が有意に高かった。
また、グルテン/乳製品を含まない食事を試みたことのある男性はいなかったが、女性では22.0%存在していた。
臨床的摂食障害への進展予防に、コーチやスポーツ栄養士が関与を
全体的に、女性の持久系アスリートは、男性より頻繁に食事療法に取り組み、それを繰り返していた。著者によると、このような習慣は現在または将来の摂食障害のリスクの高さと関連する可能性があるという。そして、「我々の調査結果は、女性の持久系スポーツアスリートの食事療法が摂食障害に結び付く可能性があることを示している。したがって、スポーツ栄養士やコーチは、前向きに摂食行動を評価し、適切なプログラミング、教育、モニタリングを行う必要がある」と述べている。また、「コーチやスポーツ栄養士は、女性持久系アスリートの食行動が、臨床的な摂食障害に進展する前段階で、適切にカウンセリングやその他のサポートにつなげるべき」としている。
文献情報
原題のタイトルは、「The impact of dieting culture is different between sexes in endurance athletes: a cross-sectional analysis」。〔BMC Sports Sci Med Rehabil. 2022 Aug 17;14(1):157.〕
原文はこちら(Springer Nature)