毎日のタンパク質摂取量をわずかに増やすだけで除脂肪体重を増やせる 明治と宮地氏らの研究
総タンパク質摂取量が1.3g/kg/日以下の場合、毎日の摂取量が0.1g/kg/日増えるごとに除脂肪体重が数カ月で0.39kg増えるという有意な用量反応関係があることが、システマティックレビューとメタ解析の結果から明らかになった。また、タンパク質摂取量が1.3g/kg/日を上回る場合は毎日の摂取量0.1g/kg/日増ごとに数ヶ月で除脂肪体重0.12kg増と、増加の割合は低下するが、それでも有意な用量反応関係があるという。株式会社明治と医薬基盤・健康・栄養研究所(現・早稲田大学スポーツ科学学術院教授)宮地元彦氏らの研究で、「Nutrition Reviews」にさきごろ論文が掲載された。
タンパク質を多く摂ると骨格筋量はどのくらい増えるのか?
タンパク質摂取量と骨格筋量の関連についてはこれまでに複数の無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)が実施されているが、結果に一貫性がみられない。また、骨格筋量に影響を与え得るレジスタンストレーニングを行っているか否かという点を十分考慮したメタ解析は、まだ行われていない。
そこで宮地氏らは、タンパク質摂取量と除脂肪体重(lean body mass;LBM)の増加との間の用量反応関係を評価すること、および、レジスタンストレーニング併用の有無によりその関係が変化するか否かを評価することを目的として、システマティックレビューとメタ解析を行った。
システマティックレビューの手順
文献検索には、PubMedと医中誌Webを用いた。採用基準は、成人を対象としたタンパク質摂取量と除脂肪体重との関連を検討している介入期間が2週間以上の無作為化比較試験であり、 英語または日本語で発表された論文を本研究に含めた。対象者に重篤な疾患(がん、慢性腎不全など)の罹患者を含む研究や、骨格筋量に影響を及ぼし得るサプリメント(ロイシン、HMB、クレアチン、ビタミンDなど)を摂取していてその用量に群間差があるものは除外した。2019 年5月27日までに公開された論文から、検索によりヒットした1,700報について、2名の独立した研究者がタイトルとアブストラクトを基にスクリーニングした。抽出された296報について、論文全文を評価する二次スクリーニングの対象とした。採否に関する意見の不一致は討論によって解決した。
これらの手順は、システマティックレビューとメタ解析に関する優先報告項目 (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analyses; PRISMA)に準拠して実施された。
メタ解析対象研究の特徴
最終的に105報が抽出され、研究対象者数は合計5,402人だった。それらのうちレジスタンストレーニングを伴う研究に2,325人、伴わない研究に3,077人が参加していた。レジスタンストレーニングを伴うものと伴わないもの、双方の研究を行った報告も4報含まれていた。
タンパク質摂取量は、介入群が0.64〜3.50g/kg/日の範囲にあり平均は1.58±0.59g/kg/日)、対照群(非介入群)は0.52〜2.00g/kg/日の範囲にあり平均1.04±0.35g/kg/日だった。また研究期間中に介入群ではタンパク質摂取量が31±27g/日、有意に増加していた。一方、対照群では研究期間中にタンパク質摂取量が−5±15g/日、有意に減少していた(いずれもp<0.01)。介入期間は2週間〜18カ月の範囲で、平均19.8週だった。
全体での解析とサブグループ解析ともに有意な群間差
それでは、メタ解析の結果をみていこう。
論文ではまず、研究期間中に生じた除脂肪体重の変化を介入群と対照群とで比較し、変化量の差を示している。105報の論文に含まれていた介入群は合計138群だった。それら全トライアルを対象とする解析では、研究期間中の除脂肪体重の増加量は介入群が対照群よりも0.51kg多く、有意差が存在した。
また、タンパク質摂取量やレジスタンストレーニング併用の有無で層別化した解析結果も、除脂肪体重はいずれも介入群で大きく増加しており、有意な群間差が認められた。 具体的には以下のとおり。
- 全トライアルでの解析(138群、5,866人):
- 増加幅の平均差0.51(95%CI;0.36〜0.65)kg
- タンパク質摂取量別のサブグループ解析:
- 摂取量0.3g/kg/日未満(40群、1,815人);増加幅の平均差0.38(95%CI;0.20〜0.55)kg
- 摂取量0.3〜0.6g/kg/日(56群、2,641人);増加幅の平均差0.41(95%CI;0.19〜0.63)kg
- 摂取量0.6g/kg/日以上(42群、1,410人);増加幅の平均差0.80(95%CI;0.45〜1.14)kg
- レジスタンストレーニング併用の有無別のサブグループ解析:
- レジスタンストレーニングを伴う介入(72群、2,686人);増加幅の平均差0.48(95%CI;0.31〜0.65)kg
- レジスタンストレーニングを伴わない介入(66群、3,180人);増加幅の平均差0.53(95%CI;0.36〜0.76)kg
タンパク質摂取量と除脂肪体重に、正の用量反応性
続いて、多変量解析にて交絡因子(年齢、性別、介入期間、レジスタンストレーニングの有無)を調整後、タンパク質摂取量と除脂肪体重との関連が検討された。その結果、毎日の総タンパク質摂取量が多いほど、数カ月間の除脂肪体重の増加幅が大きいという、正の用量反応性が認められた。1日のタンパク質摂取量が1.3 g/kg以下の場合には、タンパク質摂取量の増加に伴い除脂肪体重がより大きく増加し、摂取量が1.3 g/kgを上回ると、除脂肪体重が増えにくくなることもわかった。ただし、関連はいずれも正の相関だった。
タンパク質摂取量が0.1g/kg/日多いごとに生じる除脂肪体重の増加は、以下のとおり。
- 全トライアルでの解析:
- タンパク質摂取量が1.3g/kg/日以下の場合は0.39(95%CI;0.36〜0.41)kg
- タンパク質摂取量が1.3g/kg/日を上回る場合は0.12(95%CI;0.11〜0.14)kg
- レジスタンストレーニングを伴う場合:
- タンパク質摂取量が1.3g/kg/日以下の場合は0.06(95%CI;0.03〜0.08)kg
- タンパク質摂取量が1.3g/kg/日を上回る場合は0.08(95%CI;0.06〜0.09)kg
- レジスタンストレーニングを伴わない場合:
- タンパク質摂取量が1.3g/kg/日以下の場合は0.40(95%CI;0.37〜0.43)kg
- タンパク質摂取量が1.3g/kg/日を上回る場合は0.26(95%CI;0.23〜0.29)kg
調整因子に体重増加率を加えても、レジスタンストレーニング併用で除脂肪体重が増加
介入に伴う除脂肪体重の増加とともに、体脂肪量増加により体重が増加する場合がある。そこで上記で示した交絡因子に体重増加率も加えた解析も行い、摂取したタンパク質が除脂肪体重増加に利用される効率も考慮した。その解析では、レジスタンストレーニングを伴う介入の場合、タンパク質摂取量が多い場合でも除脂肪体重増加の効率は落ちないことが認められた。
ただし、レジスタンストレーニングを伴わない介入では、1日のタンパク質摂取量が1.3g/kgを上回ると、摂取したタンパク質が除脂肪体重増加に利用される効率が悪くなることが示された。
タンパク質摂取量をわずかに増やすだけで、除脂肪体重を増やせる
以上一連の結果から、著者らは以下のように結論をまとめている。
「このメタ解析によりタンパク質摂取量の多いことが、用量依存的に除脂肪体重の増加を促すことが明らかになった。わずか0.1g/kg/日の摂取量増加でさえ、数カ月の介入で筋肉量を増加させ得ることが示唆された。摂取したタンパク質が除脂肪体重増加に利用される効率は、タンパク質摂取量が1.3g/kg/日を超えると急速に低下するが、レジスタンストレーニングを併用することで、その減少が抑制される。よって除脂肪体重の増加には、レジスタンストレーニングを行いながらタンパク質摂取量を増やすことが推奨される」。
文献情報
原題のタイトルは、「Dose-response relationship between protein intake and muscle mass increase: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials」。〔Nutr Rev. 2020 Nov 4;79(1):66-75〕
原文はこちら(Oxford University Press)