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グリコーゲン回復に必要な炭水化物量は? 国立スポーツ科学センターなどが日本人男性で検討

運動によるグリコーゲン枯渇からの回復促進には、炭水化物をどの程度摂取すべきなのだろうか?この疑問の答を得るため、被験者に体重あたり5g、7g、10gという異なる量の炭水化物を摂取してもらい、炭素磁気共鳴分光法で筋グリコーゲン濃度を比較するという研究が行われた。国立スポーツ科学センターの元永恵子氏らの研究によるもので、「Nutrients」に論文が掲載された。

グリコーゲン回復に必要な炭水化物量は? 国立スポーツ科学センターなどが日本人男性で検討

日本人での非侵襲測定法によるエビデンス

筋グリコーゲンは運動中の重要なエネルギー源であり、特に持久系スポーツでは筋グリコーゲン量がパフォーマンスに与える影響が少なくない。筋グリコーゲンを維持・回復するための炭水化物摂取量は、米国スポーツ医学会のガイドラインなどに推奨値が示されている。ただしそれらは主に白人対象の研究で得られたエビデンスを基にまとめられており、食習慣や体格、糖・脂質代謝の異なる日本人に適用可能かは確認されていない。また、これまでの研究では筋グリコーゲン濃度の測定に筋生検を行っている研究が多く、侵襲に伴う炎症が測定結果に影響を及ぼす可能性も指摘されている。

これらを背景として元永氏らは、日本人アスリートを対象に、炭素磁気共鳴分光法によって非侵襲的に筋グリコーゲン濃度を測定するという研究を行った。

8名の男子持久系アスリート対象に、3条件のクロスオーバー試験

研究参加者は、8名の持久系スポーツを行う男性アスリート。年齢は20±1歳で身長167.5±6.5cm、体重56.2±6.9kg、体脂肪率9.4±3.7%、VO2max55.8±6.0mL/kg/分。すべての参加者に、自転車エルゴメーターを用いた疲労困憊に至る約90分の運動を負荷して筋グリコーゲンを枯渇させた後、炭水化物を5g/kg/日、7g/kg/日、10g/kg/日を24時間で摂取してもらうという3条件の試験行う、クロスオーバーデザインで検討した。3条件の試行順序は無作為化し、試行には最低1週間以上のウォッシュアウト期間を設けた。

3回の試験はすべて同時刻にスタートし、運動負荷終了から1時間後にあたる13時に昼食、19時に夕食、翌朝7時に朝食を提供。それらの食事はエネルギー量が等しくなるように調整して研究者が提供した。

運動開始前、終了直後、4時間後、12時間後、および24時間後に、大腿筋の筋グリコーゲン濃度を測定。また、運動の前後と各食事の30分後に、インスリン値、グルカゴン値、血糖値を測定した。

各条件の摂取エネルギー・栄養素量と、ふだんの摂取量

運動終了後の3食に提供された食事のエネルギー量は、炭水化物5g/kg/日条件では3,186±286kcal、7g/kg/日条件では3,181±297kcal、10g/kg/日条件では3,207±297kcalだった。体重1kg当たりの炭水化物は同順に5.1±0.2g/kg、7.1±0.27g/kg、10.0±0.2g/kg、体重1kg当たりのたんぱく質は2.0±0.0g/kg、2.0±0.1g/kg、1.8±0.4g/kg、脂質は174±47g、125±52g、58±50gであり、炭水化物の多寡によるエネルギー量への影響が、脂質の量で調整されていた。

なお、試験前の3日間の食事記録から把握した普段の摂取量は、エネルギー量2,685±524kcal、炭水化物377±89g(6.8±1.7g/kg/日)、たんぱく質97±25g、脂質81±23gであり、主要栄養素のエネルギー比率は同順に、56±6%、27±7%、14±2%だった。

炭水化物5g/kg/日では筋グリコーゲンが十分に回復しない可能性

運動負荷前の筋グリコーゲン濃度は、3条件同等であり、かつ、運動負荷後の濃度にも有意差がなかった(5g/kg/日条件から順に、運動負荷前の27.3±9.9%、29.4±18.0%、33.1±19.6%)。

回復中の筋グリコーゲン濃度は、4時間時点と12時間時点では条件間に有意差がなかった。しかし、24時間後の筋グリコーゲン濃度は、炭水化物5g/kg/日条件から順に、運動負荷前の81.7±21.8%、97.1±16.1%、100.1±12.9%であり、5g/kg/日条件は他の2条件に比べて回復の程度が有意に低かった(p<0.05)。

運動後0~4時間、4~12時間、12~24時間という3つのピリオドに分けて筋グリコーゲン回復の程度を比較すると、0~4時間と12~24時間は条件間の差がなく、4~12時間において、5g/kg/日条件の回復が少ないことが明らかになった。

なお、7g/kg/日条件と10g/kg/日条件との間には、有意差が認められなかった。

日本の一般的な食事による介入で得られたエビデンス

糖代謝関連パラメーターについては、血糖値の推移には3条件で有意差がみられなかった。しかし5g/kg/日条件のインスリン値は、昼食後において10g/kg/日条件より有意に低値であり、夕食後は7gおよび10g/kg/日条件より有意に低値だった。

著者らは、本研究の特徴の一つとして、スポーツ栄養サプリメントを用いずに、一般的な日本食による筋グリコーゲン回復を検討したことを挙げている。炭水化物源として提供された食材は、米、パン、パスタ、果物などであり、それらが肉や魚、野菜とともに用いられた。この点で、高炭水化物ながら低GIであり、日本人に無理のない介入と考えられるという。

一方、摂取エネルギー量をそろえるために、炭水化物5g/kg/日条件では脂質の割合が増えて高脂肪食となり、このような食事は消化吸収を遅らせ筋グリコーゲン回復に影響を及ぼす可能性もあるとのことだ。

論文の結論は、「日本の持久系スポーツアスリートの筋グリコーゲン枯渇後の炭水化物摂取量として、5g/kg/日の摂取では24時間以内の回復に不十分であることが示唆された。また、運動後4~12時間に認められた5g/kg/日条件での筋グリコーゲン回復の遅延は、食後のインスリン値が他の条件より低値であることと関連している可能性がある」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effect of Different Carbohydrate Intakes within 24 Hours after Glycogen Depletion on Muscle Glycogen Recovery in Japanese Endurance Athletes」。〔Nutrients. 2022 Mar 22;14(7):1320〕
原文はこちら(MDPI)

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