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米国軍の最大の敵は「肥満」だった!? 新兵不足が深刻な問題に

世界最強の軍隊は米国の軍隊かと誰もが思っていることだろう。しかし、その米軍にも強敵がいるらしい。しかもその敵は、米軍の中に存在するという話だ。「The US Military's Battle With Obesity(米軍の肥満との戦い)」という記事が、「Journal of Nutrition Education and Behavior」に掲載された。要旨を抜粋して紹介する。世界には、無謀な侵略戦争を始めたために新兵不足が起きている国もあるようだが、その一方で米国は、肥満の蔓延で新兵不足が危惧されるような事態になっているようだ。

最強の敵は「肥満」だった!? 米国軍の新兵不足が深刻な問題に

イントロダクション:肥満で新兵不足?

肥満の有病率は、米国と、そして米軍内の若者の間で上昇し続けている。兵士の肥満は戦闘パフォーマンスの低下、医療費の増大などにつながる。また、一般人口に占める肥満者の増加に伴って、採用可能な新兵が減少してきている。

さらに近年の米軍はかつてよりも人種/民族の多様性に富んでおり、アフリカ系アメリカ人やヒスパニックの割合が上昇している。これらの人種/民族は、食料不安に直面している割合が白人より高いという社会経済的な影響もあり、肥満者や代謝性疾患の有病率が高いことが知られている。それもまた米軍に新たな対策を強いる一因となっている。

報告によると、米軍の肥満に関連する医療コストは年間10億ドルを超えるという。

第二次世界大戦後の学校給食プログラム

軍の兵士が体力や体組成の基準を満たしていないと、その兵士の筋力と心肺持久力が妨げられる。この点は第二次世界大戦中に重大な問題になった。戦後、学齢期の子どもたちが学校で健康的な食事を確実に食べられるような働きかけがなされ、1946年には国立学校の昼食プログラムが可決された。

もっとも、その当時の給食プログラム導入の必要性は、今日の肥満対策が求められる状況とは正反対の理由によるものだ。以来、米国では栄養強化が推進され、米国農務省のデータによると、1946年の供給可能なエネルギー量は1人1日3,300kcalだったが、2010年には4,000kcalとなった。

十分な食料が供給されるようになったことに加え、座業中心の生活習慣への変化が、米国の市民と軍人の肥満者率の上昇を招いた。米陸軍に入隊する兵士の肥満者の割合を評価した最近の研究によると、米軍の肥満の有病率は1989年から2012年にかけて増加したことが示された。著者らは、米国市民の体重がさらに増加し、体脂肪率がわずかに増加すると、極めて多数の兵士が軍隊に所属できなくなるとの予想を立てている。実際、米陸軍は既に、新兵の採用枠を満たすことが困難になりつつあるという。

栄養と食事が新兵の肥満を増やしている

米軍の指導者たちは兵士の健康を懸念しており、2010年と2012年に「戦うには太りすぎだ」とする報告書をまとめ、行動を呼びかけている。

2010年の報告によると、栄養と食事のパターンの変化が、運動のパターンの変化よりも、若者と青年の肥満率上昇に寄与していると述べられている。医学的な理由で入隊に至らない場合の主要な原因は肥満であるとし、報告書では問題と解決策の方法として小児期の栄養指導の重要性を強調。例えば、学校において栄養と運動プログラムを実施し、健康に問題のある食品(キャンディーなど)と高カロリー飲料(加糖飲料など)を学校教育の現場から除外することを提案している。

また2012年の報告では、身体活動に焦点を移しながらも、2年前の報告書で概説された健康的な学校給食の基準を維持することを推奨している。

新兵訓練担当軍曹が提示した3つの課題

新兵訓練担当軍曹は、新兵の指導、カウンセリング、訓練における重要人物だ。民間人を兵士に変えるプロセス、兵士の信念や態度の形成に大きな影響を及ぼす。ある新兵訓練担当軍曹と軍幹部による研究報告がある。それには、新兵が適切な栄養習慣を身につけるのを妨げている3つの課題を提起している。

その3つの課題とは、

  1. 新兵訓練担当軍曹たち自身が栄養に関する知識に自信がなく、新兵に対して影響力のある方法で情報を提示することができないこと、
  2. 基本的な栄養管理の概念が欠如している新兵訓練担当軍曹が一部存在していることを新兵は知っており、それが新兵の栄養に関する知識の重要性の認識不足を招いていること、
  3. 新兵訓練担当軍曹の中にも、戦闘パフォーマンスに栄養が重要であることを認識しつつ、基本的戦闘訓練(basic combat training;BCT)や高度な個別訓練(advanced individual training;AIT)における主題とは考えていない軍曹がいること。

これらの研究報告は、全体として、軍のリーダーシップが兵士のアイデンティティの発達とパフォーマンスに関連する行動に強く影響することを明らかにしている。つまり、リーダーを対象とした栄養教育の必要性があり、健康的な食事行動を実践するロールモデルとなり得るリーダーの存在が求められている。

肥満と戦う軍隊

2010年に陸軍に導入された「Soldier Fueling Initiative(兵士の栄養補給イニシアチブ)」は、兵士を教育しBCTやAITの訓練期間に、食品に関するより健康的な意思決定を促すためのプログラムだ。例えば、色分けを使用して健康的な食品の選択肢を示す。赤身のタンパク質を含むサラダは緑色(頻繁に食べる食品)、全脂肪の甘いヨーグルトの容器は黄色(適度に食べる食品)、菓子類は赤色(時々食べる食品)と表示される。このほかにも2014年に、米軍はヘルシーベースイニシアチブ(HBI)を開発し、肥満率の上昇や栄養不良の習慣と戦うための最良の方法を提案・実行しようとしている。

まとめると、これらのデータは、肥満のコストが高すぎ、国家安全保障へのリスクが小さなものでないことを示している。肥満の蔓延により、兵役に適格な男性と女性の数が大幅に減少した。米国政府と国防総省の継続的な努力にもかかわらず、肥満は米軍に天文学的な影響を及ぼし続けている。

現在進行中の複数のイニシアチブの有効性を評価し、できる限りこれらの取り組みを同期させるために、追加の調査や投資、リーダーシップの確立が必要とされる。

文献情報

原題のタイトルは、「The US Military's Battle With Obesity」。〔J Nutr Educ Behav. 2022 May;54(5):475-480〕
原文はこちら(Elsevier)

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