「栄養情報はスポーツ栄養士から得るべき」英国エリート・スカッシュ選手の栄養知識調査より
スポーツ栄養に関する情報は、スポーツ栄養士から得るのがベストのようだ。英国のエリート・スカッシュアアスリートを対象に行われた、栄養知識とその影響要因に関する調査の結果から導き出された結論だ。他の情報源を利用しているアスリートは、知識が有意に低かったとのことだ。
世界のエリートスカッシュプレーヤー77人が調査に回答
エリート男性スカッシュ選手は、1試合で平均4,933±620kJ/時(1,179±148kcal/時)を消費すると報告されている。その需要を満たすため、十分なエネルギー摂取が必要とされるが、他のラケット競技と異なりスカッシュ選手の栄養上の推奨に関する情報は不足している。加えて、スカッシュ選手の栄養知識の不足を指摘する報告もみられる。ただし、スカッシュ選手の栄養知識を定量的に評価した報告はまだない。
この論文の著者らは、エリートスカッシュ選手の栄養知識を評価し、かつ、その栄養知識に影響を与える可能性のある要因を特定するために、以下の調査を行った。
「スポーツ栄養知識アンケート」やスカッシュ特異的な栄養研究のテーマを調査
この研究の参加者は、英国のプロスカッシュ協会(Professional Squash Association;PSA)を通じて世界各国から募集された77人のエリートスカッシュプレーヤー。このうち37人が男性、40人が女性で、地域は欧州が55人、アジアが6人、アフリカと北米が各5人など。年齢は24±5歳。PSAの集計による世界ランクは190±167位で、20位以内の選手も6人回答していた。
栄養知識の評価は、スポーツ栄養知識アンケート(Nutrition for Sport Knowledge Questionnaire;NSKQ)により評価した。NSKQは、文化の多様性を勘案して設計され、十分な適用性のあることが検証されている。体重管理(質問数12)、主要栄養素(同30)、微量栄養素(13)、スポーツ栄養(12)、サプリメント(12)、アルコール(8)という6つのカテゴリーからなる合計87項目の質問で構成されている。本研究では正答率が0~49%を‘不十分’、50~65%を‘平均的’、66~75%を‘良好’、76~100%を‘優秀’と判定した。
本調査ではNSKQのほかに、栄養知識に影響を与える要因や、スカッシュプレーヤーとしてとのような栄養研究を期待するかについて質問された。
スポーツ栄養知識アンケート(NSKQ)の結果
微量栄養素やサプリの知識が貧弱だが、アルコールについては詳しい
NSKQの平均スコアは56.07±11.56%だった。これは前記の定義により、「平均的」と判定された。
NSKQの6つのカテゴリーで比較すると、平均スコアが最高点だったカテゴリーは「アルコール」であり、評価は‘良好’に該当した。その他、「主要栄養素」、「体重管理」、および「スポーツ栄養」は‘平均的’に該当した。「サプリメント」は知識が‘不十分’に該当するアスリートが最も多いカテゴリーだった。
なお、これらの傾向に、性別による有意な群間差はみられなかった。
年齢や教育歴が、栄養知識と有意に相関
栄養知識(NSKQスコア)は高齢であるほど豊富であるという有意な相関が認められた(r=0.281,p=0.013)。NSKQのカテゴリー別にみても、体重管理と有意な正相関が認められた(r=0.288,p=0.011)。また、教育歴が長いこともNSKQスコアに有意な影響を及ぼしていた(p=0.024)。スポーツ関連の学位を保有しているアスリートは、そうでないアスリートよりもスコアが有意に高かった(p=0.022)。
このほか、わずかに非有意ながら、スカッシュの世界ランキングが高いほど栄養知識が豊富(NSKQスコアが高い)という傾向も認められた(r=0.208,p=0.069)。NSKQのカテゴリー別でも体重管理に関しては、世界ランキングが高いほど優れている傾向があった(r=0.211,p=0.066)。
栄養に関する知識の主な情報源は、スポーツ栄養士や栄養士がベスト
栄養に関する知識をどこから得ているかによって、NSKQスコアに有意な差がみられた。
最もNSKQスコアが高い群が参照していた情報源は、スポーツ栄養士、栄養士、管理栄養士であり、スポーツ科学者(sport scientist)から主に情報を受けていたアスリートに比較し、スコアが有意に高く(p=0.01)、インターネットやソーシャルメディアから情報を得ていたアスリートよりもやはり有意に高かった(p=0.007)。
スポーツ栄養士の関与の影響は、エリートと非エリートで異なるのか?
上記のように本研究からは、スポーツ栄養士から主な栄養情報を入手していたアスリートのほうが、スポーツ科学者やインターネット/ソーシャルメディアから得ていたアスリートよりも栄養知識が豊富だった。しかし既報の中には、アスリートの栄養情報の主な情報源が異なっていてもアスリートの栄養知識に差はないとの報告がある。
本研究の著者らは、既報との結論と異なる結果が得られたことの背景として、情報源の差はアスリートの栄養知識に関連しないとした研究は、検討対象が非エリートのアスリートであり、一方で本研究は世界のエリートアスリートであるという、検討対象の違いが一因ではないかと考察している。
スカッシュのために期待する将来のスポーツ栄養研究
このほかに本調査では、今後、研究を充実してほしいと思うテーマとして、トレーニング期間中のエネルギー摂取の定量化(71.43%)が1位に挙げられた。2位は、競技期間中のエネルギー摂取の定量化(44.16%)で、以下、免疫機能をサポートする栄養(22.08%)、スカッシュのエルゴジェニックエイドの定量化(20.78%)、スカッシュによるナトリウム損失の定量化(12.99%)と続いた。
著者の結論と考察は…
著者らは本研究の限界点として、調査に際して回答時にはリソース(本、インターネットなど)を使用しないことを回答者に求めたものの、実際に回答者がそれらを参照しなかったかどうかは確認不能であること、NSKQの内容がスカッシュ特異的なものではないこと、質問はすべて英語であったため他言語を母国語とするアスリートには不利であった可能性があることを挙げている。
そのうえで、「エリートスカッシュアスリートの栄養知識はその情報減が左右する可能性がある。アスリートはスポーツ栄養士に相談すべきであり、インターネットやソーシャルメディアを使用することを思いとどまらせる必要がある」と述べている。また、スポーツ科学者から主な情報を入手していたアスリートの栄養知識が高くなかったことに関して、「スポーツ科学者は、スポーツ関連のメカニズムを研究し伝える存在であり、それらの情報を、アスリートが必要とする実用的な栄養摂取の推奨に、うまく変換できていないのかもしれない」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Elite squash players nutrition knowledge and influencing factors」。〔J Int Soc Sports Nutrs. 2021 Jun 10;18(1):46〕
原文はこちら(Springer Nature)