バスケットボール選手のパフォーマンス向上にビタミンD値が影響する可能性
バスケットボールのパフォーマンスに重要なジャンプ力と、ビタミンDレベルとの間に有意な相関があることが、スペインのハイレベルクラブに所属するユースアスリート対象の研究から明らかになった。ただしその相関の方向が性により異なるという。また、ユースアスリートであっても、ビタミンDレベルが低い傾向が認められたとのことだ。
スペインのバスケトップリーグに所属のユースアスリート対象の研究
ビタミンD、とくにビタミンD3(コレカルシフェロール)は、骨代謝、炎症、免疫など健康に多様な影響を及ぼし、骨格筋のパフォーマンスにも関与するとの報告もみられる。かつ近年、スポーツアスリートはビタミンD欠乏症のリスクが高いとの報告が増えている。ビタミンDは経口摂取以外に、日光曝露による皮膚での産生経路もあるため、屋内スポーツではビタミンD欠乏のリスクがより高くなる。実際に全米バスケットボール協会(National Basketball Association;NBA)選手のビタミンD不足の有病率の高さが報告されている。
バスケットボールのパフォーマンスを左右する重要な能力の一つに、ジャンプ力が挙げられる。今回紹介する論文は、バスケットボール選手のビタミンDレベルの実態を調査し、かつ、その結果とジャンプ力との間に何らかの関連が存在するかを性別に検討することを目的に実施された研究の結果。
ビタミンD値と垂直・水平ジャンプ力の関係を検討
研究参加者は、スペイン国内のトップレベルのクラブに所属する27名のユース選手。男子が13名(15.54±0.52歳、190.73±6.45cm、78.17±8.87kg)女子は14名(16.00±0.55歳〈全員初潮発来後〉、174.20±6.35cm、67.98±6.73kg)。テストが行われたのは12月で、北半球にある同国では日射量が最も少ない季節にあたる。参加者はテストの1週間前からカフェインやエナジードリンクを摂取せず、ふだんの食生活を続けるように指示された。
評価項目は、身長や体重、採血によるビタミンDやカルシウムなどの測定と、ジャンプ力。ジャンプ力は、アバラコフテストによる垂直ジャンプ力と、トリプルホップテストによる水平ジャンプ力を評価した。
なお、アバラコフテストは、腕を腰に当て腕の運動を利用できない状態でジャンプする方法で、脚力をより正確に評価できる。本研究では、両足および左右片方の足で各3回実施し、それぞれの最高記録を解析に用いた。トリプルホップテストは連続3回のジャンプの跳躍距離を評価した。左右片方の足で2回ずつ実施し、最高記録を解析に用いた。
血液検査の結果とジャンプ力の計測結果
ビタミンDレベルは性別による有意差なし
結果について、まず血液検査の値をみると、ビタミンDは、男子が28.92±6.40ng/mL、女子は29.14±6.08ng/mLであり、ともに基準範囲内ながら低めの値だった。男女間に有意差はなかった。
その他、葉酸、ビタミンB12、マグネシウム、鉄、カルシウム、コルチゾール、甲状腺刺激ホルモン(TSHL)にも有意差はなかった。
ジャンプ力は男子の方が有意に優れている指標が複数存在
続いてジャンプ力の計測結果をみると、左足の垂直ジャンプ力は男子のほうが有意に強く、水平ジャンプ力については、左足と右足の双方とも男子のほうが有意に強かった。具体的には以下のとおり。
アバラコフテスト(垂直ジャンプ力)
両足;男子35.71±3.92cm、女子33.37±4.83cm(p=0.182)。左足;男子24.14±2.24cm、女子19.14±4.32cm(p=0.005)。右足;男子21.29±2.99cm、女子20.31±3.42cm(p=0.436)。
トリプルホップテスト(水平ジャンプ力)
左足;男子6.10±0.37m、女子5.10±0.70m(p<0.001)。右足;男子6.13±0.61m、女子5.23±0.69m(p=0.001)。
ジャンプ力の指標の一部がビタミンDレベルと有意に相関
次に、ビタミンDレベルとジャンプ力の各指標との関連を検討した。
すると、男女ともに、両足でのアバラコフテスト(垂直ジャンプ力)の計測値が、有意に相関することが明らかになった。ただし相関の方向は逆で、男子では正相関(ビタミンDレベルが低いほど垂直ジャンプ力が低い)、女子では逆相関(ビタミンDレベルが高いほど垂直ジャンプ力が低い)していた。相関係数は、男子が0.703(p<0.01)、女子は-0.611(p<0.05)であり、BMIで調整すると、それぞれ0.796(p<0.01)、-0.597(p<0.05)と、男子では相関が強くなり女子では弱くなったが、いずれも有意性が保たれていた。
また、右足のトリプルホップテスト(水平ジャンプ力)については、女子のみ、ビタミンDレベルとの有意な逆相関が確認された(BMIで調整後-0.685,p<0.01)。
上記以外の指標や、男女あわせて検討した結果は、ビタミンDレベルとの有意な関連は認められなかった。
ビタミンDレベルのコントロールに栄養介入の検討が必要
著者らは、「本研究の参加者は、その若さにもかかわらずビタミンDレベルが不十分であった。ビタミンD低値はエリートアスリート、とくに屋内競技のアスリートに多いと考えられる。シーズンを通してビタミンDレベルをコントロールするさまざまな手段、例えば食事の工夫やサプリメント摂取、日光への曝露などを検討する必要がある」と結論をまとめている。そのうえで、「ビタミンD低値のパフォーマンスとの関連は性別によって異なるようだ。トレーニング、その他の要因の影響もあわせた検討が望まれる」と結んでいる。
文献情報
原題のタイトルは、「Hypovitaminosis D in Young Basketball Players: Association with Jumping and Hopping Performance Considering Gender」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 May 19;18(10):5446〕
原文はこちら(MDPI)