筋トレ後の必須アミノ酸+茶カテキン摂取で、高齢者の骨格筋量指数とバランス力が上昇 徳島大
高齢者のサルコペニア予防のための筋力トレーニング直後に、ロイシンが高配合された必須アミノ酸を摂取することによって骨格筋量指数(Skeletal muscle mass index: SMI)が有意に上昇し、さらに茶カテキンの摂取も加えることでバランス力も有意に上昇するというデータが報告された。一方、筋力トレーニングのみではSMIの有意な上昇は観察されなかったという。徳島大学先端酵素学研究所の森 博康氏らの研究結果であり、「Asia Pacific Journal of Clinical Nutrition」に論文が掲載された。
サルコペニアを栄養で予防できるか?
高齢者人口の増加に伴い、サルコペニアの予防・改善戦略の確立が求められている。これまでのところ、筋力トレーニングがサルコペニアの予防・改善に一定の効果があることが示されているが、栄養介入の有効性を示すエビデンスは不足している。
栄養介入においては、骨格筋量の維持や増大のために、食事からタンパク質を十分に摂取すること、とくに必須アミノ酸の摂取量が重要と考えられる。必須アミノ酸のなかでもロイシンは、筋タンパク質の合成刺激作用を有するため、その摂取量を増やすことが骨格筋量の維持や増大にポイントとなる可能性がある。
実際、筋力トレーニング直後のリカバリーに、ロイシンが高配合されたサプリメントを摂取しているアスリートも多い。ただし、高齢者のサルコペニアの予防におけるロイシンの有用性は明らかになっていない。
筋トレに、ロイシン高配合必須アミノ酸、高濃度茶カテキンを追加
森氏らの研究は、65歳以上の高齢者を対象として、筋力トレーニングのみを行う場合と、筋力トレーニング後にロイシン高配合必須アミノ酸を摂取する場合、さらに高濃度茶カテキンも追加摂取する場合とで、筋力、身体能力、健康関連QOL(Medical Outcomes Study 36-Item Short-Form Health Survey;SF-36)などが変化するかを検討するというもの。
なお、茶カテキンは緑茶の渋みの成分で、ミトコンドリアの機能を高めて加齢による筋委縮を抑制することが、in vitroおよびin vivo(実験動物)で示されている。ただし、ヒトを対象とした研究は少なく、茶カテキン摂取がサルコペニアを予防し得るかは明らかでない。
84名の非サルコペニア高齢者を3群に分けて24週間介入
研究の対象は兵庫県東・北播磨地域居住者から募集された高齢者84名。サルコペニアや糖尿病、慢性腎臓病患者は除外されていた。無作為に以下の28名ずつの3群に分け、非盲検下で24週間介入した。
筋力トレーニング群(Ex群):
1回1時間のトレーニング(20分のウォームアップと40分の筋力トレーニング)指導を週に2回実施する群。
必須アミノ酸群(Ex+AA群):
Ex群と同様のトレーニングを指導したうえで、トレーニング終了30分以内に、ロイシン高配合必須アミノ酸試験食を摂取してもらう群。試験食は3,000mgで、うちロイシンは1,200mg。
茶カテキン群(Ex+AA+TC群):
Ex群と同様のトレーニングを指導したうえで、トレーニング終了30分以内に、ロイシン高配合必須アミノ酸試験食に加え、高濃度茶カテキン試験食も同時に摂取してもらう群。なお、国内で市販されている緑茶飲料の茶カテキン含有量は1杯(120mL)あたり約80mgで、本研究で使用した高濃度茶カテキン試験食の茶カテキン含有量は、市販の緑茶飲料の6~7倍に相当する。
介入中は管理栄養士が1日の総タンパク質摂取量を調整し、食事管理を行った
ベースラインにおいて3群間で、年齢、男女比、BMI、ふくらはぎ周囲長、1日の歩数、および、簡易栄養状態評価表(Mini Nutritional Assessment-Short Form;MNA-SF)のうコアに有意差はなかった。
介入期間中は、筋肉量や筋力に影響を及ぼし得る1日の総タンパク質の摂取量が、全群とも1.2g/kg/日以上となるように管理栄養士による食事管理が行われた。ベースライン時および介入終了時の食事調査の結果から、総エネルギー量および総タンパク質摂取量に、有意な群間差がないことが確認された。
Ex群、Ex+AA群、Ex+AA+TC群の順に、介入による有意な改善項目が増加
84名のうち6名が研究参加への同意を取り下げ、最終的な解析は78名を対象に行われた(Ex群26名、Ex+AA群25名、Ex+AA+TC群27名)。24週間の介入によって、各群でそれぞれ以下の有意な変化が認められた。
筋力トレーニング群(Ex群):
筋力トレーニングのみを行ったEx群では、握力(介入前25.0±4.5→介入後25.8±4.4kg.p=0.007)、膝伸展筋力(20.8±4.4→21.5±4.3kg.p=0.017)、歩行速度(1.30±0.17→1.33±0.15m/秒.p=0.012)、および身体的QOLスコア(45.9±9.1→50.0±5.7点.p=0.016)が有意に向上していた。
必須アミノ酸群(Ex+AA群):
必須アミノ酸摂取を追加したEx+AA群ではEx群と同様、握力(25.0±4.2→25.5±4.3kg.p=0.019)、膝伸展筋力(23.7±6.9→24.4±6.7kg.p=0.020)、歩行速度(1.30±0.12→1.34±0.13m/秒.p=0.002)、身体的QOL(44.4±9.6→49.5±5.2点.p=0.041)が有意に向上し、さらに四肢の骨格筋量指数(skeletal muscle index;SMI)も有意に向上していた(6.26±0.55→6.35±0.52kg/m2.p=0.014)。
茶カテキン群(Ex+AA+TC群):
茶カテキン摂取も追加したEx+AA+TC群では、Ex+AA群と同様、握力(25.2±3.6→25.6±3.7kg.p=0.038)、膝伸展筋力(21.1±4.4→21.9±4.7kg.p=0.013)、歩行速度(1.45±0.16→1.48±0.16m/秒.p=0.008)、身体的QOL(45.6±6.9→49.2±4.1点.p=0.020)、SMI(6.18±0.78→6.29±0.79kg/m2.p=0.004)が有意に向上し、さらにバランス力を表す片足立ち持続時間も有意に伸びていた(65.6±34.6→69.6±32.9秒.p=0.045)。
介入前後の変化率や精神的QOLは群間に有意差なし
続いて、介入前後のSMI、握力、膝伸展筋筋力、歩行速度、バランス力、身体的QOLの変化率をEx群、Ex+AA群、Ex+AA+TC群で比較検討。その結果、これらの変化率に関しては、3群間に有意な差が認められなかった。また、精神的QOLについては3群ともに、介入前後で有意な変化がみられなかった。
以上一連の結果から著者らは結論を、「健常高齢者が筋力トレーニングに加えて、必須アミノ酸や茶カテキンを摂取することで、サルコペニア予防における上乗せ効果を期待できる可能性が示唆された。その一方で、筋力トレーニングのみではSMIの有意な上昇は認められなかった」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effect of ingestion of essential amino acids and tea catechins after resistance exercise on the muscle mass, physical performance, and quality of life of healthy older people: A randomized controlled trial」。〔Asia Pac J Clin Nutr. 2021 Jun;30(2):213-233〕
原文はこちら(APJCN)