長距離アスリートのパフォーマンスは時間制限食でどう変わる? ラマダン断食をモデルに調査
長距離ランナーがラマダン断食を行っても体重や体組成に有意な変化は生じないこと、トレーニング量は有意に減ること、そして最大走行速度や疲労困憊に至るまでの時間は向上する可能性があることが報告された。著者らは、時間制限食によるパフォーマンスへの影響を判断する一つの知見としている。
ラマダン断食(時間制限食)は長距離ランナーにどのような影響を及ぼすのか?
これまでのラマダン断食関連の検討からは、ラマダン断食がパフォーマンスにマイナスの影響を与えるという結果と、影響はないかわずかであるという結果、そしてむしろ筋力パフォーマンスが向上したという結果が報告されており、一貫性がない。また、長距離アスリートのパフォーマンスへの影響を検討した研究はごく少ない。
これを背景として本論文の著者らは、ラマダン中の断食、つまり時間制限食が、経験のある長距離ランナーのパフォーマンスに及ぼす影響を調査した。著者らの仮説は、長距離ランナーのパフォーマンスは、ラマダン断食によってプラスの影響を受けるというものだった。
15名の長距離ランナーで、ラマダン前後の変化を検討
この研究の参加者は、口コミで募集された15名の経験を積んだ長距離ランナー。年齢23.9±3.1歳、身長170.9±7.2cm、体重60.8±6.4kg、BMI20.8±1.3、安静時心拍数48.8±7.9bpm、VO2peak71.1±3.4mL/kg/分。全員が現役のランナーで、週に5日以上、150分/日以上のトレーニングを行っていた。
参加者はラマダンに入る2週間前に初回の評価を受け、健康状態や血圧、心拍数などを測定された。次にラマダンが始まる3日前に段階的運動テスト(graded exercise test;GXT)によりパフォーマンスを計測。1カ月間のラマダンが終了する最終日に再度、段階的運動テスト(GXT)が施行された。
段階的運動テスト(GXT)はトレッドミルを用いて、初速は8km/時として疲労困憊に至るまで400mごとに1km/時ずつ増速した。なお、GXTは施行時間帯の不一致を避けるため、ラマダン前の終了時ともに午前10時から11時の間に行われた。
このほか研究参加者には、運動、食事、睡眠の記録が指示され、それらの記録をもとに摂取エネルギー量、摂取栄養素量、消費エネルギー量、トレーニング時間・量、睡眠時間・質が評価された。
タンパク質以外の摂取量はラマダンにより有意に減少も、体重や体組成は変化なし
まず、食事摂取状況をみると、ラマダン前に比べてラマダン終了時点では以下に示すように、有意に摂取量が減っていた。ただしタンパク質に関しては有意な変化がなかった。摂取エネルギー量2,989.7±359.9→2,523.2±454.4kcal/日(p=0.002)、炭水化物446.0±74.3→379.3±77.9g/日(p=0.026)、タンパク質118.1±54.4→88.6±53.3g/日(p=0.124)、脂質81.5±15.6→72.2±16.7g/日(p=0.009)、水分4.2±1.1→2.5±0.8L(p<0.001)。
このようにタンパク質以外の摂取量が有意に減っていたにもかかわらず、体重や体組成には有意な変化が生じていなかった。体重60.5±6.1→60.8±6.4kg(p=0.201)、体脂肪9.0±1.8→9.1±1.9kg(p=0.488)、除脂肪体重51.5±4.7→51.7±5.1kg(p=0.525)。
トレーニング量や消費エネルギー量はラマダン中に有意に減少
一方、トレーニング時間(95%CI;-16.4~-40.8分/日,p<0.001)と消費エネルギー量(95%CI;-198.0~-609.9Kcal/日,p=0.001)は、ラマダン期間中に有意に減少していた。
ラマダン終了時点でスピードと疲労困憊に至るまでの時間が改善
パフォーマンス関連の評価指標のうち、最大走行速度と疲労困憊に至るまでの時間は、ラマダン前よりもラマダン終了時点のほうが有意に優れていた。具体的には、最大走行速度はラマダン前が18.6±2.3km/時であったのに対してラマダン終了時点では19.7±1.9km/時であり(p=0.04)、疲労困憊に至るまでの時間は同順に1,392.9±126.8秒、1,448.4±108.8秒だった(p=0.048)。
最大酸素摂取量と利用可能エネルギーは、ラマダン絶食の前後で有意差はなかった。また、自覚的運動強度(rating of perceived exertion;RPE)や心拍数、睡眠時間についても有意な変化はみられなかった。
ラマダン断食中は夜明け前の食事の4時間後のトレーニングが最適か
これらの結果から著者らは、「ラマダンの絶食が長時間続いたにもかかわらず、体重、体脂肪量、除脂肪体重に大きな変化はなかった。そして、毎日のトレーニング時間が短縮したにもかかわらず、疲労困憊に至るまでの時間と走行速度は向上するという有望な結果が得られた」とまとめている。また、ラマダン期間中は日没後と日の出前の1日2回飲食し、本検討では午前10時から11時にGXTが行われたことから、「夜明け前の食事の約4時間後の朝の時間帯にトレーニングを行うことが、ラマダン期間中のトレーニングの最適化につながる可能性がある」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Time-Restricted Feeding and Aerobic Performance in Elite Runners: Ramadan Fasting as a Model」。〔Front Nutr. 2021 Sep 21;8:718936〕
原文はこちら(Frontiers Media)