抗がん剤の副作用を栄養介入で抑制する! JSPENの受賞講演リポートを「あじこらぼ」で公開
抗がん剤の副作用を、栄養介入で抑制可能とするデータが、第36回臨床栄養代謝学会学術集会(JSPEN/7月21~22日・神戸)で報告された。東北大学病院総合内科の小林 実氏らの研究であり、アミノ酸の一種である「シスチン・テアニン」が、抗がん剤による末梢神経障害の自覚症状を有意に抑制したとのことだ。
この研究は、優秀演題に贈られる「小越章平記念Best Paper in The Year」を受賞し、同学術集会にて受賞講演が行われた。その講演内容をまとめた記録集がこのほど、味の素株式会社の栄養士・管理栄養士向け情報サイト「あじこらぼ」に公開された。ここではその記録集の一部を紹介する。
大腸がん治療のキードラック、オキサリプラチンでは末梢神経障害が出現しやすい
受賞講演の演題名は「オキサリプラチン誘発性末梢神経障害に対するシスチンとテアニンの経口投与による保護効果の研究:パイロットランダム化試験」。
大腸がん治療のキードラックの一つである白金製剤のオキサリプラチンでは、有害事象としてしばしば末梢神経障害が引き起こされる。末梢神経障害が生じると、オキサリプラチン投与量の変更が必要となり、治療を完遂できなくなったり患者さんのQOLが低下してしまう。
抗酸化作用物質のグルタチオンが末梢神経障害を抑制するかもしれない
もちろん、オキサリプラチン投与に伴う末梢神経障害を抑制しようとする努力はこれまでにも続けられていた。その一つは、グルタミン酸、システイン、グリシンがペプチド結合したトリペプチドであるグルタチオンに関する研究だ。
グルタチオンは強い抗酸化作用を有し、神経細胞を保護する働きがあるとされており、その働きをオキサリプラチンの副作用抑制に用いようとする試みだ。その研究は複数報告されている。ただ、結果は有効とするものと無効とするものが混在し一定の見解が得られておらず、国内外のガイドラインで推奨されるに至っていない。
グルタチオンの前駆体を経口投与したらどうか?
一方、グルタチオンの前駆体であるN-アセチルシステインやグルタミンにも、化学療法による末梢神経障害の抑制効果が報告されている。これらグルタチオンの前駆体は、経静脈的でなく経口投与が可能という簡便性があり、かつ、経静脈的投与よりも血中濃度を長時間維持できる可能性がある。
小林氏らは、同じくグルタチオンの前駆体であるシスチンとテアニンに着目した。それらは経口摂取後、システインとグルタミン酸に変換され、最終的にグルタチオンが合成される。シスチンとテアニンはいずれもサプリメントとして既に市販されており、安全性の懸念がない。このような背景から、オキサリプラチンが投与される大腸がん患者さんを対象に、シスチンとテアニンのサプリメントを用いることで、末梢神経障害が抑制されるかを検討した。
シスチン・テアニン投与群で、末梢神経障害スコアが有意に低値
研究の対象は、mFOLFOX6(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチンの併用。フォルフォックス療法)で治療されている大腸がん患者さん28人。無作為に2群に分け、1群にのみシスチン700mg/日およびテアニン280mg/日を投与。1コース2週間で、6コース施行。手足のしびれやボタン着脱、歩行などの7項目、合計28点でスコアリングして末梢神経障症状を評価した。
その結果、4コース終了時点での末梢神経障害のスコアが、対照群の3.08に対してシスチン+テアニン投与群は1.17であり、有意に低かった(p=0.026)。この群間の有意差は、6コースが終了しmFOLFOX6療法が完了するまで保たれていた。
より強固なエビデンス確立へ
この研究はパイロット研究であるため、盲検化されていないことや一部の背景因子に偏りがみられたことなどを含めて、結果解釈上の限界点が存在する。小林氏はそれらを踏まえた上で、「シスチンとテアニンの連日経口投与により末梢神経障害が抑制されるという、次につながる結果が得られた。さらなる研究で、オキサリプラチンに対するシスチンとテアニンの有効性に関するエビデンスを確立していきたい」と語っている。
本研究は、がん化学療法中の患者さんに対する栄養介入がQOL改善につながることを示した、重要なエビデンスだ。ぜひ、「あじこらぼ」掲載の講演記録集をご覧いただきたい。
栄養士さん・管理栄養士さん向け情報サイト「あじこらぼ」
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