高タンパク食で食欲抑制ホルモンの分泌が亢進するが、反応の仕方は性別により異なる
一般的な栄養素バランスの食事に比べて高タンパク食では、レプチンやペプチドYY、GLP-1などの食欲抑制ホルモンの分泌が全体的に亢進するように変化することや、女性では食事条件に伴う変化に食欲の低下が関与している可能性が報告された。また、高タンパク食では、摂取エネルギー量が等しい場合、負のエネルギーバランスになるという。
高タンパク食による食欲関連ホルモンの分泌動態の変化を性別に検討
肥満者は、食欲抑制ホルモンの分泌、またはそれに対する反応が低下していることが知られている。また、エネルギー産生栄養素バランスによってホルモン分泌動態が変化することや、その動態に性差が存在する可能性が指摘されている。ただし、その点での詳細な検討は十分行われていない。今回紹介する研究の研究者らは、健康な普通体重の成人を対象として、高タンパク食を摂取した場合は食欲抑制ホルモンの分泌が亢進し、食欲促進ホルモンの分泌は低下するとの仮説のもと、以下の検討を行った。
クロスオーバー法で32時間、全身熱力測定ユニット内で生活
研究参加者は、カナダのアルバータ大学内で募集された。適格条件は、18~35歳の健康な成人で、BMI18.5~24.9の普通体重であり、女性は月経周期が安定していること。除外基準は、疾患の存在、喫煙者、エネルギー代謝や体組成に影響を与える可能性のある薬剤または栄養補助食品の服用者、食事制限実践者、1日1時間以上または週に7時間以上の運動を行っている場合、妊娠中または授乳中の女性。
女性19名を含む43名が採用された。年齢は女性25±3歳、男性23±4歳、BMIは同順に22.2±1.2、21.9±1.6。
研究デザインはクロスオーバー法で、参加者全員が、高タンパク食または普通食のいずれかの条件からスタートするように無作為に割り当てられた。各条件の試行には、女性は約1カ月、男性は2週間のウォッシュアウト期間を設けた。また女性はいずれの試行も卵胞期に行った。
両条件ともに32時間にわたり全身熱力測定ユニット内で生活してもらい、エネルギー代謝を計測。また、採血により食欲関連ホルモン分泌動態を把握するとともに、ビジュアルアナログスケール(100mm)を用いて食欲の変化を計測した。
各条件の試行に際し、開始3日前から北米で一般的な食事(炭水化物55%、タンパク質15%、脂質30%)の食事を摂取してもらい、またカフェインの摂取を禁止した。2日前からは身体活動を控えめとし、前日は運動を禁止した。
全身熱力測定ユニット内での食事の栄養素バランスは、比較対照条件は開始前3日間と同じ、炭水化物55%、タンパク質15%、脂質30%であり、高タンパク食は炭水化物35%、タンパク質40%、脂質25%。エネルギー量は、事前に計測されていた各人の安静時代謝率(resting metabolic rate)や身体活動係数、食事誘発性熱産生に基づいて調整され、両条件で等エネルギー量に設定された。
高タンパク食ではエネルギーバランスがマイナスになる
それでは、エネルギー代謝、食欲の変化をみていこう。なお、各条件の試行順序は、結果に有意な影響を及ぼしていなかったことが確認されている(いずれもp>0.05)。
高タンパク質条件ではタンパク質や脂質の酸化が亢進し、負のエネルギーバランスに
高タンパク食条件では対象条件に比較し、24時間の消費エネルギー量が多く(p<0.001)、タンパク質(p=0.013)と脂質の酸化速度(p<0.001)が速く、炭水化物の酸化速度は遅い(p<0.001)という有意差が認められた。また、高タンパク食条件ではエネルギーバランスが負となり、対照条件と有意差が認められた(p<0.001)。
各時点の食欲は食事条件による差はないが、24時間のAUCは女性では有意差
各食事と間食の食前と食後に計測された食欲は、条件間に有意差はなかった。ただし、24時間の予想摂取量(prospective food consumption;PFC)の曲線化面積(area under the curve;AUC)は、食事条件と性別の間に有意な交互作用が認められた(p=0.04)。
具体的には、高タンパク食条件では、PFCの24時間AUCは男性と比較して女性で少なかった(-6,908±3,424mm,p=0.05)が、対照条件では性差は観察されなかった(253±2,659mm,p=0.92)。また女性では、PFCの24時間AUCは対照条件よりも高タンパク食条件のほうが少なかった(-6,399±2,940mm,p=0.04)が、男性では条件間の有意差はみられなかった(761±2,101mm,p=0.72)。
なお、高タンパク食条件では、PFCとエネルギーバランスとの間に正の相関が認められ(r=0.33,p<0.05)、満腹感とエネルギーバランスとの間には負の相関が認められた(r=-0.41,p<0.01)。対象条件では食欲関連指標とエネルギーバランスとの間に有意な関連はみられなかった。
高タンパク食では食前のレプチン、食後のペプチドYYやGLP-1が高値になる
食欲関連ホルモンの血中レベルは以下のように変化した。
食欲抑制ホルモン
レプチン
レプチンは、高タンパク食条件では、空腹時値が初日8,702 ± 9,994pg/mL、2日目12,591 ± 14,951g/mL、対照条件では同順に9,522 ± 11,155pg/mL、11,552 ± 13,591pg/mLであり、介入により高タンパク食条件のほうが有意にプラスに大きく変化していた(p=0.007)。一方、食後のレプチン濃度は、条件間の有意差がみられなかった。
ペプチドYY
ペプチドYYは、高タンパク食条件では、空腹時値が初日124.0 ± 62.3pg/mL、2日目97.9 ± 51.5g/mL、対照条件では同順に123.4 ± 62.7pg/mL、114.9 ± 56.4pg/mLであり、介入により高タンパク食条件では有意にマイナスに大きく変化していた(p=0.02)。
一方、食後のペプチドYY濃度は、高タンパク食条件では163.4 ± 75.1pg/mLであるのに対して、対象条件では132.0 ± 56.5pg/mLであり、高タンパク食条件のほうが有意に高値だった(p<0.001)。
GLP-1
グルカゴン様ペプチド-1(glucagon-like peptide 1;GLP-1)は、高タンパク食条件では、空腹時値が初日1.62 ± 3.32pM、2日目1.15 ± 3.09pM、対照条件では同順に1.62 ± 3.28pM、1.48 ± 3.26pMであり、介入により高タンパク食条件ではマイナスに大きく変化しており、有意差は境界値だった(p=0.05)。
一方、食後のGLP-1濃度は、高タンパク食条件では4.21 ± 5.19pMであるのに対して、対象条件では2.59 ± 4.18pMであり、高タンパク食条件のほうが有意に高値だった(p<0.001)。
食欲促進ホルモン
グレリン濃度は、空腹時、食後ともに、条件間に有意差はみられなかった。
なお、食後のグレリン濃度は男性より女性のほうが高かった。また、グレリン以外の食欲関連ホルモンについても、食事条件の違いによる影響に有意な性差が認められた。
一連の結果を著者らは、「エネルギー量の等しい標準的な食事と比較して、高タンパク質食は食欲抑制ホルモンの血中濃度を上昇させ、女性の24時間PFCを低下させることが示された。また、高タンパク食に対する女性の反応は食欲に関連していたが、男性の反応は主に食欲関連ホルモンに関連していた」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「A high-protein total diet replacement alters the regulation of food intake and energy homeostasis in healthy, normal-weight adults」。〔Eur J Nutr. 2021 Dec 20〕
原文はこちら(Springer Nature)