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ヒゲナミンに注意! 意図しないドーピングの危険がある植物中のアドレナリン類似物質

植物由来のβ2アゴニストであるヒゲナミンに関するレビュー論文が発表された。ヒゲナミンは、天然由来の栄養補助食品として流通している製品に含まれていることがある成分だが、2017年に世界アンチドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)の禁止リストに収載されている。論文の著者らは、ヒゲナミンが含まれていることを知らずにアスリートが摂取する可能性があるとして、意図しないドーピングのリスクの注意を喚起している。

ヒゲナミンに注意! 意図しないドーピングの危険がある植物中のアドレナリン類似物質

本論文は、ヒゲナミンに関する既報文献を検索し、知見をオーバービューしたものであり、抽出された文献を基にした考察が加えられている。一方でその前段に研究の背景として記されている、ヒゲナミンをとりまく現状の解説も参考になるため、ここではその前段部分も含めて、要旨を紹介する。

製品ラベルに、禁止されている成分名でなく、植物名が記されていることがある

植物は古くから重要な創薬シーズの一つであり、多くの民間療法として利用されてきているばかりでなく、西洋薬の中にも植物に由来する成分を活用したものが少なくない。さらに現在も植物が含むさまざまな物質の機能性が見つかりつつある。

アスリートの植物由来サプリメント(ハーブサプリ)の利用率が上昇していることも報告されている。ポリフェノール、カロテノイド、アルカロイド、フラボノイドなどの植物性化合物は、アスリートのパフォーマンスや回復を高める可能性をもっている。ただし、ハーブサプリの利用が意図しないドーピングのリスクとなる可能性もある。

植物性化合物を利用したサプリメントのすべてが、製品ラベルにその化合物の名称を記載しているとは限らない。また、化合質の名称ではなく、用いている植物の名称が記載されているケースも報告されている。

例えば、WADAは覚醒作用のあるメチルヘキサンアミン(ジェラナミン)を禁止リストに収載している。メチルヘキサンアミンは、フウロソウ科のゼラニウムやペラルゴニウムに含まれる化合物であるが、それらを利用したサプリの製品ラベルには、メチルヘキサンアミンが含有されていることが記載されていることは少なく、「ゼラニウム根抽出物」といった表現で記載されている。近年、オリンピック期間中にメチルヘキサンアミン陽性と判定されたアスリートが、複数存在する。

日本の研究者が強心作用のある化合物として同定したヒゲナミン

ヒゲナミンは、その構造がアドレナリンやノルアドレナリンに類似したアルカロイドで、β2受容体刺激作用を有する。1976年に、トリカブトの根から分離され、強心作用をもつ物質として同定された。中国や日本などではその抽出物が民間療法として利用されてきた。また欧州や北米でもサプリメントとして、抗肥満やパフォーマンス向上のために利用されている。

オランダの研究によると、2013~18年に分析された416のサプリメントのうち28製品がヒゲナミンを含んでいたという。これは、サプリメントに不適切に利用された成分(偽和物)として、カフェイン、シネフリン(アルカロイドの一種)、シルデナフィル(ED治療薬のバイアグラ)、およびイカリイン(フラボノイドの一種)に次いで、5番目に多く検出された成分だという。

ヒゲナミンを摂取すると2分後には心拍数と心拍出量の増加がみられる。それに伴い血圧が上昇し、また不整脈を惹起することがある。このような作用をもつため、WADAは2017年にヒゲナミンを禁止リストに追加した。現在、西洋薬にヒゲナミンを用いたものはないが、サプリには多く用いられている。2019年に報告された研究によると、24のサプリ製品からヒゲナミンが検出され、それらの大半は減量効果やエネルギー増強効果をうたっていたという。

ヒゲナミン含有植物のリスク評価

以上を踏まえ、本論文の著者らは、ヒゲナミンによるドーピングのリスクを検討するため、以下の文献レビューを行った。

文献検索には、PubMed、Google Scholar、Science Direct、Web of Scienceを用い、PRISMAガイドラインに則した検索を行った。キーワードとして、サプリメント中のヒゲナミン、ヒゲナミン検出、植物中のヒゲナミンなどを設定した。最終検索は2021年11月10日に行った。

一次検索で4,008報がヒット。重複の削除と論文タイトル、抄録に基づくスクリーニング、全文精査を経て、137件の研究をレビュー対象とした。論文ではこれ以降、抽出された報告をもとに、ヒゲナミンを含有する植物、例えばトリカブト属などの詳細な考察を加えている。

ヒゲナミンはハスやナンテンに高濃度

ここでは、その中から、リスク評価についてまとめられたパートのみを紹介する。

まず、植物別の比較検討からは、ハスのヒゲナミンの濃度は他の植物よりも高いことが明らかになったという。またナンテンの葉も高濃度であることがわかった。ナンテンの果実を含むのど飴の摂取後に収集された尿サンプルには、0.2~0.4ng/mLのヒゲナミンが含まれていたとのことだ。一方で、ナンテンの葉ベースの製品に関する薬物動態に関する研究はなされておらず、著者らは、「ナンテンの葉は咳や喘息の治療にも使用されていることを考えると、その安全性と危険性を明らかにするために、さらに多くの研究が必要とされる」と述べている。

本論文の結論としては、「意図しないドーピングは、過去20年の間に深刻かつ重要な科学的・社会的課題となった。意図しないドーピングの主な原因は、禁止されている化合物を含む食品サプリメントだ。意図しないドーピングを防ぐには、アスリートに対する注意喚起に加えて、サプリメントの成分の分析と管理の徹底が欠かせない。ヒゲナミンは、人類が長期間使用している多くの民間薬やサプリメントに含まれている。市販製品のラベルには、ヒゲナミンの使用や含有量に関する情報が不足している。アスリートがハーブサプリを安全に使用できるよう、さらなる調査が重要である」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Higenamine in Plants as a Source of Unintentional Doping」。〔Plants (Basel). 2022 Jan 27;11(3):354〕
原文はこちら(MDPI)

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