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精神科医療に従事する専門家の栄養リテラシー不足が明らかに 52カ国の国際調査

2021年04月30日

精神科医や心理学者、心理療法士など、メンタルヘルスに携わる医療従事者の栄養医学の知識が、どの国でも不足しているとする国際調査の結果が発表された。著者らは、「現状においては『患者に危害を及ぼさない』という医療の基本を遵守し、次世代の精神科医療従事者は、栄養精神学の高い知識を備えて患者の治療にあたるべきだ」と述べている。

精神科医療に従事する専門家の栄養リテラシー不足が明らかに 52カ国の国際調査

研究の背景:メンタルヘルス専門家の栄養リテラシーは不明

精神疾患のある患者は一般に短命であることが報告されている。その一因として、肥満やメタボリックシンドローム(Met-S)、糖尿病の有病率が高いこと、それらに対する生活介入が困難なことが多いこと、抗精神病薬には肥満や高血糖を助長するものがあることなどが考えられている。

肥満やMet-S、糖尿病に対して栄養介入が有効であることは論をまたない。また近年、栄養不良とメンタルヘルスとの関連を示す報告が増えており、例えば16件のRCT(ランダム化比較試験)のメタ解析の結果、栄養介入がうつ症状を改善することが示された。現在、栄養不良はメンタルヘルス不良の修正可能なリスク因子の一つと考えられるようになってきた。

しかし、メンタルヘルスに携わる医療従事者には、その養成課程で栄養学をほとんど教育されていない。これは世界共通の問題と言える。本研究の著者らは、この問題に取り組む第一歩として、メンタルヘルス領域の医療従事者の栄養リテラシーを把握するために今回の研究を行った。

52カ国、1,056人の精神科医療従事者が回答

この調査はオンラインで実施され、世界精神医学会(World Psychiatric Association;WPA)と、著者の所属するオーストリアのグラーツ医科大学のネットワークを通じ、世界各地のヘルスケア医療従事者に回答協力が呼びかけられた。回答の適格基準は、24~100歳の心理学者、精神科医、心理療法士、および研修医であり、その他の医療領域の従事者は除外した。年齢を24歳以上としたのは、医科系大学を卒業し臨床心理学でのキャリアがスタートする最低年齢であるため。

回答者の背景

2018年12月~2020年9月に52カ国から1,056人の有効回答が得られた。職能領域の内訳は心理学者511人、精神科医354人、精神医学・心理学の研修医147人、心理療法士44人であり、年齢は39.9±10.0歳、女性が71.9%を占めていた。

勤務先は、病院が42.6%、個人開業医が22.1%、メンタルヘルス外来サービスが16.9%、リハビリテーションセンター6.1%など。また86.4%が高所得国、11.6%が高中所得国、1.9%が低中所得国、0.1%が低所得国からの回答であり、国別ではオーストリアが最も多く481人、次いでルーマニア54人、イスラエル52人、ドイツ40人、セルビア35人などが続き、日本からの回答は4人だった。

養成課程で栄養教育を受けた人の割合

511人の心理学者のうち51.1%(261人)が、栄養教育を受けたかどうかの質問に回答した。その66.3%(173人)は講義を受けたことがなく、22.6%(59人)は何らかのトレーニングを受けたと回答した。

354人の精神科医のうち55.9%(198人)がこの質問に回答し、8.6%(17人)が関連領域の選択科目を完了していた。この領域の科目を必須コースとして受講していたのは、わずか2.0%(4人)だった。

なお、精神科医または心理学者として働いている人の10.5%(111人)が、就職後に栄養ケアのトレーニングに参加していた。

治療への栄養学的アプローチの実施状況

7割弱が精神疾患治療のために栄養介入

精神科医の67.2%、心理学者の65.6%、心理療法士の65.9%が、患者の治療のために栄養学的アプローチを用いていると回答した。栄養学的アプローチを採用する疾患は、摂食障害(436人)、情動障害(344人)、不安障害(208人)、精神障害(130人)、強迫性障害(58人)などが挙げられた。

一方、全体の約3分の1(35.9%)は、精神障害に対して栄養学的アプローチを使用した経験がないと回答した。

身体疾患予防のための栄養介入

身体疾患の予防のための栄養介入については、38.1%が「時々実施する」と答え、20.1%は「したことがない」と回答。栄養介入を常に試みているのは4.1%にとどまった。また、精神科医の約4分の1(24.9%)は、抗精神病薬の処方に際にして患者の栄養状態を考慮していると回答した一方で、23.4%は考慮していなかった。

最も推奨されたライフスタイル介入は身体活動(935人)であり、食事指導(558人)、料理教室(112人)と続いた。102人はライフスタイル介入を推奨することは「ほとんどない」と回答した。

また、食物アレルギー、グルテン過敏症、食物不耐性について検査を「したことがない」が47.2%、「ほとんどない」が29.0%を占めていた。

なお、栄養学的アプローチが「非常に重要」としたのは11.4%だった。

次世代のメンタルヘルス専門家への期待

本調査では、上記のほかにメンタルヘルスの専門家が、地中海式食事療法や低炭水化物食を指導したり、栄養補助食品を推奨している実態も明らかにされている。

一連の結果のまとめとして著者らは、「メンタルヘルスの専門家は、栄養をケアモデルの重要な柱と見なしている。しかし大半のメンタルヘルス専門家は栄養に関する専門的なトレーニングを受けておらず、リテラシーが低い。それにもかかわらず栄養学的アプローチを推奨している」との考察を述べている。

そのうえで結論を、「現在の教育カリキュラムを改善し、栄養精神医学を組み込むことが重要であるように思われる。最も重要なことは、『患者に危害を及ぼさない』という医学の格言に則り、十分な科学的エビデンスのないサプリメントや食事療法の推奨を避け、介入前のスクリーニングを行うことだ。次世代のメンタルヘルス専門家は、最先端の精神科治療を患者に提供できるだけでなく、栄養が関連する身体疾患の予防や治療にも関心を持つ必要がある」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「‘An Apple a Day’?: Psychiatrists, Psychologists and Psychotherapists Report Poor Literacy for Nutritional Medicine: International Survey Spanning 52 Countries」。〔Nutrients. 2021 Mar 2;13(3):822〕
原文はこちら(MDPI)

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