国内の女子大学生アスリートの三主徴と受傷率の関係が明らかに 新潟医療福祉大
国内の女子大学生アスリートを対象に行われた研究から、女性アスリートの三主徴(female athlete triad;FAT)のリスクと受傷率との関連が明らかになった。競技別では陸上長距離で高リスク、水泳は低リスクであることや、高リスクに該当するアスリートは実際に疲労骨折などの受傷率が高いという有意な関連が示された。新潟医療福祉大学アスリートサポート研究センターの江玉睦明氏らの研究の結果であり、「PeerJ」に論文掲載された。
研究の背景と手法について
女性アスリートに多くみられる、利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)、月経異常、骨粗鬆症という3つの健康障害は、「女性アスリートの三主徴(female athlete triad;FAT)」と呼ばれ、女性アスリートの健康管理上の重要な問題として認識されている。実際にFATと疲労骨折との関連については多くの報告がなされている。ただし、FATのリスク状態と、疲労骨折以外のさまざまなスポーツ外傷との関連を調査した研究は多くなく、とくに国内からの報告は限られている。江玉氏らはこの点を明らかにするため、FAT高リスクに該当する国内女子大学生アスリートは受傷率が高いとの仮説のもと、以下の検討を行った。
116人の女子大学生アスリートを対象に調査
調査対象は116人の女子大学生アスリート。平均年齢は19.8±1.3歳であり、67人は10代で49人が20代。参加競技はサッカーが27人、バスケットボール26人、陸上短距離19人、バレーボール17人、水泳11人、陸上長距離8人、投てき/跳躍8人。
骨密度とLEAは既報に基づき判定した。具体的には、骨密度については超音波測定装置により右脚の踵骨(かかとの骨)で評価し、骨密度のZスコアが-1.0未満の場合を「骨密度低値」と定義。LEAについては、10代のアスリートの場合は理想体重(ideal body weight;IBW)の85%未満、20代の場合はBMI17.5以下をLEAと定義した。
FATのリスク評価の方法
FATのリスクは、以下の6項目をスコアリングし、その合計スコアで評価した。
- (1)LEA:精神科医による治療歴がある場合は2点、ダイエットなどにより摂取エネルギー量が不十分であることが明らかな場合は1点、それらに該当しない場合は0点。
- (2)低BMI値:20代のアスリートはBMI17.5以下、10代はIBW85%未満の場合に2点とし、同順にBMI17.6~18.4、IBW90%未満の場合は1点、BMI18.5以上、IBW90%以上の場合は0点とした。
- (3)初経遅延:初経発来が16歳超の場合は2点、15~16歳は1点、15歳未満は0点。
- (4)稀発月経/無月経:3カ月以上の無月経または1年間の月経回数が6回未満の場合は2点、1年間の月経回数が6~9回は1点、同9回超は0点。
- (5)骨密度低値:骨密度のZスコアが-2以下は2点、-2~-1は1点、-1超は0点。
- (6)疲労骨折:疲労骨折または海綿骨損傷の既往が2回以上の場合は2点、1回の場合は1点、既往なしは0点。
これら(1)~(6)を合計した値が0~1点の場合は「低リスク」、2~5点の場合は「中リスク」、6点以上の場合は「高リスク」と判定した。
受傷数のカウント
本研究では上記のリスクスコアと、スポーツ活動中の受傷回数との関連を検討している。
受傷回数については、2018年4月~2019年3月の1年間に、受傷後24時間以上、競技やトレーニングを行えなかった場合をカウントした。なお、疲労骨折などの重度な傷害は、医師が画像診断等により診断した。
FAT構成因子の有病率と、参加競技ごとのリスクの傾向
結果について、まず、FATの3つの構成因子の有病率をみると、LEAに該当したアスリートは3.4%、月経異常は5.2%であり、骨密度低値の該当者はいなかった。また、複数の構成因子が重複しているアスリートもいなかった。
水泳はFAT低リスク、陸上長距離は高リスク:
次に、前記の手法で評価したFATのリスクスコアをみると、低リスク73.3%、中リスク25.9%、高リスク0.8%となった。競技種目で比較すると、水泳は低リスク者が多く(11人全員が低リスク)、陸上長距離は中リスク者が多かった(62.5%)。
3人に1人以上が疲労骨折の既往:
前記のリスク評価項目(6)の疲労骨折のスコアが1点以上、つまり過去1回以上の疲労骨折の既往があるアスリートが35.3%と、3人に1人以上の割合で存在していた。とくに陸上長距離アスリートではその割合が87.5%にのぼった。FATのリスクが高い群では疲労骨折などが発生しやすい
続いて本研究の主題である、FATのリスクと受傷率との関連をみてみる。
中~高リスク群の1年間の受傷率は50%以上:
まず、スポーツ関連の受傷は1年間に65件(41人)発生していた。これをFATのリスクレベル別に分けると、低リスク群は87人中25人(28.7%)、中~高リスク群は29人中16人(55.2%)だった。中~高リスク群では、受傷者の割合が有意に多く、低リスク群は非受傷者の割合が有意に多かった(いずれもp=0.01)。
捻挫や腱障害、脱臼、疲労骨折、関節炎が高頻度:
受傷の診断名として最も多いのは捻挫の14件であり、次に脱臼と腱障害が各6件、疲労骨折と関節炎が各5件と続いた。これらのうち、疲労骨折と滑液包炎については、FATの低リスク群に比較し、中~高リスク群は有意に多く発生していた(いずれもp=0.014)。これら一連の結果に基づき著者らは、「FATのリスクが高いと判定される女子大学生アスリートは、受傷リスクが高い可能性が示唆される」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「The relationship between the female athlete triad and injury rates in collegiate female athletes」。〔PeerJ. 2021 Apr 6;9:e11092〕
原文はこちら(PeerJ, Inc)