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運動前の炭水化物摂取による持久力パフォーマンスの向上と関連のある因子は?

運動前の炭水化物摂取により、ランニング速度が速くなり、疲労困憊までの時間が有意に長くなるというパフォーマンスの向上が、21名の男性ランナーを対象とする研究の結果として確認された。ただし、パフォーマンス向上につながると考えられる最大酸素摂取量や乳酸閾値には、炭水化物摂取量の多寡による有意な変化は生じないというデータも示された。ノルウェーの研究者らの報告。

運動前の炭水化物摂取による持久力パフォーマンスの向上と関連のある因子は?

炭水化物摂取による持久力向上と関連のある決定変数を探る

炭水化物は高強度運動中の重要なエネルギー源であり、運動前の炭水化物摂取が持久力の向上に有益であることには多くのエビデンスが存在する。運動前の炭水化物摂取により、肝グリコーゲンに加え、筋グリコーゲンもわずかに増加すること、運動中の炭水化物酸化が亢進することなどが関与している。ただ、炭水化物摂取によるパフォーマンス向上を決定づける因子は明確にはわかっていない。

そこで本論文の著者らは、運動前の炭水化物摂取による持久力パフーマンスへの影響と、そのパフォーマンスを決定するうえで最も重要と考えられる三つの因子、最大酸素摂取量(VO2max)、乳酸閾値、運動効率(エネルギーコスト)とともに評価するという研究を行った。また、炭水化物の酸化レベルはふだんのトレーニング量により異なることが報告されているため、トレーニングレベルの異なる2群を設定して検討した。

ハイレベルアマチュアとレクリエーションアスリート、計21名で検討

研究の対象は、21人の喫煙習慣のない健康な男性。1群(n=11)は、プロではないながら1日1~2回トレーニングを続けている「ハイレベルアマチュア」で、競技会参加レベルの陸上長距離、トライアスリート、ボート競技選手で構成されていた。もう1群(n=10)はレクリエーションアスリート。

参加者の主な特徴は以下のとおり。年齢(24~25歳)と最大心拍数(198~200bpm)には群間に有意差がなく、BMIはハイレベルアマチュア群23.2±1.9、レクリエーション群28.7±4.4(p<0.05)であり、後者の方が有意に高かった。VO2maxは同順に71.9±5.1、46.9±2.5mL/kg/分(p<0.001)で、前者の方が有意に高かった。

絶食、低炭水化物、高炭水化物の3条件で比較

試験デザインは、全被験者に対して以下の三つの条件でのテストを行う無作為化クロスオーバー法。

  • 条件1は、テスト前の少なくとも12時間は絶食とする「絶食条件」。
  • 条件2は、テストの3時間半前に、精白パン、ジャム、脱脂乳、オーツ麦、バナナ、レーズンにより、3g/kgの炭水化物を摂取する「高炭水化物条件」。
  • 条件3は、テストの3時間半前に、ヨーグルト、アーモンド、アボカドにより、0.5g/kgの炭水化物で条件2(高炭水化物条件)と同エネルギー量を摂取する「低炭水化物条件」。

3回のテストの順序はランダム化され、各テストの間隔は少なくとも6日以上あけた。被験者はテスト24時間前からのカフェイン摂取は禁止され、また、個々の食事摂取記録に基づき、各テスト前の3日間はなるべく同じものを摂取するように指示された。

疲労困憊に至る時間や最大速度に条件間の有意差

運動負荷テストは5.3%の傾斜のあるトレッドミルを用いて行われた。テストに先立ち、6日以上前にベースライン測定を実施。速度を毎分1km/時ずつ増速することで、疲労困憊に至るまでの時間(time to exhaustion;TTE)を計測。

食事摂取内容を変えた3条件では、ベースラインの測定値の40~50%の負荷で10分間のウォームアップに引き続き、5分ごとに、50%、60%、70%、80%、90%と強度を強化した。

疲労困憊に至るまでの時間(TTE)は、高炭水化物条件が有意に長い

疲労困憊に至るまでの時間(TTE)は、ハイレベルアマチュア群では、高炭水化物条件で5分52秒00±1分31秒45、低炭水化物条件で5分30秒30±1分24秒09、絶食条件で5分22秒50±1分9秒04であり、高炭水化物条件は低炭水化物条件に比較し6.2%、絶食条件に比較し8.5%、それぞれ有意に長かった。

レクリエーション群では同順に、5分45秒21±51秒28、5分17秒30±1分03秒63、5分18秒90±1分1秒66で、高炭水化物条件は低炭水化物条件に比較し8.1%、絶食条件に比較し7.6%長かった。TTEに対する影響は、ハイレベルアマチュア群とレクリエーション群との間に有意な交互作用はなかった。

最大速度も、高炭水化物条件が有意に速い

最大速度は、ハイレベルアマチュア群では、高炭水化物条件で17.5±1.5km/時、低炭水化物条件で16.9±1.4km/時、絶食条件で16.9±1.7km/時であり、高炭水化物条件は他の2群に比較し有意に高速だった。レクリエーション群では同順に、11.3±1.1km/時、10.8±1.5km/時、10.9±1.4km/時だった。

VO2max、乳酸閾値、運動効率は条件間に有意差なし

VO2max、乳酸閾値、運動効率は、条件間の有意差が認められなかった。ハイレベルアマチュア群とレクリエーション群との比較では、前者のほうがすべて高かった。

その一方で、ハイレベルアマチュア群の運動負荷中の血糖値は、絶食条件、低炭水化物条件、高炭水化物条件の順に高く、複数のポイントで有意差が存在した。レクリエーション群はハイレベルアマチュア群に比較し低値で推移し、条件間の差はわずかだった。

また、呼吸交換比(respiratory exchange ratio;RER)は両群ともに、高炭水化物条件、低炭水化物条件、絶食条件の順に高かった。

持久力パフォーマンス決定変数は、炭水化物摂取の影響を受けない可能性

著者らは本研究の限界点として、介入条件が盲検化されていなかったため、炭水化物摂取条件では被験者の期待が高まり、TTEや最大速度に影響を与えた可能性があるとしている。また、ハイレベルアマチュア群とレクリエーション群とで摂取エネルギー量やBMIに差があるため、群間に差異のみられた血糖変動などの結果の解釈が制限されること、ハイレベルアマチュア群は、日常の炭水化物摂取量が推奨量よりも少なかったことなどを挙げている。

そのうえで結論を、「相対的に炭水化物含有量が多い運動前の食事は、十分に訓練されたアスリートとレクリエーションレベルのアスリートの両方で、絶食状態や相対的に炭水化物含有量の少ない運動前の食事に比べて、TTEが長く、かつ最大速度が速かった。ただし、VO2maxや乳酸閾値、運動効率には差がない。今後の研究では、持久力パフォーマンスの評価を目的とする場合、運動前の炭水化物摂取量を標準化する必要がある一方、パフォーマンス決定変数の評価が目的であれば、運動前の炭水化物摂取量の標準化はそれほど重要ではないかもしれない」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effect of Carbohydrate Content in a Pre-event Meal on Endurance Performance-Determining Factors: A Randomized Controlled Crossover-Trial」。〔Front Sports Act Living. 2021 May 28;3:664270〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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