肥満や糖尿病の人は食べ物をうまく噛めていない、オーラルフレイルの高リスク状態
肥満や糖尿病患者は、口腔機能が低下する「オーラルフレイル」のリスクが高いことが明らかになった。大阪大学の研究グループの研究によるもので、「Obesity research & clinical practice」に論文掲載されるとともに、同大学のサイトにニュースリリースが掲載された。
研究の概要
口腔機能が低下する「オーラルフレイル」は、全身のフレイル、サルコペニア、低栄養などと強く結びついていることがわかってきており、近年、社会的にも注目されている。全身の機能が低下し、栄養状態も低下しているような人では、オーラルフレイルの状態にあることが多いこともよく認識されている。
しかしその一方で、過食や食生活の乱れが問題となりがちな生活習慣病の患者では、フレイルと正反対とも言える肥満、つまり過栄養でもオーラルフレイルを認める。その理由はよくわかっていなかった。
今回の研究は、生活習慣病で通院中の患者1,000名を対象に行われた。口腔機能の指標である咀嚼機能(歯で噛み砕く機能)と舌口唇運動機能(舌と唇を動かす機能)を調べたところ、高齢であること、筋力が低下していることに加え、肥満や糖尿病も、こうした機能の低下のリスクを高めることが明らかになった(図)。
図 口腔機能低下の関連因子
研究の成果
この研究は、糖尿病、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症のいずれか一つ以上の生活習慣病を有する患者1,000名を対象に、口腔機能の指標である咀嚼機能(歯で噛み砕く機能)と舌口唇運動機能(舌と唇を動かす機能)を調査した。白岩内科医院(大阪府柏原市)の外来患者の研究参加協力を得た。
調査の結果、フレイル・サルコペニアの指標である握力や歩行速度の低下ならびに年齢が、咀嚼機能の低下・舌口唇運動機能の低下と関連していた。さらに、糖尿病と肥満も、これらの因子とは独立して、咀嚼機能の低下・舌口唇運動機能の低下と関連していることが明らかになった。
人間がものを食べる際、食べ物を砕く歯そのものの働きも大切だが、一回一回噛むごとに舌や唇をうまく協調させて動かせることも重要。これらの機能が低下してしまうと、食べ物を上手く噛めなくなる。
今回の研究は、肥満や糖尿病の患者は、食べ物をうまく噛めていないリスクが高いことを示唆している。
研究の意義:肥満・糖尿病の栄養指導にアレンジが必要
近年、オーラルフレイルの重要性がますます注目されている。オーラルフレイルに着目する際、つい、フレイルやサルコペニア、栄養不足との結びつきに目が行きがちだが、今回の研究結果は、こうした状態とは正反対に位置する肥満、過栄養の状態も、オーラルフレイルのリスクであり、注意が必要であることを示している。
また、これまで、肥満や糖尿病患者に対する食事の注意点として、食事の量やバランスに加え、しっかり噛んで食べること、すなわち、ひと口当たりの噛む回数を増やすことがよく指摘されてきた。しかし今回の結果から、肥満や糖尿病患者では、噛む回数を増やす以前の問題として、そもそもうまく噛めていない可能性が考えられる。噛む回数を増やすという従来の指導にとどまらず、患者の口腔機能の状態を正しく評価し、低下している場合には機能の改善や、口腔機能に合わせた食事内容の提案など、新たなアプローチが必要であることが示唆される。
関連情報
文献情報
原題のタイトルは、「Association of obesity, diabetes, and physical frailty with dental and tongue-lip motor dysfunctions in patients with metabolic disease」。〔Obes Res Clin Pract. 2021 Mar 7;S1871-403X(21)00033-8〕
原文はこちら(Elsevier)