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持久力パフォーマンスに対する炭水化物摂取の影響 約半世紀にわたる142件の研究のメタ解析

炭水化物の摂取が持久系スポーツのパフォーマンスにとって重要であることは、既に広く知られている。ところが、今回紹介する論文の著者によると、「意外なことに、これまで炭水化物摂取の持久力パフォーマンスへの影響を報告した研究を対象とするメタ解析は行われていなかった」という。そこで著者らは、1975年以降に発表された半世紀近くに及ぶ研究論文を対象とするシステマティックレビューとメタ解析を実施。その結果、炭水化物摂取のエルゴジェニック作用が改めて確認されたとのことだ。

持久力パフォーマンスに対する炭水化物摂取の影響 約半世紀にわたる142件の研究のメタ解析

炭水化物と持久力パフォーマンスのこれまでの研究

持久力を要する運動のエネルギー源としての炭水化物への関心の高まりは、20世紀前半に遡る。1939年には、低血糖が運動中の倦怠感の発現につながることが報告された。1960年代後半にはグリコーゲン貯蔵の重要性の理解が広がり、筋グリコーゲン含有量が高いほど持久力のパフォーマンスが高いことなどが報告されるようになった。1970年には、長時間運動中の炭水化物摂取によってパフォーマンスが向上する可能性が示され始め、サプリメントの開発も行われるようになった。

現在までに、炭水化物の摂取量が不十分な場合、パフォーマンスが低下することはかなり明確に示されている。それにもかかわらず、炭水化物の適切な摂取量、摂取タイミング、種類や組成などについては、いまだ議論の対象となっている。

このような背景のもと、本論文の著者らは、炭水化物摂取と持久力パフォーマンスに関する過去の研究報告を対象とするシステマティックレビューとメタ解析によって、現時点の知見の総括を試みた。

96件、142試験の報告を解析

PRISMA(システマティックレビューとメタ解析のための優先報告事項。preferred reporting items for systematic reviews)に準拠し、MEDLINEおよびSPORT Discusを用いて、2021年4月までに査読システムのあるジャーナルに発表された、ヒトを対象とする英語論文を検索。MEDLINEから3万6,605報、SPORT Discusから3,956報がヒットし、タイトルと抄録に基づくスクリーニング後、2名の独立したレビューアが、事前の定義に基づいて適格性を判定した。なお、バイアスのリスクを回避するために、レビューアはまず、研究方法を検討し次に結果を検討した。

最終的に抽出された研究報告は96件で、合計142試験が含まれており、被験者は炭水化物摂取群が1,560人、対照群が1,534人だった。被験者の平均年齢は19.3~44.0歳の範囲で、男性を対象とした研究が多かった。89件は研究室内で実施され、屋外で実施された研究は7件だった。参加競技は、サイクリング、陸上、水泳、トライアスロン、デュアスロン、競歩など。

さまざまな条件で炭水化物摂取の有効性が示されるが、一部の条件では非有意

抽出された全試験を対象とするメタ解析の結果、炭水化物の摂取は非摂取に比べて、持久力パフォーマンスが有意に改善することがわかった。具体的には、標準化平均差(standardized mean difference;SMD)が0.43(95%CI;0.35~0.51,p<0.001)だった。

論文ではこれ以降、各研究のデザインに基づいて、以下のようにさまざまな条件での研究をカテゴリー化し、炭水化物摂取の影響をメタ解析により検討している。炭水化物の含有率が低い場合と高い場合の双方で有意な効果がみられないことや、心肺機能が高い対象では効果が減弱する傾向があることなどが示されている。

性別

男性対象の研究はSMD0.48(0.38~0.58)、女性対象の研究はSMD0.38(0.06~0.70)、男性と女性の双方が対象に含まれていた研究はSMD0.28(0.12~0.44)で、すべて有意であり、女性よりも男性で効果が高かった。

年齢

18~29歳はSMD0.43(0.33~0.53)、30~39歳はSMD0.43(0.31~0.56)で、すべて有意であり、年齢層による効果の差はなかった。

心肺機能

最高位群はSMD0.40(0.31~0.49)、高位群はSMD0.43(0.23~0.64)、中位群はSMD0.71(0.32~1.10)、低位群はSMD1.13(0.59~1.67)で、すべて有意であり、心肺機能が低い群ほど効果が高かった。

競技種目

サイクリングはSMD0.47(0.38~0.57)、ランニングはSMD0.35(0.17~0.52)で、この2競技は有意であり、サイクリングのほうが効果が高かった。一方、これら以外の競技はSMD0.29(-0.03~0.61)であり、有意水準に至らなかった。

運動時間

運動時間が短すぎる場合や、逆に長すぎる場合は、有意な効果が認められなかった。具体的には以下のとおり。

  • 45~60分ではSMD0.15(-0.13~0.43)で非有意だった。
  • 60~120分ではSMD0.41(0.27~0.55)、120~240分ではSMD0.51(0.40~0.62)であり、60~240分の間はいずれも有意だった。
  • 240分以上ではSMD0.19(-0.16~0.55)で非有意だった。

炭水化物含率

炭水化物の含有率が低すぎる場合や、逆に高すぎる場合は、有意な効果が認められなかった。具体的には以下のとおり。

  • 炭水化物含有率が0~2%ではSMD0.32(-0.03~0.66)で非有意だった。
  • 含有率2~4%ではSMD0.38(0.06~0.70)、4~6%ではSMD0.44(0.31~0.57)、6~8%ではSMD0.47(0.33~0.62)、8~10%ではSMD0.40(0.13~0.67)、10~15%ではSMD0.53(0.07~1.00)であり、炭水化物含有率2~15%の間はいずれも有意だった。
  • 含有率15~20%ではSMD0.35(-0.08~0.78)であり、非有意だった。

時間あたり炭水化物摂取量

時間あたりの炭水化物摂取量が多すぎる場合は、有意な効果が認められなかった。具体的には以下のとおり。

  • 時間あたりの炭水化物量が40g/時ではSMD0.24(0.01~0.48)、40~60g/時ではSMD0.49(0.08~0.89)、60~80g/時ではSMD0.41(0.10~0.72)、80~100g/時ではSMD0.82(0.31~1.34)であり、100g/時まではいずれも有意だった。
  • ただし、100g/時以上ではSMD0.17(-0.23~0.57)であり、非有意だった。

論文中にはこのほかにも、炭水化物の種類(グルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、マルトデキストリンなど)別の解析や、摂取タイミング別、周辺気温別の解析など、多くの視点で検討した結果が示されている。糖質の種類についてはマルトデキストリン、摂取タイミングについては、運動前よりも運動中に摂取したほうが、有効性が高い可能性が示唆されるようだ。

文献情報

原題のタイトルは、「Meta-Analysis of Carbohydrate Solution Intake during Prolonged Exercise in Adults: From the Last 45+ Years’ Perspective」。〔Nutrients. 2021 Nov 24;13(12):4223〕
原文はこちら(MDPI)

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