運動前の炭水化物摂取にタンパク質を加えると、翌日の持久力パフォーマンスが向上する可能性
持久力パフォーマンスの維持・向上に運動前の炭水化物の摂取が重要であることはよく知られているが、これにタンパク質を加えた場合の影響を検討した研究結果が報告された。タンパク質を加えても、当日の持久力パフォーマンスには影響はないが、翌日のパフォーマンスが上昇する可能性があるという。
持久系運動の前にタンパク質を摂ることに意味はあるのか?
パワー系スポーツのパフォーマンスにとっては、運動前後のタンパク質摂取が筋力の維持・向上のために重要である一方、持久系スポーツのパフォーマンスでは、エネルギー基質であるグリコーゲンの枯渇を防ぐための炭水化物の摂り方が重要。通常、持久系スポーツのトレーニング後の早期に炭水化物を摂ることで、グリコーゲン再合成を促進させることが重視され、それにタンパク質を加えることに上乗せ効果があるか否かが検討されている。これに対して、持久系スポーツを行う前の炭水化物摂取にタンパク質を加えるべきか否かという検討は、あまり行われていない。
タンパク質は運動中の一次エネルギー基質ではないものの、抗炎症作用などにより運動による筋肉のダメージを抑制するように働くことが報告されている。そのことから理論的には、持久系スポーツを連日行う場合に運動前のタンパク質摂取が回復に影響を及ぼす可能性も考えられる。ただし、そのような影響が実際に現れるのかは確認されていない。本論文の著者らは、この点を明らかにする目的で以下の検討を行った。
炭水化物のみと、炭水化物+大豆タンパクまたはホエイタンパクの3条件で比較
この研究は、7名の男性を対象とするクロスオーバー試験として実施された。対象者7名は、年齢20.0±0.9歳、身長167.7±4.4cm、体重56.4±4.8kg、VO2peak49.3±0.3mL/kg/分。設定された条件は以下の3条件。
- 炭水化物のみを摂取する条件:米とさとうきび糖で構成されており、炭水化物44.3g、タンパク質1.8g、脂質0.2g、エネルギー量195.8kcal。
- 炭水化物に大豆タンパクを追加する条件:米と大豆、さとうきび糖で構成されており、炭水化物38.5g、タンパク質4.8g、脂質1.8g、エネルギー量199.0kcal。
- 炭水化物にホエイタンパクを追加する条件:米とホエイタンパク、さとうきび糖で構成されており、炭水化物36.8g、タンパク質9.2g、脂質0.8g、エネルギー量201.5kcal。
これらを摂取後2時間後に、自転車エルゴメーターによって持久力を評価するという試験を、2日間連続で行った。各条件の試行には1週間のウォッシュアウト期間を設けた。
持久力は85%VO2peakの負荷により評価した。また、各条件の初日と2日目の持久力テスト後の採血により、炎症マーカーのインターロイキン-6(IL-6)、筋損傷マーカーのクレアチンキナーゼ(CK)などを評価した。
なお、この研究参加中、被験者には大豆またはホエイタンパク関連のサプリメントの摂取を禁止し、高強度運動を控えさせた。
初日の総仕事量は3条件で同じだが、2日目に差が生じる
3条件の初日の総仕事量(Total work exerted)は、どれも有意差がなかった。しかし2日目に、以下のような相違が発生した。
まず、炭水化物のみを摂取する条件では、初日と2日目とで有意な変化がなかった。それに対して炭水化物に大豆タンパクを加えて摂取する条件では、2日目に有意でないながら総仕事量が16%増加した(p=0.10,効果量d=0.53)。炭水化物にホエイタンパクを加えて摂取する条件では2日目に21%増加し(p=0.05,効果量d=0.71)、有意性は境界値だった。
疲労困憊に至るまでの時間は以下のとおりで、炭水化物にホエイタンパクを加えて摂取する条件でのみ、2日目に境界値の有意性が認められた。炭水化物のみを摂取する条件は初日と2日目の差がp=0.38、効果量d=0.12、炭水化物に大豆タンパクを加えて摂取する条件ではp=0.12、d=0.49、炭水化物にホエイタンパクを加えて摂取する条件ではp=0.05、d=0.71。
自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)は、すべての条件で初日と2日目に有意差はなく、条件間の差もなかった。
IL-6やCKの動態は条件間に差はなし
炎症マーカーのIL-6は3条件すべてで運動負荷後に上昇しており、条件間の差はみられなかった。また、筋損傷マーカーのCKは、3条件ともに運動負荷による有意な変化はみられなかった。
大豆タンパクはホエイタンパクと同等の疲労回復効果をもつ可能性
これらの結果から著者らは、「運動の2時間前に大豆またはホエイタンパクのいずれかを含む約50gの炭水化物を摂取しても、等エネルギー量の炭水化物を単独で摂取した場合と比較して、持久力パフォーマンスの向上につながらないことが示された。しかし、2日間連続して行う場合、2日目の持久力パフォーマンスが改善する」とまとめている。
また、本研究では、炭水化物に大豆タンパクを加える条件のタンパク質量は前述のように4.8gであり、これは炭水化物にホエイタンパクを加える条件の9.2gのほぼ2分1程度と少ないにもかかわらず、初日と2日目の総仕事量で評価した持久力パフォーマンスの変化が10.6%と19.7%であることに注目。「大豆タンパクはホエイタンパクと同等の疲労回復効果をもたらす可能性があるのではないか」と述べている。
一方、本研究では炎症マーカーであるIL-6の上昇に対する大豆またはホエイタンパク摂取による抑制効果は示されなかった。この点については、「本研究の被験者である若年の健康な男性では、内因性の抗酸化能が十分であるためではないか」との考察を加えている。
なお、本研究の限界点として、サンプルサイズが小さいこと、および、わずかではあるが3条件で脂質含有量が異なっていたことを挙げている。
文献情報
原題のタイトルは、「Pre-exercise Carbohydrate Drink Adding Protein Improves Post-exercise Fatigue Recovery」。〔Front Physiol. 2021 Nov 22;12:765473〕
原文はこちら(Frontiers Media)