カフェイン摂取で動態視力がアップし反応時間が短縮する プラセボ対照二重盲検試験
カフェインの新たなエルゴジェニック効果が報告された。日常的なカフェイン摂取量が多くない対象では、カフェイン摂取後に動体視力が向上し反応時間が短縮することが、プラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験によって確認され、著者は「スポーツや車の運転、飛行機の操縦」などにメリットとなり得ると述べている。
動体視力へのエルゴジェニック効果を検討した初めての研究
カフェインはアスリートに広く活用され、最も多く研究されているエルゴジェニックエイドの一つであることは間違いない。視力関連についてもこれまでに、カフェイン摂取後に眼球運動速度やコントラスト感度が向上するといった報告がなされている。しかし著者によると、動体視力への影響はいまだ明らかでなく、本報告が初めての研究とのことだ。
本研究の研究デザインは、プラセボ対照二重盲検クロスオーバー法。具体的には、被験者にカフェインまたはプラセボのいずれかを摂取してもらい、被験者と効果判定者がともに、いずれを摂取したかわからない状況で動体視力を測定。日を改めて、最初に摂取したものとは別の供試食(最初にカフェインを摂取していた被検者にはプラセボ)を摂取してもらい、同様の試験を実施するという方法。
眼疾患や矯正不良の屈折異常(近視や遠視など)がなく、日常のカフェイン摂取量が多くないことを条件に募集された21人(22.5±1.6歳、女性が11人、体重68.4±9.9kg)が試験対象。眼疾患や矯正されていない屈折異常がないことは、試験開始日より前に検眼士によって確認された。
動体視力の評価方法
動態視力は以下の方法で評価した。
背景が白のディスプレー上に黒で「E」が、上向き、下向き、右向き、左向きという4パターンでランダムに表示される。被験者は4m離れた位置に立ち、文字の向きがわかり次第、キーボードの矢印キーを押して正解だと思う方向を回答する。文字の大きさはlogMAR視力で0.8(少数視力で0.16)の大きさから始まり、5回連続で試行され、そのうち3回正解した場合は文字の大きさが0.1logMAR大きく(文字サイズとしては小さく)なり、同様に5回試行される。
「E」の文字は、横方向に水平移動、またはランダムな動きをする。動くスピードは、視角にして5度/秒、10度/秒、20度/秒、30度/秒の4段階。文字が表示される時間は最大20秒とされ、被験者が回答した場合は20秒を待たずに次の課題が表示された。
カフェインまたはプラセボの摂取方法
カフェインは4mg/kgで、被験者の体重にあわせて20mg刻みで調整された。被験者の体重は前記のとおり68.4±9.9kgのため、カフェイン量は273.3±40.7mgとなった。プラセボは300mgのコーンスターチを用いた。
形状や味、色により内容物が識別されることを避けるために、両者ともに不透明なゼラチンカプセルに包装されていた。両者ともに100mLの水とともに摂取された。
カフェイン摂取条件とプラセボ摂取条件は異なる日の同じ時間帯(±1時間)に実施された。試行条件はランダム化され、カフェインまたはプラセボの摂取60分後に、上記の方法で動体視力を評価した。
水平方向の移動の動体視力に有意差
本研究では、カフェイン摂取の影響は、文字の移動速度が4パターンある水平移動とランダム移動において、判別可能だった最も小さな文字、および判別に要した反応時間で動態視力が評価されている。これらのうち、まず判別可能だった最も小さい文字の結果から紹介する。
水平移動/ランダム移動ともに、カフェイン摂取時のほうが小さい文字を判別可能
カフェイン摂取時はプラセボ摂取時に比較し、より小さな文字も判別可能であることがわかった。この条件間の差は、文字が水平移動する設定(p<0.001)、ランダム移動する設定(p=0.002)、いずれも有意だった。
例えば、ティスプレー上を文字が0.71m/秒(視角に対して10度/秒)で動く設定の水平移動条件では、プラセボ摂取前のlogMARが0.16±0.11、プラセボ摂取60分後はlogMAR0.18±0.14と、むしろ摂取後に視力が低下傾向にあるのに対し(logMAR視力で数値が大きいことは視力が悪いことを意味する)、カフェイン摂取前は0.19±0.14、摂取後は0.11±0.09と改善傾向にあり、摂取前後の変化幅に条件間の有意差があった。
文字の動く速さが設定条件のなかで最大の2.31m/秒(視角に対して30度/秒)の設定でも、摂取前後の変化の幅に条件間の有意差が認められた。
これは文字がランダムに動く条件でも同様であり、カフェイン摂取前後の視力の変化は、プラセボ摂取前後の変化に比較し、有意に優れていた。
反応時間は水平移動の場合のみ、カフェイン摂取時のほうが短い
続いて判別に要した反応時間の結果だが、文字が水平移動する設定では条件間に有意差があり、カフェイン摂取条件のほうが短かった(p=0.012)。例えば、ティスプレー上を文字が0.34m/秒(視角に対して5度/秒)で動く設定では、プラセボ摂取前の反応時間が878±159ミリ秒、プラセボ摂取60分後には865±156ミリ秒と、ほとんど変化がないのに対し、カフェイン摂取前は890±130ミリ秒、摂取後は832±100ミリ秒と短縮傾向にあり、摂取前後の変化幅に条件間の有意差があった。
しかし、文字がランダムに動く設定では、摂取前後の変化幅に条件間に有意差は認められなかった(p=0.846)。
著者らは、「本研究において、カフェイン4mg/kgの急性摂取が、プラセボ摂取と比較して動的視力を改善し、反応時間も短縮させることを示した」とまとめ、カフェインによる動体視力への急性効果は、移動するターゲットの判別とそれに対する反応を必要とする職業、例えばスポーツアスリート、プロドライバー、飛行機パイロットの職能にプラスの影響を与える可能性があるとしている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of caffeine ingestion on dynamic visual acuity: a placebo-controlled, double-blind, balanced-crossover study in low caffeine consumers」。〔Psychopharmacology (Berl). 2021 Aug 22〕
原文はこちら(Springer Nature)