遠征の移動距離と勝率・得点・失点に関連はあるか? 豪州トッププロラグビーリーグNRLで検討
アスリートにとって遠征のための移動はパフォーマンス低下の懸念材料の一つだが、実際にその影響が生じる可能性が、男子ラグビーリーグの対戦成績を解析した結果として示された。移動距離が長くなるほど得失点差のマイナス幅が大きくなり、勝率も下がる傾向が認められたという。ただし、経年的にみると、最近は移動距離の成績への影響が縮小してきており、回復戦略などが奏効しているのではないかと著者は述べている。
ラグビーの勝率、得失点差と移動距離との間に関連はあるか?
誰でも旅行は疲れる。身体的な疲労に加え、緯度方向の移動では時差、経度方向の移動では寒暖差が加わる。リーグ戦に参加するアスリートの場合、それを繰り返すことになり、移動距離や参加試合数に応じて負荷が蓄積していくと考えられる。
今回紹介する論文は、オーストラリアとニュージーランドの男子プロラグビーチームのリーグである「ナショナルラグビーリーグ(National Rugby League;NRL)」の試合の記録を、移動距離との間に関連があるか否かという視点で検討したもの。NRLは1998年にスタートし、毎週16チーム間で8試合が行われている。シーズン中、選手は平均して2週間ごとに移動を繰り返す。
本研究では、NRLの公式Webサイトに掲載されている対戦成績のデータを基に、2007~19年の13シーズンの成績を移動距離との観点から遡及的に解析した。研究上の疑問点として、以下の三つが掲げられている。
- 移動はチームのパフォーマンスに影響するか?
- 移動がチームのパフォーマンスに与える影響は、13シーズンで変化したか?
- オーストラリアまたはニュージーランドの特定の州や地域を本拠地とするチームに、他のチームと異なる影響はみられるか?
解析に用いた指標について
13シーズンに、4,992件のデータが記録されていた(試合数としては2,496試合)。このうち、ホームチームが根拠地以外へ移動して試合をしたケースなどのイレギュラーなデータを除外し、2,352試合、4,704件のデータを解析対象とした。
移動距離は、Google Mapsを用いて、各チームのホームスタジアムから試合が行われたスタジアムまでの直線距離で評価した。チームパフォーマンスは、勝率と得失点差で評価した。
前記の2番目の研究目的のために、13シーズンを5分割(2007~09年、2010~12年、2013~14年、2015~17年、および2018年)した解析も行った。また、3番目の研究目的のため、根拠地により四つに分類(ニューサウスウェールズ11、クイーンズランド3、ビクトリア、オークランド各1)した解析も行った。
千キロ移動で得失点差-1.1点
まず、最初の研究目的である、移動距離のチームパフォーマンスへの影響については、13シーズン全体の解析から、移動距離が1,000km長くなるごとに、得失点差は-1.1点(95%CI;-2.0~-0.2)と有意にマイナス幅が大きくなるという結果が得られた。勝率は-2.7%(同-5.7~0.3%)と有意でないながら、低下する傾向にあった。
なお、アウェイ戦での成績は、勝利のオッズ比が0.56(同0.48~0.66)であり、有意に不利であることが確認された。
2010~12年以降は、移動距離と得失点差の関連が非有意に
次に、2番目の研究目的である、移動がチームパフォーマンスに与える影響の経時的な変化については、2007~09年のシーズンは1,000km移動した場合に勝率が有意に低く、得失点差も有意にマイナスとなっていたが、2010~12年以降は、2013~14年の得失点差への影響を除いて、有意性が消失していた。
NRLでは2007年から2019年にかけて、移動を要する試合数が増加している。それにもかかわらず、移動によるパフォーマンスへの影響は低下していた。この結果について著者らは、「移動に伴う疲労の管理、回復戦略が向上したこと、および、アスリートの専門性と身体的な発達が関係しているのではないか」と考察を述べている。
移動は必ずしも不利とならない可能性
続いて、3番目の研究目的である、特定の本拠地がチームパフォーマンスに与える影響については、オークランド(ニュージーランド)とビクトリア(オーストラリア)に本拠地があるチームは、勝率、得失点差ともに有意な影響はみられなかった。
一方、ニューサウスウェールズ(オーストラリア)に本拠地を置くチームは得失点差にわずかな有意なマイナスの影響があったが、勝率には影響がなかった。さらに、クイーンズランド(オーストラリア)に本拠地を置くチームは、得失点差、勝率ともに、移動による有意な負の影響が観察された。
ただし著者らはむしろ、ビクトリアに拠点を置くチームが、1,000kmの移動ごとに勝率が有意でないながら0.5%(95%CI;-3.4~4.4%)増加する傾向があり13シーズンで6回優勝していることを指摘し、チームパフォーマンスに対する移動の悪影響は相殺可能ではないかとしている。
本研究の限界点として著者は、移動距離以外の遠征に関連するマイナス要因を考慮していないこと、個々のアスリートのパフォーマンスへの影響は不明なことなどを挙げている。そのうえで、「移動はNRLの試合パフォーマンスに影響を与えていたが、その影響は経時的に減少してきていると示唆される」と結論をまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「The effects of travel on performance: a 13-year analysis of the National Rugby League (NRL) competition」。〔Sci Med Footb. 2022 Feb;6(1):60-65〕
原文はこちら(Informa UK Limited)