コーヒーは筋グリコーゲンの回復にもプラスに働く 無作為化二重盲検クロスオーバー試験
コーヒーの主成分であるカフェインは、スポーツパフォーマンスを高めるエルゴジェニックエイドとして広く利用されているが、それだけでなく、運動後の筋肉グリコーゲン回復を増加させる作用もあることを示すデータが新たに報告された。コーヒー生産量が世界一の国、ブラジルで実施された無作為化二重盲検クロスオーバー試験のエビデンス。
カフェイン摂取と運動を組み合わせた場合の急性作用は、プラスかマイナスか?
コーヒーは世界で最も広く飲用されている嗜好品の一つであり、その主成分であるカフェインはスポーツパフォーマンスを向上させることが知られている。また、カフェイン摂取後の急性作用としてはインスリン感受性を低下させる可能性が報告されているものの、慢性作用としてはインスリン感受性を亢進させて糖代謝の恒常性維持にプラスに働くとするエビデンスが蓄積されている。しかし、カフェイン摂取と運動を組み合わせた場合の急性作用は十分に検討されていない。
一方、本研究が実施されたブラジルで最も一般的なコーヒーの飲み方は、砂糖とミルクを加えて飲む飲み方で、この飲み方はタンパク質と炭水化物が豊富であり、運動後に飲用することで、運動により消費されたグリコーゲンの再合成を高める可能性がある。本研究において研究者らはこれらの知見をもとに、運動直後に砂糖とミルク入りコーヒーを飲むことで筋グリコーゲン再合成にタイル有益な作用が発揮されるとの仮定のもと、以下の検討を行った。
コーヒー+ミルクと、ミルクのみで、筋グリコーゲン再合成を比較
研究デザインは、筋グリコーゲンを枯渇させた後に、砂糖とミルク入りのコーヒーを飲む条件と、砂糖入りミルクのみを飲む条件を、研究参加者全員に課して比較するという、無作為化二重盲検クロスオーバー法。既報研究のデータに基づき、有意差を得るのに必要なサンプル数は11と計算され、研究中の脱落を見込み14名の被験者が募集された。
研究者と関連のあるコーチやスポーツ栄養士からの連絡、およびソーシャルメディアを通じて、日常的にコーヒーとミルクを摂取する習慣のある、男性成人持久系アスリート14名が参加した。除外基準は、日常のカフェイン摂取量が500mg/日以上、喫煙者、最近の怪我や病気など。行っている競技は、11名が自転車競技、3名がトライアスロンで、全員がトレーニングで60km/週以上走行していた。
14名のカフェイン摂取量の平均は296±111mg/日だった。以下に記す試験期間中に3名が、腹部不快感や消化器症状のため脱落し、最終解析は11名で行われた。その11名の年齢は39.0±6.0歳、BMIは24.0±2.3、VO2max59.9±8.3mL/kg/分、ピークパワー(peak power output;PPO)346±39Wだった。
2日連続の運動負荷で筋グリコーゲンを枯渇させた後の回復を評価
被験者は最初にインクリメンタルテスト(増分テスト)により心肺機能の評価を受けた後、無作為に2群に分類され、1群は初めにコーヒー+ミルクを飲む条件とし、他の1群は初めにミルクを飲む条件とした。条件の割付けは、被験者、研究者ともに試験終了まで知らされなかった。
筋グリコーゲン回復を評価する各セッションの15時間前にあたる前日に、被験者は研究室で自転車エルゴメーターで疲労困憊に至るまで徹底的な運動を行い、その日の夕食は低炭水化物食(炭水化物0.8g/kg、タンパク質0.8g/kg、脂質1.0g/kg)を与えられた。翌日(セッション当日)の10~12時の間に再度、自転車エルゴメーターで疲労困憊に至るまで徹底的な運動を行い、その後4時間を回復期間とした。
回復期間の0分、60分には、試験飲料(コーヒー+ミルク、またはミルクのみ)を摂取し、120分には試験飲料に加えて、食事として卵とチーズのサンドウィッチが与えられた。その食事の栄養素は、炭水化物1.2g/kg、炭水化物0.3g/kgとされた。コーヒー条件におけるカフェインの総摂取量は8mg/kgに設定されていた。
回復期間には、0分、30分、60分、90分、120分、180分、240分に血液を採取し、血糖値やインスリン値を測定。また0分と240分には筋生検を行い、グリコーゲンレベルを測定した。
なお、盲検化のために被験者には、試験飲料には5種類(水+砂糖、コーヒー+ミルク+砂糖、ミルク+砂糖、デカフェ(カフェインのないコーヒー)+砂糖、コーヒー+砂糖)があり、そのうちの2種類が割り当てられると伝えられていた。また、試験飲料は不透明のカップに入れられ不透明のストローで飲むように指示され、さらに香りをマスクするために、研究室内で常にコーヒーを淹れる作業を継続した。加えて、カップの蓋をコーヒーに浸し、摂取する際に香りが出るようにした。
両条件の試行の間には7~14日のウォッシュアウト期間を設けた。
4時間の回復後のグリコーゲンレベルが条件間に有意差
運動負荷による筋グリコーゲンを枯渇させた直後のグリコーゲンレベルはミルク単独条件が103.85±24.15mmol/kg dw(ドライウエイト)、コーヒー+ミルク条件は120.75±24.15mmol/kg dwで、有意差がなかった(p=0.48)。4時間の回復の後、枯渇時点からのグリコーゲンレベル回復量は、同順にΔ40.54±18.74mmol/kg dw、Δ102.56±18.75mmol/kg dwであり、コーヒー+ミルク条件はミルク単独条件に比較して回復量が153%多く、条件間に有意差が認められた(p=0.01,効果量d=0.94)。
回復期間終了時点では、グリコーゲン合成酵素であるグリコーゲンシンターゼ活性は両条件で低下し、条件間の有意差はなかった(Δ-9.10±13.52 vs Δ-35.12±13.59U/mg タンパク質,p=0.22)
このほかに、血糖値(p=0.02,d=0.83)およびインスリン値(p=0.03,d=0.76)の変動曲線化面積(AUC)は、コーヒー+ミルク条件のほうが有意に大きいことがわかった。
運動後の十分な炭水化物+コーヒーの摂取は効果的な戦略
以上の結果をもとに著者らは、「砂糖を加えたミルクとともにコーヒーを摂取すると、砂糖を加えたミルクを単独で摂取する場合に比較して、徹底的なサイクリング運動後の4時間の回復期間中の筋グリコーゲンの再合成が改善された。運動後に十分量の炭水化物の摂取に加えてコーヒー摂取を追加することは、短時間の回復または複数回の連続した運動の試合を伴うサイクリングアスリートの筋グリコーゲン回復を改善するための効果的な戦略と言える」とまとめている。
なお、コーヒーに含まれているどの成分がこの結果に影響を及ぼしているのかという点については「定義することはできない」としたうえで、既報研究をもとに、「カフェイン、カフェイン酸、カフェストールが確からしい候補」と述べている。
また、コーヒー+ミルク条件で血糖とインスリンのAUCが有意に増大したことに関連して、カフェインによるインスリン感受性低下という急性作用の影響であると推察しながらも、筋グリコーゲン再合成の亢進を損うものではないと述べ、さらに、運動の負荷やカフェイン以外のコーヒー成分がカフェインによるインスリン感受性への影響を抑制する可能性を考察している。
文献情報
原題のタイトルは、「Coffee Increases Post-Exercise Muscle Glycogen Recovery in Endurance Athletes: A Randomized Clinical Trial」。〔SNutrients. 2021 Sep 23;13(10):3335〕
原文はこちら(MDP)