米国で貧血の有病率と関連死が増加、原因は食品に含まれる鉄分減少と赤身肉の摂取量減少
貧血は食事の細い人に多いと考えるのが一般的だろう。しかし、肥満大国の米国で鉄欠乏性貧血が増えていて、しかも貧血関連死が増加しているという報告が発表された。背景には、食材中の鉄含有量の減少と、ヘム鉄が豊富な牛肉の消費減少があるという。
1999年以降に6割以上の食品の鉄分が減少し、米国人の鉄摂取量も減少
「食品成分表」を経年的に見ていくと、同じ食材でも栄養素の含有量が変化していることに気付く。例えばよく知られているように、かつて鉄分が豊富と言われていた‘ひじき’も今ではそうでもない。理由は、鉄鍋が使われなくなったためであり、鉄含有量が大きく低下した。そのほかに、調理工程の前段階で既に栄養素含有量が変化していることがある。農作物や魚介類では、旬か旬でないかで栄養素量が異なるのもその一例だ。それに加えて、土壌の変化と、その土壌で収穫された飼料で飼育される畜産物にも影響が及ぶ。
今回発表された研究では、まず、米国農務省が公表しているデータを用い、食材中の鉄分量の経年変化が調査された。
1999年以降に食品コードが変更されておらず、2015年まで経年変化を追える食品1,366品目のうち、62.1%の食品で鉄分濃度が低下していた。例えば、牛肉、豚肉、とうもろこし、そして、大半の果物と野菜の鉄分が低下していた。
鉄分が増えていたのは37.8%で、卵、牛乳、米などが該当した。
赤身肉を控える傾向も関係?
上記と同じ期間に、吸収のよいヘム鉄が多く含まれている主要な肉類のうち、牛肉の一人当たり年間消費量は27.96kg/人/年から23.6kg/人/年へと15.3%減少していた。豚肉の消費量はほぼ変化がなく、鶏肉の消費量は23.3kg/人/年から28.4kg/人/年へと21.5%増加していた。
鉄分摂取量は男性で約7%、女性は1割近く減少
このような食材中の鉄分減少と食習慣の変化によって、米国人の鉄摂取量は実際に減っていることが、国民健康栄養調査のデータから確認された。1999年から2018年にかけて、食事からの鉄摂取量は、成人男性で6.6%、女性では9.5%減少していた。
より具体的にみると、1999~2000年の調査において(米国の国民健康栄養調査は日本のように毎年でなく2年単位で実施されている)、18歳以上の成人女性の鉄摂取量は13.5±0.5mg/日であるのに対して、2017~18年は12.2±0.4mg/日であり、その間のデータも含めた傾向検定により、経年的に有意な減少が認められた(傾向性p=0.029)。18歳未満の女性も同様に、有意な減少が認められた(傾向性p=0.047)。
成人男性では有意でないものの経年的な減少傾向があり(傾向性p=0.071)、18歳未満の男性ではほぼ境界値に近い有意性がみられた(傾向性p=0.059)。
鉄欠乏貧血の有病率と、その関連死が増加
食材中の鉄含有量減少と歩調をあわせるように、鉄欠乏性貧血の有病率が増加していることも、国民健康栄養調査のデータから推測された。
未成年女性の有病率は106%増と、2倍以上に増加
成人女性のヘモグロビン値は、1999~2000年が13.6±0.1g/dLであるのに対して、2017~18年は13.4±0.1g/dLであり、経年的に有意な減少が認められた(傾向性p=0.012)。
貧血の推定有病率をみると、成人女性は1999~2000年が7.9±1.4%であるのに対して、2017~18年は8.7±1.4%であり、経年的に有意な上昇が認められた(傾向性p=0.039)。未成年女性は同順に、3.1±1.1%、6.4±1.9%であり、106%増と2倍以上に上昇していた(傾向性p=0.004)。
男性の有病率も上昇
さらに男性も、前述のように食事からの鉄摂取量の変化は有意でなかったものの、ヘモグロビン値は1999~2000年が15.4±0.1g/dLであるのに対して、2017~18年は15.1±0.1g/dLであり、経年的に有意な減少が認められた(傾向性p=0.012)。
貧血の推定有病率をみると、成人男性は1999~2000年が2.5±0.9%であるのに対して、2017~18年は3.9±1.1%であり、経年的に有意な上昇が認められた(傾向性p=0.015)。未成年男性は同順に、1.4±0.6%、2.3±1.2%であり、上昇しているが傾向性は有意でなかった(傾向性p=0.367)。
貧血関連死が減少する中で、鉄欠乏性貧血関連死は増加
貧血有病率の上昇は、貧血関連死の増加も引き起こしていることが明らかになった。
疾病対策センターのデータをみると、女性の鉄欠乏性貧血患者の年齢調整死亡率は0.056(95%CI;0.053~0.058)であり、男性の0.051(同1.02~1.17)の1.10倍であった。
そして1999年から2018年にかけて、鉄欠乏性貧血関連死の年齢調整死亡率は10万人あたり約0.04人から約0.08人に上昇していた。なお、この間、再生不良性貧血をはじめとする鉄欠乏性貧血以外の貧血を含む全貧血の関連死は、25%以上低下していた。
食品の鉄濃度低下の背景と、食生活の変化の影響
以上から著者らは、「1999年から2018年にかけて、米国内の食品の鉄濃度、米国人の食事からの鉄摂取量、および血清鉄関連指標の低下傾向が認められた。同時に、貧血の有病率と、鉄欠乏が関連する死亡率が増加していた」とまとめている。
農作物の鉄濃度が低下していることの背景としては、灌漑などにより単位作付面積あたりの収穫が増えていること、それにより作物が利用できる土壌中の鉄分が水などに希釈され、食品中の鉄濃度が低下していると推察している。また、米国内の家畜の大半は米国内で栽培された飼料を使い飼育されていることから、結果的に食肉中の鉄濃度も低下していると考えられるという。
このような変化に加えて、牛肉などの鉄分の多い食事から、鶏肉などを多く摂取する食生活に変化したことについては、赤身肉による心臓血管系の疾患リスクが強調されてきたことの影響が想定されるとしている。
文献情報
原題のタイトルは、「Decreased Iron Intake Parallels Rising Iron Deficiency Anemia and Related Mortality Rates in the US Population」。〔J Nutr. 2021 Jul 1;151(7):1947-1955〕
原文はこちら(Oxford University Press)