柔道選手の急速な減量とパフォーマンスの関連 世界ランク150位以内の選手で検討
世界ランク150位以内のエリートレベルの柔道選手を対象に、試合前の急速な減量の実態を調査した結果が報告された。回答者の96%がなんらかの減量戦略をとっており、上位ランクの選手は下位ランクの選手よりも減量による負の影響が少ないこと、栄養士や医師のサポートが多いこと、若年期から減量を行っている選手はランクが有意に低いことなどがわかったという。
エリートレベルの柔道家の試合前の急速な減量(RWL)の実態を探る
柔道は言うまでもなく日本発祥の格闘技で、1964年の東京オリンピックから五輪正式競技となった。「柔よく剛を制す」ことを目指す伝統的武道ではあるが、格闘技としての公平性の確保のために体重階級制が設けられており、柔道アスリート(柔道家)の多くが有利な試合運びのために、試合前の急速な減量(rapid weight loss;RWL)を行っている。ただし、格闘技の試合前のRWLには健康への悪影響の懸念があることがしばしば指摘されてきており、またパフォーマンスに有利に働くとは限らないとする研究報告も少なくない。
今回紹介する論文は、スロベニアの研究者らによって、世界ランクのトップ150位以内の柔道選手のRWLの実態とパフォーマンスへの影響を、調査したもの。
6カ国後のアンケートで、世界各地のエリート選手に協力依頼
この調査はwebベースで行われた。2020年1月7日~3月7日に、柔道関連団体の公式サイトやいくつかの大会を通じて回答への協力が呼びかけられた。アンケートは、英語、フランス語、ポルトガル語、スペイン語、ロシア語、日本語という6カ国語が用意されていた。
回答のための適格条件は、男女それぞれ体重階級ごとの世界ランク150位以内に入っていること。なお、最重量級(男子100kg超級、女子78kg超級)の選手は、急速な減量(RWL)の必要がないことから対象に含まれていない。この適格条件に該当する1,800人(男女各6階級)のうち、257人がアンケートへの回答を開始し、全対象の7.7%にあたる138人から有効な回答を得た。
回答者の96.4%が急速な減量(RWL)を行っている
138人中、5人(3.6%)を除く133人(96.4%)が、何らかの急速な減量(RWL)を行っていると回答した。この133人には五大陸すべての選手が含まれていた(欧州連盟109人、アジア連盟、パンアメリカ連盟各10人、アフリカ連盟、オセアニア連盟各2人)。
性別は男子30.1%で、世界ランクは20位以内が15.8%、21~50位が27.1%、51~100位が20.3%、101~150位が36.8%。
世界ランク上位の選手ほど、RWLの負の影響が少ない
以下、急速な減量(RWL)を行っている133人での解析結果の一部を紹介する。
情報の入手経路、体重減少率、減量手段
急速な減量(RWL)や栄養戦略の基準は、自分自身の経験98%、他の選手80%、コーチ75%、インターネット73%、書籍66%、栄養士64%、医師29%など。
体重減少幅は平均5.8±2.3%、最大は13.0%、最小は0.7%。
手段は摂取制限97%、食品の変更94%、水分制限88%、サウナスーツの利用85%、トレーニング量の増加79%、サウナ/温浴76%、欠食/断食71%など。
急速な減量(RWL)、急速な増量(RWG)の影響
RWLにより生じるマイナスの影響は、エネルギーの減少感覚が91%で最も多く、その他に、集中力の低下、決断力の低下、気分の落ち込み、睡眠障害、消化器症状、失神/虚脱などが続いた。反対にプラスの影響としても集中力・決断力の向上が多く挙げられ、その他に、自信や攻撃への積極性の向上が挙げられた。
計量をパスした後の急速な増量(rapid weight gain;RWG)のマイナスの影響としては、過食が57%、消化器症状が51%に上り、また摂水開始後にもかかわらず試合当日の口渇を49%が挙げていた。
性・体重階級・年齢・世界ランク別にみた急速なRWLの影響
性・体重階級・年齢・世界ランクなどで層別化してRWLの影響を比較した結果は以下のとおり。なお、下記には記していないが、RWLのプラスの影響については、すべての層別解析で有意差がなかった。
性別
RWLでの減量の幅、RWLによるマイナスの影響、医師・栄養士のサポート、RWLを開始した年齢に、性別による有意差はなかった。
体重階級別
RWLでの減量の幅は、重量級より軽量級の選手のほうが大きかった(p=0.030)。検討したその他の因子(上述のRWLによるマイナスの影響、医師・栄養士のサポートなど)に関しては、体重階級による有意差はなかった。
年齢層別
RWLによるマイナスの影響は、高年齢の選手より若年の選手でより多く報告された(p=0.010)。また、高年齢の選手のほうが、世界ランクの順位が上位だった(p=0.000)。RWLでの減量の幅、医師・栄養士のサポートには、年齢層による有意差はなかった。
RWLを開始した年齢層別
19歳以上になってからRWLを開始した選手に比べて16歳以下でRWLを始めた選手は、RWLによるマイナスの影響を多く報告していた(p=0.014)。また、16歳以下でRWLを始めた選手に比べて19歳以上になってからRWLを開始した選手は、世界ランクの順位が上位だった(p=0.004)。RWLでの減量の幅、医師・栄養士のサポートには、RWLを開始した年齢層による有意差はなかった。
世界ランク別
世界ランクが上位の選手は下位の選手に比べて、RWLによるマイナスの影響の報告が少なかった(p=0.002)。また、世界ランクが上位の選手は、医師・栄養士がサポートしている割合が高かった(p=0.041)。加えて世界ランクが上位の選手は、RWLを開始した年齢が高かった(p=0.020)。RWLでの減量の幅は、世界ランクによる有意差がなかった。
キャリアの早い段階でRWLを開始すると、長期的な成功に悪影響を及ぼす
著者らは本研究を、「世界五大陸すべてのエリートレベル柔道家のRWLについて調査した初めての研究」と位置付け、「格闘技界、とくにコーチに対して貴重な情報を提供し得るもの」としている。結論としては、「柔道家のキャリアにおいて、適切な体重管理と適切なタイミングでのRWL戦略の開始が、エリートレベルでの成功に貢献する可能性がある」とまとめている。
また、考察の中で、「アスリートのキャリアの早い段階でRWLを開始すると、長期的な成功に悪影響を及ぼすという明らかにエビデンスが得られた。この点はとくに若年のアスリートとそのコーチに対し、重要なメッセージと言える」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Rapid weight loss among elite-level judo athletes: methods and nutrition in relation to competition performance」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2022 Jul 13;19(1):380-396〕
原文はこちら(Informa UK)