チーズを食べた後の筋タンパク合成刺激作用は、濃縮乳タンパクを摂取した場合と同レベル
濃縮乳タンパク質の摂取による筋タンパク質の合成が亢進するが、チーズを摂取した場合もそれと同レベルの筋タンパク合成刺激作用が認められるとするデータが報告された。血漿アミノ酸濃度は濃縮乳タンパク質摂取後のほうが有意に高値だが、筋タンパク質の合成率には有意差が認められないという。
食品ベースの機能性を検討
乳タンパク質やその成分であるホエイやカゼインの筋タンパク質合成刺激作用に関する研究報告は少なくない。それに対して、食品ベースの研究、例えば乳製品を摂取後に筋タンパク質合成率がどのように変化するのかという研究は、極めて少ない。しかし、タンパク質の摂取に際して我々は通常、乳タンパク質の分離物や濃縮物ではなく、食事としてタンパク質が豊富な食品を摂取する。そのような食品には、摂取後の消化吸収や代謝に影響を及ぼすタンパク質以外のさまざまな栄養素が多く含まれており、食品マトリクスと呼ばれる。
近年、栄養素ベースではなく食品マトリクスとしての生体利用能や機能性への影響の関心が高まっている。本研究では、食品としてのチーズの機能性が濃縮乳タンパク質と比較検討された。
チーズは、西洋型食生活の一部として広く定着している。チーズの製造工程では、ホエイの多くが除去されるため、カゼインが多く含まれタンパク質密度が高く、エネルギー比ではタンパク質が58%を占める。よって著者らは、チーズの摂取により血漿アミノ酸濃度が上昇し、筋肉タンパク質合成が刺激されると仮定した。
なお、最近の研究から、乳製品の種類によって摂取後の血漿アミノ酸濃度は大きく異なることが示されているが、その違いが筋タンパク質合成刺激作用にどのように現れるかは明らかになっていない。著者らは、チーズ摂取後の血漿アミノ酸濃度の上昇幅は濃縮乳タンパク質摂取後よりも低くなり、その結果、筋タンパク質合成刺激作用も少ないとの仮説を立てた。
チーズ摂取と濃縮乳タンパク質摂取で、アミノ酸濃度と筋タンパク質合成を比較
この研究は、20名の健康な男性を対象に行われた。適格条件は、BMI18.5~30.0、年齢18~35歳。除外基準は喫煙者、タンパク質代謝に影響を及ぼし得る薬剤の使用、研究に使用するチーズまたは濃縮乳タンパク質に対するアレルギーとし、20人の健康な若い男性(25±4歳、BMI23.0±2.6)が採用された。
無作為に10名ずつの2群に分け、1群をチーズ摂取群、他の1群を濃縮乳タンパク質摂取群とした。参加者には研究実施の3日前から激しい運動を禁止し、2日前からは食事内容をできる限り変えないことを指示した。前日20時に標準化された食事(405kcal、タンパク質22%、炭水化物55%、脂質26%)を提供し、その後は絶食とした。なお、研究の性格上、盲検化はできなかったが、結果を解析した研究者は、割り付けを知らされていなかった。
7時間45分の絶食後の研究当日、両足から筋生検サンプルを採取た後、80%1RMの負荷でのレッグプレスとレッグエクステンションによる片足での抵抗運動を、倦怠感が生じるまで継続。また、運動を行う足は無作為化。運動を行う足では回復中の筋タンパク合成率への食品摂取の影響を検討し、運動を行わない足では安静時の食品摂取の影響を検討した。
運動直後にチーズまたは濃縮乳タンパク質を摂取
運動直後に、運動を行った足と行わなかった足の双方から筋生検サンプルを採取し、続いてチーズまたは濃縮乳タンパク質を、タンパク質として30g摂取してもらった。その後、30、60、90、120、180、240分後に採血し、また240分後には三度目の筋生検サンプルを採取した。
チーズは103gのスライスチーズであり、タンパク質30g(エネルギー比58%)、炭水化物0g(0%)、脂質19g(42%)で、292kcal。250mLの水とともに摂取された。
濃縮乳タンパク質は37gを300mLの水に溶解して摂取された。そのタンパク質は30g(91%)、炭水化物2g(6%)、脂質1g(4%)で、142kcal。
血漿アミノ酸レベルへの影響と、筋タンパク合成への影響は異なる
それでは結果について、血液検査値、筋タンパク合成の順にみていく。
インスリンやアミノ酸レベルに有意差
まず、糖代謝関連では、血糖値は両群ともに摂取による有意な変化はなかったが、摂取後180分と240分の値はチーズ群のほうが有意に高かった。一方、インスリン値はチーズ群では有意な変化がないのに対して、濃縮乳タンパク質群では30分、60分値がベースライン値より有意に高く、30分値についてはチーズ群との間に有意差が認められた。
また、血漿総アミノ酸濃度のピーク値も、チーズ摂取群よりも濃縮乳タンパク質群のほうが38%有意に高かった。
筋タンパク質合成率は両群で上昇し、有意差はない
では、本研究の主題である筋タンパク質合成率だが、解析は安静条件(運動を行わなかった足)と運動からの回復条件(運動を行った足)ごとに行われている。
安静条件
安静条件では、チーズ群はベースライン値が0.037±0.014%/時、摂取後4時間までは0.055±0.018%/時。濃縮乳タンパク質群は同順に0.034±0.008%/時、0.056±0.010%/時であり、両群ともに摂取により有意に筋タンパク質合成が亢進(p<0.001)。かつ、群間に有意差はなく、同レベルの筋タンパク質合成が観察された(p=0.64)。
回復条件
回復条件では安静条件よりも筋タンパク質合成が大きかった。チーズ群はベースライン値が0.031±0.010/時、摂取後4時間までは0.067±0.013%/時。濃縮乳タンパク質群は同順に0.030±0.008/時、0.063±0.009%/時であり、両群ともに摂取により有意に筋タンパク質合成が亢進(p<0.001)。かつ、群間に有意差はなく、同レベルの筋タンパク質合成が観察された(p=0.87)。
以上より、チーズ摂取は濃縮乳タンパク質に比較し、摂取後の血漿アミノ酸レベルの上昇は少ないものの、安静時および回復時の筋タンパク質合成への影響は同等であることが示された。
文献情報
原題のタイトルは、「Cheese Ingestion Increases Muscle Protein Synthesis Rates Both at Rest and During Recovery from Exercise in Healthy, Young Males: A Randomized Parallel-group Trial」。〔J Nutr. 2022 Jan 10;nxac007〕
原文はこちら(Oxford University Press)