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格闘技による怪我を栄養で予防し回復を促す 現在のエビデンスからの考察

格闘技アスリートは、怪我をできるだけ少なくし、受傷した場合にはできるだけ速い回復を図ることが、選手生命を大きく左右する。そのような格闘技アスリートの怪我の予防と回復を、栄養でサポートするための戦略をまとめたレビュー論文が発表された。トルコの研究者の報告。要旨をまとめて紹介する。

格闘技による怪我を栄養で予防し回復を促す 現在のエビデンスからの考察

怪我の抑制と回復促進のためのスポーツ栄養

スポーツへの参加には怪我のリスクがつきまとう。多数のアスリートがキャリアを通じて少なくとも1回は怪我を経験する。怪我が治るまでの期間は競技への参加が困難であることに加え、トレーニングを十分に行えずに、競技パフォーマンス低下の懸念が募る。例えば、オリンピックの格闘技選手で競技中に受傷した場合、その約30%は回復に7日を要したと報告されている。

一方、アスリートの身体的および心理的健康や、スポーツのパフォーマンスのサポートに、栄養が重要であることが広く知られている。さらに、怪我のリスク抑制や受傷後の回復期間の短縮にも、栄養がなし得ることは少なくない。ただし、健康やパフォーマンスのサポートのための栄養戦略に関するエビデンスに比較し、怪我のリスク抑制や回復促進のための栄養戦略に関するエビデンスはごく限られている。

それでも最近、怪我の回復を促すための栄養補給に関する研究のレビュー論文が発表されるなど、エビデンスの蓄積と一般化が進められている。しかし、怪我のリスクがとくに高い格闘技のアスリートを対象に特化したレビューはまだ実施されていない。今回紹介する論文では、格闘技アスリートの怪我のリスクを減らし、受傷した場合の治療とリハビリテーションのプロセスを改善するためのさまざまな栄養戦略を提示している。

参考情報:
アスリートの怪我からの回復を栄養でサポートする スポーツリハ栄養戦略

格闘技での怪我の頻度、重症度、部位

格闘技アスリートの怪我の頻度については、例えば1,000分あたりの負傷率というデータが複数報告されている。それらから、オリンピックアスリートでは空手で39.2、ボクシングは13.8~20.4、テコンドーで16.3、柔道10.9、レスリング5.9などの数値がみられる。

怪我の重症度については、例えばボクシング(21.0%)よりもレスリング(39.6%)、柔道(35.9%)、テコンドー(32.5%)などのほうが、競技やトレーニングを7日以上中断する頻度が高いといった報告がある。怪我の発生率と重症度の双方を考慮すると、柔道が最もハイリスクだという。

怪我の好発部位は競技によって異なる。全体的に多いのは頭と首であり(35.9%)、次いで上肢(31.1%)、下肢(26.3%)が続く。ボクシングでは頭頸部(62.1%)が最も多く、柔道では上肢(42.6%)が最多。

急速な減量に関連する怪我のリスク

格闘技は体重カテゴリーが設けられている競技が多い。有利な条件で戦うために、試合前の急速な減量(rapid weight loss;RWL)を行うアスリートが少なくないが、そのために用いられる水分と食物の摂取制限、発汗促進、利尿薬や下剤の使用、嘔吐などはすべて、怪我のリスクの上昇につながる可能性がある。

簡単に言えば、RWLは血漿量の減少、心拍数の増加、心機能と体温調節の障害、電解質の不均衡、腎血流量低下、グリコーゲン枯渇、ホルモン分泌の不均衡、集中力の低下などを介して、アスリートの怪我に対する脆弱性を高める。韓国のレスラーでの研究からは、RWL中にはその他の期間に比べて有意に高い傷害率が示されている。また、RWL後に靭帯や関節および筋や腱の損傷が増えたとの報告もある。柔道家対象の研究からは、RWLを行っていない選手の受傷率は14%であるのに対して、RWLを行った選手の受傷率は48.7%だったという。

筋損傷、関節・結合組織損傷、骨損傷、脳振盪に対する栄養戦略

筋損傷に対する栄養戦略

筋肉の怪我は、スポーツに伴う怪我として最も一般的であり、重症度次第では身体活動の低下と不動化につながる。筋肉の喪失と同化抵抗を抑制し、傷害からの回復を促すため、アミノ酸とタンパク質の摂取を促進するという栄養戦略がとられる。また最近、抗酸化物質、クレアチン、およびω-3脂肪酸の機能性への関心が高まっている。

タンパク質に関しては摂取量を2.3g/kg/日に増やすと、エネルギーバランスが負の状態での筋肉の喪失が抑制されることが知られている。このことから、格闘技アスリートが受傷した場合、一般的な推奨(1.4g/kg/日)よりも高用量の摂取が必要かもしれない。タンパク質の摂取量を増やすときは、アミノ酸含有量も考慮する必要があり、とくにロイシンが重要。

クレアチンに関しては、リハビリテーション運動と組み合わせて摂取すると、2週間の脚の固定によって誘発された廃用性萎縮後の筋肥大が加速したといった報告がみられる。

関節・結合組織損傷に対する栄養戦略

関節や腱および結合組織も格闘技で最も頻度の高い受傷部位。これらの怪我によってパフォーマンスが低下し、時に動けなくなる可能性がある。筋損傷の回復に比較して、関節や腱および結合組織のダメージの回復過程は、完全に解明されたと言えないが、現在までの研究から、コラーゲンとゼラチンやビタミンCなどのサプリメントが有用であることが示唆されている。

骨損傷に対する栄養戦略

十分なカルシウムとビタミンDを摂取することは、骨折の治癒機転での最適な骨形成に重要な役割を果たす。ビタミンDレベルが低いと膝の手術後の回復が遅延するとの報告がある。また、800IU/日のビタミンDと2,000mgのカルシウムの補給が、女性の海軍新兵の疲労骨折リスクを減少させたとの報告もみられる。ただし一方で、過剰摂取のリスクがあり、依然として議論の余地がある。

脳振盪に対する栄養戦略

スポーツ脳震盪(sports related Concussions;SRC)は現在、軽度の外傷性脳損傷(traumatic brain injury;TBI)の一因として世界的に注目されている。米国スポーツ医学会によると、競技に用いられるプロテクターはSRCの発生率や重症度の抑制に十分な保護効果を発揮していないという。

TBIに対する栄養戦略として、抗酸化作用と抗炎症作用の応用が期待される。抗炎症作用を有するクルクミンは、ラットのTBI後の脳由来神経栄養因子の正常化に効果があったとされる。そのほかに、受傷前のビタミンD、C、Eレベルの重要性を示唆する動物実験の結果もある。

怪我のリスクの抑制と回復期間短縮のための栄養サポートが求められている

論文ではこれ以降も、「術前の栄養戦略」「怪我から回復しスポーツに復帰する際の栄養の役割」などについてのレビューがまとめられている。

結論としては、「スポーツの必然的な結果として、アスリートに怪我が発生する。とくに格闘技は、1対1のコンタクトスポーツであり、そのリスクが高い。格闘技アスリートに対しては、怪我のリスクを減らし回復期間を短縮するための栄養戦略に関する最新の知識を持つ、経験豊富なスタッフにアドバイスを求めるように奨励すべき」とされている。また、この領域の質の高い多くの研究が求められているとも述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutritional Considerations for Injury Prevention and Recovery in Combat Sports」。〔Nutrients. 2021 Dec 23;14(1):53〕
原文はこちら(MDPI)

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