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運動によるお腹のダメージ「腸管バリア機能低下」をアミノ酸のシスチン/グルタミンが抑制

激しい長時間の運動後に生じる腸管バリア機能の低下を、アミノ酸のシスチンとグルタミンの摂取により抑制されるとする研究結果が報告された。早稲田大学と味の素株式会社の研究グループの研究によるもので、「European Journal of Nutrition」に論文が掲載されるとともに、早稲田大学のサイトにニュースリリースが掲載された。著者らは、「アスリートが抱える日々の激しい運動の反復により生じるコンディショニング低下に対する抑止策として、活用が期待される」と述べている。

運動によるお腹のダメージ「腸管バリア機能低下」をアミノ酸のシスチン/グルタミンが抑制

研究の背景:運動負荷による腸管のダメージへの対策は確立されていない

アスリート(とくに持久系アスリート)の多くが、運動中および運動後に腹部の不快感を経験していることが報告されている。これは、長時間または激しい運動による‘体温の上昇’と‘消化管機能の低下’によって、細胞に隙間ができ腸管透過性※1が亢進して、細菌や毒素が腸管内腔から血管内へ漏出しやすくなり、ダメージ(炎症)が生じているために起きている現象である可能性が示唆されている(図1)。

図1 運動による消化管における炎症発生のイメージ図

図1 運動による消化管における炎症発生のイメージ図

(出典:早稲田大学)

このような現象は、アスリートのコンディションあるいはパフォーマンスの低下と関係していることが考えられるため、スポーツ現場における抑止策を確立することは重要。

先行研究では、牛の初乳やポリフェノール、ビタミンE、クルクミンなどのサプリメントを用いた腸管バリア機能の低下の抑止策が検討されてきた。しかし、これらのサプリメントは入手が容易ではないことや、摂取量が多すぎることが問題点として挙げられる。そのため、多くのアスリートが、日常的に摂取しやすいような、入手が容易かつ低用量のサプリメントの開発や検討が急がれている。

※1 腸管透過性:腸におけるフィルター機能の働きを指す。通常、上皮細胞がきれいに並んで(細胞間の密着結合)バリア(障壁)を形成するが、激しい長時間の運動を行うことで、細胞に隙間ができ細菌や毒素が腸管内腔から血管内へ漏出する。

研究の目的:シスチンやグルタミンの可能性を探る

前記のサプリメント以外に、アミノ酸のシスチン※2の生理作用として腸管の炎症を抑制することが、細胞実験によって報告されている。また、グルタミン※3の生理作用として、激しい運動による腸管バリア機能の低下を抑制することが報告されている。しかし、シスチンとグルタミンの組み合わせによるサプリメントとしての摂取が、運動による腸管バリア機能の低下を抑制するかどうかは、これまで明らかにされていない。

そこで研究グループでは、シスチンとグルタミンの組み合わせによるサプリメントの摂取が、長時間の激しい運動による腸管バリア機能の低下に与える影響を検証した。

※2 シスチン:20種類あるアミノ酸のうち、体の中で作られるアミノ酸の一つであるシステインが二つ合わさったもの。
※3 グルタミン:血液中に最も豊富に含まれ、体の中で作られるアミノ酸。

研究の手法と結果:プラセボ対照クロスオーバー試験で検討

実験デザインは、全対象者が両試行に参加するクロスオーバー法※4を用いた(図2)。

健康な若年男性16名(平均年齢23歳)を対象に、サプリメントの摂取を1日3回、計6日間継続してもらった。サプリメントはプラセボ、および、シスチン+グルタミンの2つを用意し、各サプリメントの摂取期間をそれぞれ、プラセボ試行とシスチン+グルタミン試行※5とした。

なお、サプリメント摂取1回あたりのシスチンとグルタミンの含有量は、それぞれ、0.23gと1.0gとした。

運動は、トレッドミル(ランニングマシン)を用いたランニングとし、最大酸素摂取量の75%に相当する速度で1時間実施し、長時間の激しい運動となるように設定した。腸管透過性と腸管のダメージの評価には、それぞれラクツロースとマンニトールの比(L/M比)※6と腸管中脂肪酸結合タンパク質(I-FABP)※7の2つの測定項目を用いた。

図2 本研究のプロトコル図

図2 本研究のプロトコル図

(出典:早稲田大学)

※4 クロスオーバー法:複数の試行が存在する場合、個体要因を排除するために、全対象者が各試行間に休息期間(ウォッシュアウト期間)を設けながら、すべての試行に参加する方法。
※5 プラセボ試行とシスチン+グルタミン試行:プラセボ試行は2.46gのマルトデキストリンを1日3回摂取する試行とし、シスチン+グルタミン試行は0.23gのL-シスチン、1.00gのL-グルタミン、および1.23gのマルトデキストリンを1日3回摂取する試行。
※6 ラクツロースとマンニトールの比(L/M比):2種類の非消化糖類のラクツロース(Lactulose)、マンニトール(Mannitol)を含む試験液を摂取し、その吸収率の比(ラクツロースは透過しにくい糖類で、マンニトールは透過しやすい糖類)から腸透過性を評価する手法。腸管透過性の上昇は、腸を守る働きの状態が悪化していることを意味する。
※7 腸管中脂肪酸結合タンパク質(I-FABP):I-FABPは小腸粘膜に特異的に分布し、腸管がダメージを受けた際には、血中に放出される。そのため、血中におけるI-FABPの濃度は、腸の粘膜の状態を意味する指標となる。

ランニング後のL/M比とI-FABPは、シスチン+グルタミン試行でプラセボ試行よりも有意に低い値を示した。

この結果は、シスチン/グルタミンのサプリメントを1日3回、計6日間継続して摂取することで、長時間の激しい運動による腸管バリア機能の低下が抑制される可能性があることを意味している(図3)。

図3 本研究の結果

図3 本研究の結果

Placebo試行よりもCys2/Gln試行で、L/M比およびI-FABPの値が有意に低い値を示すことが確認された。
*:試行間で統計学的な有意な差が認められた
(出典:早稲田大学)

研究の波及効果や社会的影響

激しい長時間の運動による腸管バリア機能の低下は、高温・多湿環境下では熱ストレスが運動による消化管へのダメージをさらに増大させるため、より顕著に表れる。しかし、本研究のように、高温環境下での運動でなくとも腸管バリア機能が低下することが確認され、シスチン/グルタミンの摂取によってその機能低下が抑制されることが確認された。

本研究結果の現場への汎用性として、低用量のシスチンとグルタミンサプリメントを継続的に摂取することで、アスリート(とくに持久系アスリート)の多くが長時間の激しい運動中と運動後に経験しているとされる、腹部の不快感の発生を予防し、ベストなコンディションでパフォーマンスを発揮できるようになることが期待される。

一方、今後の課題として、慢性的な運動トレーニングに伴い腹部に不快感を抱えるアスリートを対象として、シスチン・グルタミンの摂取によってそれらの症状が抑えられるかを調査する必要がある。

運動によるお腹のダメージ「腸管バリア機能低下」をアミノ酸のシスチン/グルタミンが抑制

(出典:早稲田大学)

プレスリリース

激しい長時間の運動後に生じるお腹へのダメージ アミノ酸のシスチン・グルタミン摂取により、激しい長時間の運動後に生じる腸管バリア機能の低下を抑制することを確認(早稲田大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of oral cystine and glutamine on exercise-induced changes in gastrointestinal permeability and damage markers in young men」。〔Eur J Nutr. 2022 Feb 1〕
原文はこちら(Springer Nature)

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