スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2024 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

「ひきこもり」は栄養療法で改善できる可能性 ひきこもりを特徴づける血液バイオマーカーを発見 九州大学

ひきこもりを特徴づける血液バイオマーカーが発見された。九州大学の研究グループの研究によるもので、研究の成果が「Dialogues in Clinical Neuroscience」に論文掲載されるとともに、同大学のサイトにニュースリリースが掲載された。ひきこもりの栄養療法としての予防法・支援法の開発加速が期待されるという。

「ひきこもり」は栄養療法で改善できる可能性 ひきこもりを特徴づける血液バイオマーカーを発見 九州大学

研究の概要

6カ月以上自宅にとどまり続ける「社会的ひきこもり」の状態である人(ひきこもり者)は、国内で110万人を越えると推定され、とくにコロナ禍において、その予防法・支援・治療法の確立は国家的急務。九州大学病院では、世界初のひきこもり研究外来を立ち上げ、ひきこもりの生物・心理・社会的理解に基づく支援法開発を進めている。

今回、研究チームは、ひきこもり者の血液中の代謝物や脂質の測定により、ひきこもりに特徴的な血液バイオマーカーを発見した。未服薬のひきこもり者42名と、健常ボランティア41名の臨床データおよび血液データ(一般生化学検査値およびメタボローム・リピドーム解析による血中代謝物)を用いて比較検証を実施。臨床データと血液データをもとに、機械学習モデルを作成し、ひきこもり者と健常ボランティアの識別、ひきこもり重症度予測を行ったところ、長鎖アシルカルニチン濃度がひきこもり者で有意に高く、ビリルビン、アルギニン、オルニチン、血清アルギナーゼが男性ひきこもり者において健常ボランティアと有意差を認めた。ランダムフォレストによる判別モデルを作成したところ、ひきこもり者と健常ボランティアの識別ROC曲線下面積(AUC)が0.854と高い性能を示した。

ひきこもりは、オックスフォード辞書でも「hikikomori」と表記されており、日本発の社会現象として世界的に認知されている。またコロナウィルスパンデミックに伴って世界中にhikikomori者が急増していると懸念される。この研究は、日本人のひきこもり者を対象とした客観的指標(血液成分のバイオマーカー)に関する報告であり、今後、ひきこもりの生物学的理解が進み、栄養療法としての予防法・支援法の開発が期待される。

血液メタボロームと臨床データを使い、ひきこもり者に特徴的なバイオマーカーを探索。機械学習アルゴリズムを作成し、健常者とひきこもり者の分類、ひきこもり者の重症度予測、およびひきこもり者の層別化を高い精度で実施できることがわかった。

図1 研究の概要

研究の概要

血液メタボロームと臨床データを使い、ひきこもり者に特徴的なバイオマーカーを探索。機械学習アルゴリズムを作成し、健常者とひきこもり者の分類、ひきこもり者の重症度予測、およびひきこもり者の層別化を高い精度で実施できることがわかった。
(出典:九州大学)

研究のポイント

  1. 血漿メタボローム解析※1によって、ひきこもり者の血中では、健常者よりオルニチン※2と長鎖アシルカルニチン※3が高く、ビリルビン※4とアルギニン※2が低いことを発見。
  2. 男性のひきこもり者において、血清アルギナーゼ※2が有意に高いことを発見。
  3. 血液成分と臨床検査値の情報に基づく機械学習アルゴリズムを作成したところ、ひきこもり者と健常者を高い精度で識別し、また、ひきこもり尺度の重症化予測が可能に。

※1 血漿メタボローム解析:主に血漿中に含まれているさまざまな低分子化合物(代謝物・脂質分子)を網羅的に解析する手法。現在では、質量分析装置MSを使った測定法が主流。
※2 オルニチン、アルギニン、アルギナーゼ:アルギニンとオルニチンは尿素サイクルの代謝酵素アルギナーゼの基質と生成物に相当する。ちなみに尿素もこの反応で生成される。
※3 アシルカルニチン:アシルカルニチンは脂質代謝の中間体であり、脳や身体機能のエネルギー供給源として重要な役割を担っている。血中レベルの上昇は、アシルカルニチンの利用可能性が低下していることを示唆している。
※4 ビリルビン:ビリルビンは赤血球のヘモグロビンの分解産物であり、血流に乗って肝臓に運ばれた後、胆汁に排泄される。また、ビリルビンは血中の主要な抗酸化物質としても機能するとされている。

研究の背景と経緯

国内のひきこもり者数は既に100万人を超え、その対策は喫緊の課題。日本だけでなく海外でもひきこもり者の存在が示唆されており、コロナ禍において今後世界的な流行が懸念され、「Hikikomori」への世界規模の対策が望まれている。

これまで、ひきこもりは6カ月以上自宅にひきこもるといった特徴に基づいて評価されてきたが、厳密な診断評価法はなく、ましてや客観的指標で評価しようとする試みはなかった。

ひきこもりはうつ病を始めとするさまざまな精神疾患や身体疾患との並存が示唆されているが、詳細はほとんど解明されていなかった。本研究チームは、世界初のひきこもり研究外来を立ち上げ、すでにひきこもりに関する国際的な診断評価法を確立してきた。さらに、これまで質量分析による血漿メタボローム解析を駆使することにより、血液中のいくつかの代謝物がうつ病の判別や重症度に関連していることを報告し、客観的指標としての血液解析法を確立してきた。

研究の内容と成果

本研究チームは、世界初のひきこもり研究外来において、未服薬のひきこもり者41名と年齢・性別をマッチさせた健常者42名を対象に、血液メタボローム解析を行い、ひきこもり者を特徴づける血中成分(バイオマーカー)を探索した。

その結果、ビリルビン、アルギニン、オルニチン、アシルカルニチンがひきこもり者で変化していることがわかった(図2)。

図2 概要図

概要図

血中のオルニチン/長鎖アシルカルニチンの増加、およびビリルビン/アルギニンの低下はひきこもり者を特徴づける血液成分である。
(出典:九州大学)

また、男性では血清アルギナーゼが高値だった(図3)。

図3 血中のアルギナーゼ活性の増加は男性のHikikomori患者を特徴づける血液指標である

血中のアルギナーゼ活性の増加は男性のHikikomori患者を特徴づける血液指標である

(出典:九州大学)

続いて、血液成分と臨床検査値を加えた情報に基づいた機械学習判別モデル(ランダムフォレストモデル)を作成したところ、ひきこもり者と健常者を高い精度で識別することができることがわかった(図2)。さらに、部分最小二乗法(PLS)-回帰モデルによって、ひきこもりの重症度を高い精度で予測することができた(図4)。

図4 血液メタボローム+臨床検査値に基づき、ひきこもり者を識別するランダムフォレストモデル、およびひきこもり重症度を予測するPLS-回帰モデルの開発

血液メタボローム+臨床検査値に基づき、ひきこもり者を識別するランダムフォレストモデル、およびひきこもり重症度を予測するPLS-回帰モデルの開発

(出典:九州大学)

また、ひきこもり者の臨床像に基づく層別化(クラスター分類)に寄与する血液成分として、尿酸値とコレステロールエステルを新たに同定した(図5)。

図5 血中の尿酸値およびコレステロールエステルは、ひきこもり者の層別化に有効である

血中の尿酸値およびコレステロールエステルは、ひきこもり者の層別化に有効である

(出典:九州大学)

今後の展開

本研究の最も重要な点は、世界で唯一のひきこもりを専門とする九州大学病院ひきこもり研究外来において、厳密な評価に基づくひきこもり者の血液検体が収集され、未服薬の被験者のメタボローム解析を含む血液バイオマーカーを報告した最初のレポートであることだという。

研究グループでは、「ひきこもり者を特徴づけるいくつかのバイオマーカーについては、今後、栄養療法などの予防法・支援法の開発が進むことが期待される。また、ひきこもり者とうつ病患者など他の精神疾患との相違点の解明など、生物学的な理解が進むきっかけになることが考えられる」としている。

関連情報

ひきこもりを特徴づける血液バイオマーカーを発見〜ひきこもりの栄養療法としての予防法・支援法の開発加速に期待~(九州大学)
九州大学 引きこもり研究ラボ

文献情報

原題のタイトルは、「Blood metabolic signatures of hikikomori, pathological social withdrawal」。〔Dialogues Clin Neurosci. 2022 Jun 1;23(1):14-28〕
原文はこちら(Informa UK)

この記事のURLとタイトルをコピーする
志保子塾2024後期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ