月経異常を抱えていても助けを求めることができない女性アスリート、その理由とは? オランダ定性的研究
なぜ彼女たちは助けを求めないのか?(Why they do not seek help?)――という副題のある論文が発表された。「彼女たち」とは、月経異常を来している女性アスリートのことだ。つまり、月経異常を来しているのに適切なアクションを起こさない女性アスリートが少なくないという問題を取り上げた研究である。この現状を鑑み、その理由の探索と対策法をグループインタビューにより定性的に検討したものであり、オランダからの報告。
女性アスリートは月経異常を過小報告している
レクリエーションレベルかエリートレベルかにかかわらず、多くの競技種目で女性アスリートが増加している。1996年のアトランタ五輪での女性選手の割合は34%だったが、東京2020年では48.8%であり、ほぼ男性選手と等しくなった。パリでは完全な男女平等を達成するというコミットメントも掲げられている。
女性アスリートの増加に伴いさまざまなトピックスが取り上げられるようになってきたが、選手の健康という視点で注目されているトピックスの一つは「女性アスリートのトライアド」(female athlete triad;FAT)だろう。トライアド(三主徴)とは、利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)、骨量減少、そして月経異常の三つだ。これらトライアドには、エネルギー出納がマイナスになることの関与が大きい。関連する症状として、便秘や不整脈、筋力低下などもみられる。
これら女性アスリートに特有とも言えるスポーツ関連健康障害のうち、月経異常の有病率は、研究により差があるものの、最大40%にも及ぶとする報告もある。しかし、女性アスリート自身からの月経異常の報告は、多くの研究で示されている有病率に比較し少なく、過小報告されがちな実態が知られている。
4人ずつの3グループでインタビュー調査を実施
この研究は、女性アスリートを対象にグループインタビューを実施し、女性アスリートが月経異常を報告しようとしない理由と、その改善策を探った。
グループインタビューの参加者は、「月経とスポーツ」というトピックに関する調査に関心があると回答した女性から抽出した。SNS(Facebook、Twitter、LinkedIn、Instagram)やWebサイトなどを通じて募集するとともに、一部のエリート(プロ)アスリートにも参加を要請した。
計16名に連絡をとり、そのうちの12名が参加に同意。年齢は23~45歳(平均33歳)で、半数(6名)は、元エリートまたはプロのアスリートだった。競技種目は、自転車が6名、トライアスロンとスピードスケートが各4名、陸上競技とランニングが各2名、マウンテンバイク1名で、6名は複数のスポーツを行っていた。
インタビューは4名ずつの3グループに分け、それぞれに2名の研究者が加わり、事前に設定されていた半構造化された質問にそって進行した。研究者は2名とも女性とし、参加者が月経について語ることの抵抗感を排除した。また、COVID-19対策のため、ZOOMを用いたWeb会議で行われた。
各グループで「月経異常を報告しない理由」と「月経異常のケアの最適化」について話し合われた。3番目のグループへのインタビューが終了した時点で研究者らは、新たに検討すべきテーマは残っていないと判断した。
月経異常を報告しない理由
月経異常を報告しない理由として、インタビューから以下の五つの重要な理由が見つかった。
周囲のスタッフや選手仲間による正常化
コーチや医師、他の選手による正常化が、一つの理由として挙げられた。例えば、エリート女性アスリートの中には無月経の人も少なくないという話を持ち出し、それが当然であるかのような言い方をする人が周囲にいることなどが報告された。月経がないことを心配している仲間がいないことも、月経異常という事態を正常化して解釈することに寄与しているという。
アスリート自身が問題として認識していない
また、多くのインタビュー参加者が、無月経などを問題として認識していなかった。例えば挙児希望がないアスリートは、月経がないことに無頓着だった。また、多くのアスリートが誤解していることとして、月経異常は一時的なものであり、トレーニング強度を下げれば元に戻ると信じていることがわかった。
羞恥やタブー
羞恥やタブーを理由に挙げたアスリートもいた。ある女性アスリートは、「私はそれについて話すことはタブーだと思う。そして多くの女性は同じように感じているだろう。私はその話をしたくない」と語った。また、コーチや医療スタッフの性別との関連を指摘する声も多数挙げられ、男性スタッフには相談できないことが多い実態が垣間見えた。
パフォーマンスが優先される
パフォーマンスはエリートアスリートにとり絶対的な優先事項であり、より若いアスリートはスポーツにしか目を向けていないことも明らかになった。「目標を達成することが最も重要だ。そのほかは何も関係ない。子どもを設けることもそうである」。このような考え方はアスリートのみでなく、コーチにも存在することが示唆された。
否定
もちろん、月経異常が良い兆候ではないことを理解してるアスリートもいた。そのようなアスリートの一部には、パフォーマンスを悪化させる可能性のある食事の摂り方やトレーニングレジメンを調整する必要があるのではないかと気づいていながら、それを自ら否定しようとする傾向が認められた。「自分が誰かに助けを求めたら、聞きたくはないアドバイスをされるだろう。『体重を5kg増やすように』などといった話は耳にしたくない」。スポーツ医、スポーツ栄養士、産婦人科医などの協業で問題解決を
一方、女性アスリートの月経異常に関するケアを最適化するための対策として挙げられた事項は、以下の5項目に集約された。
- アスリート、コーチ、トレーナー、メンターへの情報提供
- 医療関連スタッフへの情報提供
- 月経異常の長期的な影響に関するさらなる調査の実施
- 月経の問題に関するタブーの打破
- 多職種の医療専門家間の学際的コラボレーションの発展
著者らは、「本研究によって、女性アスリートの月経異常の問題に関するケアを改善するための方向性オプションが明らかになった」とまとめた上で、「スポーツにおける相対的エネルギー不足(Relative Energy Deficiency in Sport;RED-S)のケアは、さまざまな専門分野と医療の学際的コラボレーションによって改善を図ることが可能だ。我々は既に、この問題に関して、スポーツ医、スポーツ栄養士、および産婦人科医との間で、定期的な学際的協議を行っている」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Absence of menstruation in female athletes: why they do not seek help」。〔BMC Sports Sci Med Rehabil. 2021 Nov 23;13(1):146〕
原文はこちら(Springer Nature)