マルチ成分サプリ vs カフェイン単独 ベンチプレスのパフォーマンスへの急性効果を比較
ベンチプレスのパフォーマンスに対する急性のエルゴジェニック効果を、複数の成分が含有されているサプリメントとカフェイン単独とで比較した研究結果が、ポーランドから報告された。被験者はどちらを摂取したか知らされず、研究者のみがそれを知っているという条件で、全被験者に療法の条件を試行する、単盲検クロスオーバー法による検討の結果だ。
サプリの急性効果に焦点を絞って比較検討
スポーツサプリメント、例えば、β-アラニン、カフェイン、タウリン、クレアチン、アルギニン、ビタミンB12、BCAA、ビートルート抽出物などは、それぞれ単独で摂取した場合にエルゴジェニック効果を発揮することに関して、エビデンスとしてのレベルに差はあるものの、複数の研究報告がなされている。それらの研究報告をベースとして、複数の成分を一つにまとめたサプリメント(マルチ成分サプリ)が多く販売され、実際に多数のアスリートが利用している。しかし、エルゴジェニックエイドとしてのマルチ成分サプリのエビデンスは、必ずしも豊富とは言えない。
一方、カフェインのエルゴジェニック効果については豊富なエビデンスがあり、アスリートの間で広く利用されている。この状況を背景として本論文の著者らは、マルチ成分サプリとカフェインのエルゴジェニック効果を、ベンチプレスのパフォーマンスを指標として比較検討した。研究の二次的な目的として、コストパフォーマンスの比較も含まれていた。
なお、スポーツサプリメントのエルゴジェニック効果は、摂取直後に現れる急性効果と、一定期間継続摂取することにより現れる慢性効果に大別可能だが、本研究は急性効果のみに焦点を当てていることに、解釈上の留意を要する。
15名のベンチプレス経験者に対し、3条件を試行
研究参加の適格条件は、年齢16~40歳の男性で、ベンチプレストレーニング歴が1年以上、体重の75%の重量を10回反復でき、健康で怪我がなく、サプリ成分に対するアレルギーのないこと。これを満たす15名(体重83.92±8.95kg、トレーニング歴5.6±3.38年)が研究に参加した。被験者に対しては後述の研究期間中、通常のライフスタイルを維持し、夜勤を含めて過剰な身体活動、および、サウナ、マッサージ、サプリメントの摂取などを禁止した。
研究デザインは単盲検クロスオーバー法で、初回はなにも摂取しない状態でベンチプレスのパフォーマンスを計測。10回連続でバーを持ち上げ、成功した場合は2.5kgを追加し180秒間の休息を挟んで試行。10回連続で持ち上げられた最大重量を個人の基準値とした。
72時間以上の間隔をおいて、マルチ成分サプリまたはカフェインを摂取し、その30分後に各人の基準値の重量を10回連続で持ち上げ、これを180秒間の休息を挟んで5セット続けて試行。さらに72時間以上の間隔をおき、前回とは異なるサプリを摂取後に同様にパフォーマンスを計測した。
なお、これら3条件はすべて同時刻に実施され、試行の2時間前に標準化された食事が提供された。また、ベンチプレスのパフォーマンスのほかに、覚醒レベル、気分状態、運動強度の自覚レベルなどの心理的パラメーターの評価を行った。
摂取されたサプリメントについて
被験者はサプリメントの種類(マルチ成分サプリかカフェインか)を知らされず、液体としたものを泡沫(フォーム)でフィルタリングし、区別がつかないようにして手渡された。
カフェインの用量は、文献的に最も一般的な6mg/kgとした。マルチ成分サプリは、含まれているカフェインが6mg/kgとなるように調整した。なお、本研究で用いたマルチ成分サプリは、カフェイン含有量が比較的高く、1回摂取量に300mgが含まれていた。マルチ成分サプリの成分量は、カフェインが499±54mg、β-アラニン4,986±539mg、シトルリンリンゴ酸塩4,986±539mg、アルギニン1,994±216mg、タウリン1,994±216mg、チロシン1,662±180mg。
カフェイン単独のほうが急性効果は優れる可能性
結果だが、まず、2条件の試行順序はパフォーマンスに影響を及ぼしていなかった(p=0.89、効果量d=0.02)。また、心理的パラメーターに関してはすべて、条件間の有意差はなかった。
それでは本研究の主題である、パフォーマンスへの急性効果の違いをみていこう。
3セット目の反復回数と、総反復数に有意差
摂取したサプリメントの種類にかかわらず、10回連続のベンチプレスを5回反復するという課題の回数を重ねるほど、バーを持ち上げられる反復回数が減少した。二つの条件を比較すると、1~2セット目、および4~5セット目は、反復回数に有意差がなかったが、3セット目はカフェイン条件のほうが有意に多かった(6.31±1.11 vs 5.92±0.95回,d=0.37)。また、5セットの反復回数の合計も、カフェイン条件のほうが有意に多かった(36.85±4.36 vs 35.85±4.36回,d=0.20)。
コスパが高いのはカフェインサプリ
次に、研究の副次的評価項目であるコストパフォーマンスについては、101種類の異なるマルチ成分サプリが検証された。これらのうち、8製品は成分量の情報不足などにより除外された。検討された製品は、57製品がポーランド国内で販売されており、36製品は輸入製品だった。一方のカフェインサプリは、21製品が錠剤、2製品は粉末だった。
カフェイン含有量とコストは以下のとおり。
ポーランド国内で販売されているマルチ成分サプリは平均カフェイン含有量が187.45±90.3mgで、1回摂取分のコストが2.52±1.41PLN(PLNは同国の通貨のズウォティ)。輸入マルチ成分サプリは202.91±109.06mgで、3.63±1.78PLN、錠剤カフェインは200mgで、0.25±0.07PLN、粉末カフェインは200mgで、0.05±0.03PLN。
つまり、カフェイン含有量のみで比較した場合、同国国内で販売されているマルチ成分サプリの価格は、錠剤カフェインの10倍、粉末カフェインの50倍に及び、輸入マルチ成分サプリはより高価だった。
多くの集団、多くの製品での調査が必要
この結果をもとに著者らは、「マルチ成分サプリは、多成分であるがために潜在的なエルゴジェニック効果が成分間の拮抗作用によって打ち消される可能性があることが示された」と述べている。また、マルチ成分サプリに用いられていることの多いクレアチンが、カフェインとの同時摂取により互いに効果を相殺するように働く可能性が、既に知られていることを指摘。それらの研究報告の多くが、被験者の消化器症状の影響を受けた結果である可能性は否定できないものの、スポーツサプリとして最も広く利用されているクレアチンとカフェインという2成分でさえ、相互作用により効果が相殺される可能性が高いことを問題視している。
結論として、急性効果をベンチプレスで評価するというこの研究条件では、「多成分サプリとカフェインは心理的側面への影響は差がなく、エルゴジェニック効果はカフェインのほうが高いと考えられ、またポーランド国内ではカフェインのほうが圧倒的に安価である」とまとめている。ただし、最終的な結論を得るには、「他の集団、他のサプリなど、さまざまな条件でのさらなる研究が必要」とも述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of Multi-Ingredient Pre-Workout Supplement and Caffeine on Bench Press Performance: A Single-Blind Cross-Over Study」。〔Nutrients. 2022 Apr 22;14(9):1750.〕
原文はこちら(MDPI)