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断続的断食とケトン食の効果は? アスリートの健康とパフォーマンスに対するエビデンスの現状

断続的断食やケトン産生食によるアスリートの健康やパフォーマンスへの影響を、システマティックレビューで検討した結果が報告された。断続的断食に関しては、健康への一定程度のエビデンスが確認されたが、ケトン産生食に関してはコンセンサスの形成を得られるエビデンスは得られなかったという。スペインの研究者らの報告。

断続的断食とケトン食の効果は? アスリートの健康とパフォーマンスに対するエビデンスの現状

アスリート対象に行われた臨床試験を検索

減量・体重管理目的で時間制限食などの断続的断食や、ケトン産生食などを実践する人が増えている。さらに近年、アスリートの間でもそれらの食事スタイルが試みられるようになってきた。ただし、健康アウトカムやパフォーマンスにそれらの食事スタイルが及ぼす影響は明らかになっていないことから、本論文の著者らはシステマティックレビューによる検討を行った。

システマティックレビューとメタアナリシスのガイドライン(PRISMA)に則して、Pubmed、Web of Science、Cochraneなどの文献データベースを用いて文献検索を実施。検索キーワードは、有酸素制限、スポーツ、断食、筋力トレーニング、身体活動、高強度トレーニング、食事介入、ケトン産生食、カロリー制限、健康などを設定した。

適格基準は、アスリートのパフォーマンスや健康に対する断続的断食やケトン産生食の有効性を検討した、健康な成人を対象とする無作為化比較試験または無作為化されていない対照のある臨床試験であり、直近の7年間に英語またはスペイン語で発表された論文。2人のレビューアがタイトルと要約に基づくスクリーニングおよび全文精査を実施、採否の判断の不一致は、3人目のレビューアとの協議により合意を得た。

21件の研究を抽出

初期検索でヒットした報告は合計3万2,232報で、上記の工程を経て最終的に21件の研究が適格と判断された。

21件のうち14件は無作為化比較試験で、その他は無作為化されていないデザインで検討していた。研究参加者数を競技別に合計すると、143人が筋力トレーニング、76人が自転車競技、24人が競歩、21人が短距離、12人が過負荷トレーニング、8人が長距離であり、他の127人は参加競技が記載されていなかった。

断続的断食

4件の研究で、通常の食事から断続的断食への移行期間の最初の数日間に、身体的パフォーマンスが低下することが観察されていた。このうち2件の研究では、介入期間の最後の数日間にパフォーマンスの回復を認めていた。1件の研究では、断続的断食が最初の週のうつ、不安および倦怠感のレベルを増加させると説明していた。これら断続的断食でみられる悪影響は、食事スタイルの変更に伴う一過性ものの可能性がある。

インスリン感受性の改善などの代謝改善効果、血圧に対する断続的断食のメリットを説明する際、主として3つのロジックが用いられる。つまり、ケトーシス理論、酸化ストレス仮説、サーカディアンリズム仮説である。

ケトーシス理論は、総摂取カロリー量の減少に伴い脂質代謝が亢進し、脂肪貯蔵が減少するというものだ。酸化ストレス仮説は、細胞の炎症過程を減少させるミトコンドリア代謝に焦点を当てており、サーカディアンリズム仮説は、食物摂取のタイミングを変更することによって中枢および末梢レベルの双方で、概日リズムに影響が生じるというものだ。これらの理論に即して考えれば、断続的断食はアスリートのインスリン感受性を高め、エネルギー代謝を改善しパフォーマンスの向上に結び付く可能性がある。ただしパフォーマンスに関するエビデンスはほとんどなく、さらに多くの研究が必要。

時間制限食

断続的断食の一つのスタイルである時間制限食が、スポーツのパフォーマンスを低下させることはないとする報告がある。若年アスリートが週に2日の時間制限食を3カ月間継続したところ、高齢のアスリートに比較して、赤血球、白血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット、および好中球のレベルが上昇したという報告もあり、これは年齢に応じた栄養戦略の重要性を示唆している。

筋肉量の発達に関しては、筋肉量が減少こそしないものの、時間制限食を行っていない対照群のほうが介入群よりも有意な増加を示したというデータがある。ただし、そのような有意差は認められないとする報告も存在する。研究間の違いは、介入期間、介入中に実行された運動、および摂食可とする時間帯の長さに依存する可能性が高い。

3件の研究は、介入群での体脂肪量の有意な減少を報告していた。アスリートにおいても時間制限食は体脂肪減少のための優れた方法と見なすことができる。

ケトン産生食

2件の研究から、ケトン産生食を行った被験者で脂質代謝が有意に増加したことを報告していた。しかし、他の3件の研究は、対照群と介入群の間に有意差を示さなかった。この結果の違いは、研究参加者の背景の違いによるものと考えられるとの指摘がある。つまり、エリートアスリートである被験者の高いパフォーマンスが、介入の差を生じにくくするのではないか、と主張する報告がみられる。

3件の研究は、介入群で体重が減少したことを示した。しかし、そのうち2件では、除脂肪体重の減少を伴うことが報告されていた。また、対照群に比較しケトン産生食群では、運動パフォーマンスが有意に低下したとする複数の報告もみられた。女性アスリートを対象とした1件の研究は、ケトン産生食により持久力が低下すると結論付けている。

その一方、ケトン産生食が、より速い回復、炎症抑制、皮膚の健康へのメリット、幸福感につながるとする報告もある。

アスリートのケトン産生食に関しては、さまざまな種類の運動やスポーツレベルで、さまざまな介入時間、介入レベルによる、さらなる研究調査が依然として必要な段階と言える。

論文では上記以外の知見を含めた検討の結果として、以下のように結論がまとめられている。

「時間制限食は、アディポネクチンレベルとインスリン感受性を高め、激しい身体活動後のテストステロンとIGF-1レベルを調節するように働き、プロのスプリンター、およびレジスタンスアスリート双方の運動パフォーマンスを向上させる可能性がある。断続的断食開始後の最初の1週間以内はパフォーマンスが損なわれる可能性があるが、その後は回復すると考えられる。時間制限食を含む断続的断食は、除脂肪体重に大きな影響を与えることなく体重を減らす。

ケトン産生食は脂肪を燃焼することで体重を減らすが、除脂肪体重をも減らしてしまうリスクがある。パフォーマンスへの影響に関しては、現在まだ議論が続いておりコンセンサスに至っていない」。

文献情報

原題のタイトルは、「Efficacy of Nutritional Strategies on the Improvement of the Performance and Health of the Athlete: A Systematic Review」。〔Int J Environ Res Public Health. 2022 Apr 1;19(7):4240〕
原文はこちら(MDPI)

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