アスリートの膝蓋腱やアキレス腱の厚さは、1日の食事の回数と有意に関連している
アスリートの膝蓋腱(しつがいけん)やアキレス腱の厚さが、1日の食事の回数と有意に関連しているとする論文が発表された。食事回数が少ないアスリートのほうが、それらの腱の厚さが薄いという。著者らは、食事回数と腱の厚さの関連についての研究は他になく、得られた結果が何を意味するのかは慎重な解釈が必要としつつも、食事回数の多さがアスリートの組織外傷を減らす可能性があると述べている。
食事の回数は腱の構造に関連があるか?
ランナーのスポーツ外傷の発生率は報告により18.2~94.4%の範囲にあり、アキレス腱炎は9.1~10.9%、膝蓋腱炎は5.5~22.7%という罹患率が報告されている。これらが発症する前段階でエコーなどにより何らかの所見を把握できれば、アスリートが怪我のリスクに対して対策を立てることができる可能性がある。
一方、アキレス腱や膝蓋腱の構造に栄養関連因子が影響を及ぼす可能性が報告されている。また、近年は栄養素の摂取量のみでなく、その摂取タイミングによって身体の機能や構造への影響に差異が生じることが明らかになっている。ただし、アスリートのアキレス腱や膝蓋腱の構造をそのような視点で検討した研究は、これまで行われていない。
1日の食事回数が3回、4回、5回の3群に分けて検討
この研究の対象は、18歳以上の男性アスリート36人。行っている競技はさまざまであり、ランナーの場合は過去6カ月間に少なくとも週に50km以上走行しており、1kmを6分以内のペースでトレーニングを行っていることを適格基準とした。除外基準は、骨変性疾患、代謝性疾患、下肢の手術歴、過去3カ月以内の下肢の怪我、コルチコステロイド使用など。
1日の食事回数は、3回が10人、4回が11人、5回が15人だった。各群の特徴は以下のとおり。
食事回数 | 3回群 | 4回群 | 5回群 |
---|---|---|---|
年齢 (歳) | 40.5±8.29 | 34.9±9.35 | 31.6±10.6 |
BMI | 24.2±2.26 | 23.3±2.82 | 23±3.59 |
トレーニング 走行距離(km/週) | 58±27.4 | 57.6±30.3 | 53.1±20.6 |
トレーニング 時間(時間/週) | 10.1 | 10.2 | 12.5 |
膝蓋腱の厚さが食事の回数で有意に異なる
腱の厚さは超音波検査によって、長軸(縦断)像と短軸(横断)像とで評価した。なお、この測定は、筋骨格系の超音波検査に関する9年以上の経験を有する1人の検査技師によって行われた。
測定結果は以下のとおりで、膝蓋腱については食事回数が多いアスリートほど、縦断像、横断像いずれの評価でも、厚さが有意に薄いという結果が得られた。アキレス腱については有意な差が認められなかった。
縦断像 | 横断像 | |
---|---|---|
3回群 | 5.70 (4.10~7.40) | 4.34 (3.70~5.70) |
4回群 | 4.91 (3.20~7.10) | 4.10 (2.90~7.00) |
5回群 | 4.69 (3.40~6.00) | 3.68 (2.90~4.90) |
p値 | 0.047 | 0.036 |
効果量 (F) | 3.659 | 4.022 |
縦断像 | 横断像 | |
---|---|---|
3回群 | 21.4 (17~28) | 5.60 (4.20~7.20) |
4回群 | 22.2 (19.1~25.5) | 5.00 (4.30~7.50) |
5回群 | 22.2 (18.7~27.6) | 4.60 (3.30~6.10) |
p値 | 0.793 | 0.073 |
効果量 (F) | 0.234 | 2.986 |
食事の回数と腱の厚さとの間に有意な負の相関
膝蓋腱の厚さは、1日の食事回数が多いほど薄いという負の相関が認められた(縦断像ではピアソンの相関係数r=-0.384,p=0.02、横断像ではr=-0.406,p=0.01)。
また、アキレス腱については、横断像での厚さに関して、同様の負の相関が認められたが、縦断像では有意な相関はなかった(縦断像はスピアマンの順位相関係数sr=0.118,p=0.494、横断像ではsr=-0.386,p=0.02)。
縦断研究などにより追試が必要なpreliminaryな知見
著者らは「本研究は、アスリートの1日の食事の回数と腱の厚さに関する初の研究であるため、この結果を他の研究と比較することはできない」と述べたうえで、得られた結果を基にいくつかの考察を試みている。
まず、研究結果からは、食事の回数を減らすことで、持久系アスリートの組織の破壊を保護できる可能性が示されたとまとめている。その想定されるメカニズムとしては、食事を分割することにより、食後の炎症反応が抑制されること、糖代謝やポリオール代謝経路への負荷が軽減されることなどが挙げられるという。
一方で本研究には、サンプルサイズが小さいこと、食事の回数によって有意でないながら年齢差があったこと、食事の内容や筋力トレーニングなどの影響を考慮していないことなど、結果解釈に際して多くの限界点があることにも言及。結論としては、「1日の食事回数を増やすことは、ランナーの組織損傷を減らす可能性がある。ただし、これはpreliminary(予察的)なエビデンスからの単なる仮説であり、将来の縦断的研究での検証が必要とされる」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Patellar and Achilles Tendon Thickness Differences among Athletes with Different Numbers of Meals per Day: A Cross-Sectional Study」。〔Int J Environ Res Public Health. 2022 Feb 21;19(4):2468〕
原文はこちら(MDPI)