筋トレ後の酸化ストレスや筋損傷、抗酸化物質でどこまで抑制できるか 系統的レビュー
筋力運動後の酸化ストレスや筋肉のダメージの抑制を期待して抗酸化作用のある食品やサプリメントの摂取が、広く行われている。それらが実際にどの程度の役割を演じているのかを、これまで発表されてきた研究論文から探る、システマティックレビューの結果が報告された。タウリンによる筋損傷の軽減、ブルーベリーによる酸化抑制などを示唆する研究結果がヒットし、結論として、「抗酸化物質の摂取は、筋肉の損傷と酸化ストレスマーカーを抑制する可能性がある」と述べられている。スペインとチリの研究者による研究報告。
2011年以降に発表された論文を対象に文献検索
このシステマティックレビューは、PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analyses.システマティックレビューとメタ解析に関する優先報告項目)に則して実施された。検索に用いた文献データベースは、Web of Science、Medline、PubMed、Sport Discusという四つ。2011年1月1日から2021年1月1日までに、英語またはスペイン語で発表され、全文が公開されている論文を検索した。検索キーワードとして、筋力トレーニング、筋力、炎症、筋肉の損傷、酸化ストレスなどを設定。2名の研究者が独立して検索を行った。
適格基準は、研究デザインが無作為化比較試験であること、経口の抗酸化サプリメントを用いた介入を行っていること、筋力や筋損傷への影響を評価していること。除外基準は、英語またはスペイン語以外の論文、全文が公開されていない論文、学会報告やレビューおよびエディトリアル等の記事、不足している情報の提供を著者に求めた場合に応答のなかった報告。論文の採否の意見の不一致は、3人目の研究者を含めた協議により解決した。
一次検索で1,709件がヒットし、重複を削除後に1,690件になった。続いて、タイトルと要約に基づくスクリーニング、適格基準と除外基準への合致の判定により、最終的に7件の研究報告が残った。
7件の研究の特徴
7件の研究のサンプルサイズは、最小が9人、最大が100人であり、4件は男性のみ、1件は女性のみ、他の1件は男性と女性を含めていた。1件は研究参加者の性別を記載していなかった。平均年齢は20±0.7~39±8.7の範囲であり、体重は62±8~80±10kg、身長は167±7~179±6.04cmだった。
介入に用いられたサプリメントは、メラトニンが2件で、他の5件はそれぞれ異なり、ザクロ果汁、タウリン、ブルーベリー、コエンザイムQ10、オートミールが各1件だった。
研究の結果
7件の研究の結果は以下のとおりであり、評価項目の一部にネガティブな結果を報告していた研究も存在していたが、いずれも何らかのメリットを報告していた。
メラトニン
メラトニンによる介入研究は2件だった。
1件は、身体的に活発な男性24人(20.3±0.71歳)を対象とする研究で、メラトニン100mg/日の介入が細胞外および細胞内の酸化を防ぎ、酸化的ダメージから骨格筋を保護するとしていた。もう1件は、身体的に活発な男性14人(プラセボ群28.43±4.39歳、メラトニン群26±6.03歳)を対象とする研究で、メラトニン20mg/日の介入が抗酸化レベルの改善し、高強度のトレーニングによって生じるダメージに対する有益な効果をもたらすとしていた。
ザクロ果汁
身体的に活発な男性9人(21±1歳)を対象とする研究で、ザクロ果汁3錠(250mL)/日の介入による酸化ストレスに対する急性および遅延反応の回復の改善を報告していた。
タウリン
健康な男性21人(21±6歳)を対象とする研究で、タウリン50mg/kg/日の介入によるパフォーマンスの向上、筋損傷と酸化ストレスの軽減を報告していた。ただし、炎症反応の抑制効果は確認されなかったという。
ブルーベリー
身体的に活発な女性10人(22±1歳)を対象とする研究で、ブルーベリースムージー200g(ブルーベリー1kg)の介入による最大筋等尺性筋力の回復と抗酸化反応プロセスの亢進を報告していた。
コエンザイムQ10
100人(プラセボ群38.2±7.7歳、介入群38.9±8.7歳。性別の記載なし)を対象とする研究で、コエンザイムQ10を200mg/日摂取する介入による、酸化反応の抑制を報告していた。
オートミール
健康な男性11人と女性13人(23±1.2歳)を対象とする研究で、オートミール30gの介入による運動ストレスに対する血漿炎症反応の改善と筋損傷の軽減を報告していた。以上の結果から著者は、「運動セッションの直前または最中に抗酸化物質を急性摂取すると、倦怠感の遅延や回復期間の短縮などの有益な効果が得られ、筋肉の損傷と酸化ストレスマーカーを抑制する可能性がある」と結論づけている。
なお、自分が抗酸化サプリを摂取すべきか否かの判断にこの研究結果を参考にしようとする場合は、解析対象となった研究が、研究計画時点で公的研究機関への事前登録がなされていないことによる、出版バイアス(研究結果がネガティブな場合は論文発表されないことが多く、結果的にポジティブな研究結果が多く報告される)が存在する可能性の影響や、有害事象について多く述べられていないことなどを勘案すべきかもしれない。
文献情報
原題のタイトルは、「Effect of Antioxidant Supplementation on Markers of Oxidative Stress and Muscle Damage after Strength Exercise: A Systematic Review」。〔Int J Environ Res Public Health. 2022 Feb 5;19(3):1803〕
原文はこちら(MDPI)