食品廃棄物の減少と栄養の質の向上をどのように両立させるか? スコーピングレビュー
食品廃棄物と栄養は、環境衛生や公衆衛生という面で密接に関連している。しかしこれまで、それら両者の関連をテーマとした研究のレビューは行われていないようだ。今回は、アイルランドの公衆衛生と理学療法の専門家2名が発表した、食品廃棄と栄養の質の関連を探るスコーピングレビューを紹介する。なお、スコーピングレビューは、研究途上にあり、システマティックレビューを実施する状況に至っていない研究テーマについて、情報の整理や課題の抽出を目的とするレビューのこと。
世界人口の4分の1が飢餓に瀕している一方、食品の3分の1は廃棄されている
持続可能な食料システムへの移行は世界的な課題となっている。「持続可能な食料システム」は、世界食料安全保障委員会(Committee on World Food Security;CFS)が2014年に定義した、将来の世代のために経済的、社会的、環境的基盤が損なわれないようにしつつ、食料安全保障と栄養を提供するシステム。現在の世界の食料システムはこの定義に適っていない。
国連は、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals;SDGs)の一環として、2030年までに「小売や消費者レベルで1人あたりの食品廃棄物を半減すること」、「リサイクル等により廃棄物の発生を大幅に削減すること」を目標に掲げている。食品の無駄や廃棄物は、食品サプライチェーンのさまざまな段階で発生している。
一方、2019年に世界で20億人(世界人口の25.9%)が飢餓の影響を受けるかまたは、十分な栄養を摂取していない。食品の約3分の1(13億トン)が毎年、食品サプライチェーンのいずれかの過程で廃棄されているにもかかわらず、である。
論文の著者らは、この現状を背景として、食品廃棄と公衆衛生、栄養、環境衛生に関する学際的なテーマを選び出し、それらが持続可能な食料システムの形成に、どのように役立つかを特定するため、以下のスコーピングレビューを行った。
PRISMA-ScRに則して文献を検索
2人の研究者が事前に定義されたプロトコルに従い文献検索を行った。2021年1~2月に、Scopus、MEDLINE、GlobalHealthという3つの文献データベースを用い、環境衛生、公衆衛生における栄養や食事の質と食品廃棄物またはプラスチック廃棄物に関する報告を検索。2010~2021年に発表され英語で執筆されていることを条件とした以外、研究の手法には制限を設けず、すべての研究手法を含めた。
スクリーニングは3段階で実施された。まず、最初の検索で6,649件がヒット。タイトルとアブストラクトによるスクリーニングに続き、全文に基づくスクリーニングを行い、最終的に33件の報告が抽出された。なお、この工程は、「システマティックレビューとメタ解析のための優先報告事項のスコーピングレビューチェックリスト(PRISMA-ScR)」に則して行われた。
エネルギー量や栄養素の損失の実態
抽出された報告から、世界中で廃棄されている食品をエネルギー量や栄養素に関する情報を整理したところ、1人1日あたりの損失の実態が以下のように明らかになった。
1人1日あたりの損失
4つの主要テーマのオーバービュー
33件の報告が扱っているテーマを分類したところ、この領域の研究は主として以下の4つに集約が可能と考えられた。これらの4つのテーマについて分析し考察を加えている。
- (1)食品廃棄物と食事の質、栄養素の損失、および環境衛生
- (2)食品廃棄物の削減のための介入と食事の質
- (3)フードバンクと食事・栄養の質
- (4)栄養と食事のガイドラインでの食品・プラスチック廃棄物。論文ではこれ以降
食品群別では野菜・果物の廃棄がとくに重要
例えばテーマ(1)に関連して、1人あたり無駄な食料の量は、調査が実施された国や地域、そこに暮らす人々の食事習慣や社会全般の物を廃棄することの受け取り方の違い、さらにはサンプルサイズ、食品廃棄物の測定方法などに差があるため、結果に大きな差があったとし、これは食品廃棄物の研究では珍しいことではないと述べている。
また、食品廃棄物を重量で比較した場合、果物と野菜が最も廃棄量の多い食品群として特定された。これは、食物繊維やカロテノイドなどの栄養素が大きく失われていることを意味する。さらに、果物や野菜の生産のための灌漑用水、作付けする土地の損失、農薬の使用量増大といった影響のほか、CO2排出量の増加にもつながっているという。
この現状への対策としては、食品廃棄物の削減とともに果物と野菜の消費を促進する介入により、環境への影響を削減しながら公衆衛生・栄養のメリットの最大化を目指すべきだとしている。
フードバンクはとくに微量栄養素の再分配が不足
テーマ(3)で取り上げているフードバンクは、余剰食品を再分配する効果的な手段である。食品へのアクセスを改善し、食品廃棄物による環境への悪影響を削減できる可能性をもつ。しかし、本レビューの結果は、フードバンクは利用者の栄養ニーズを満たしていないことを示している。
最も一般的な問題の一つは、微量栄養素の供給不足だった。これは、前述の果物と野菜の廃棄量が多いことと関連があると考えられる。ただし問題の解決の模索が行われている状況も示された。具体的には、輸送時間や保管施設などの課題が特定され、一部では栄養価に焦点を当てて、生鮮食品の大規模な再配布を実現している事例も報告されていた。
栄養に関する啓発活動では、食品廃棄の問題を同列に扱う動きも
全体として、食品廃棄物、プラスチック廃棄物、および栄養は、根幹において関連しており、持続可能な食品システムへ移行していくうえで重要な要素であるにもかかわらず、それらを統合した議論は少ないことがわかった。さらに、このレビューで扱われた研究テーマのほかにも、マイクロプラスチックと食物連鎖、超加工食品などの課題が存在する。
反対に、教育現場からの報告では、持続可能な食料調達システムと、健康的な食事と食品廃棄物の削減を統合可能であることが示唆された。また、食品ベースの食事ガイドライン(Food-Based Dietary Guidelines;FBDG)策定の動きが国単位で始まっており、それらのガイドラインの中では消費者向けのメッセージとして、食品廃棄物、プラスチック廃棄物の問題を、栄養に関する知識と同列に扱っているものも増えているという。
文献情報
原題のタイトルは、「Food Waste and Nutrition Quality in the Context of Public Health: A Scoping Review」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 May 18;18(10):5379〕
原文はこちら(MDPI)