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胃腸は味がわかる!? 消化管での主要栄養素の感知に関するナラティブレビュー

味覚は舌で感じている。その味覚は生存にとって重要であり、食物が摂取に適しているかどうかの判断に欠かせない。一般には、酸っぱい物や苦い物は危険と判断される。一方、食物を摂取する最大の目的は、栄養素を身体にとり入れることだ。では、その栄養素の違いは、身体のどこで感知しているのだろうか?

胃腸は味をわかっている? 消化管での主要栄養素の感知に関するナラティブレビュー

このような視点から、主要栄養素を感知するメカニズムについてまとめたナラティブレビューが報告された。要旨の一部を紹介する。

味覚の基本を超えて、消化管で味わう“味”

古くから、味には四つの基本があると考えられていた。「甘味」「酸味」「辛味」「苦味」である。2000年代に入るとこれらに加え、「うま味」の受容体も発見された。最近は「脂肪(脂質)味」という概念も広がっている。

脂質の味と口当たり

このうち脂質は人間の食事に欠かせない成分の一つであり、他方、脂質の過剰摂取は健康に悪影響を及ぼす。脂質の摂取量の一部は、摂取中および摂取後の脂質感知メカニズムによって調節されている。脂質は摂取した場合の満足感が高い栄養素であり、一般にその摂取は空腹感に対する負のシグナルとしてフィードバックされ、満腹と感じた時点で摂取速度が遅くなる。

脂質の感知には二つの主要なシグナル伝達経路があり、そのうちの一つは口腔内でのトリアシルグリセロールの口当たりであり、もう一つは消化管に存在する脂肪酸受容体だ。これらの感度は個人差が大きく、かつ同じ人であっても変動が大きいことが明らかになっている。感度が高い人は、自由摂食条件下での摂取量が少ないという報告がある。ただし、脂質に対する感度と体重との間に有意な相関はみられないとする報告もあり、一貫した結論は得られていない。

タンパク質のうま味とこく味

タンパク質は20以上のアミノ酸で構成されており、そのうちの9種類が不可欠であって食事から摂取する必要があるとされている。タンパク質を「味」として感知できるのはペプチドとアミノ酸の存在により、味覚としては「うま味」や「こく味」として表現される。

うま味に関しては、グルタミン酸味覚受容体が同定されたことで2000年代初頭から研究が急速に進歩してきた。それに対してこく味はより新しい味の概念と言える。

ラットを用いた研究から、胃粘膜にグルタミン酸のセンサーがあることが示唆されている。これが食欲を刺激するグレリンの放出に関与していると考えられている。また最近の研究では、こく味がGLP-1(glucagon like peptide-1.インクレチン)の分泌を刺激することが示された。

うま味とこく味の刺激は、食欲刺激ホルモンおよび食欲抑制ホルモンを放出して食物摂取の調節にかかわるだけでなく、うま味とこく味による快楽的な反応がタンパク質摂取量の調節に関与している可能性も指摘されている。これは、うま味やこく味は高タンパク質食品摂取時に強く感じることとも関連している。ただし現時点では、被験者のうま味やこく味の感度と摂取量とを関連づけた検討が少なく、詳細は不明。しかし、肥満者はそれらへの感度が低く、それらの味が濃い味付けを好むことは報告されている。うま味感受性の低下が体重増加を招く可能性を示す知見と言える。

うま味とこく味に関して、もう一つの注目すべきテーマは、高齢者の健康増進である。高齢者では一般に味覚の低下がみられ、これが食欲低下、摂取量低下、体重減少、疾患の好発、生活の質の低下につながる。うま味刺激は唾液分泌を刺激し口渇を緩和し、味覚を含む口腔機能を改善することが示されている。これにより高齢者の栄養状態の改善が期待される。

炭水化物の甘味

単糖や少糖の甘味は舌で感知され、その研究は古くから行われている。それに対して、消化管で感知されることの多い複合炭水化物(マルトデキストリン)の味覚に関する研究はあまり進んでいない。

スポーツ科学の領域では近年、栄養成分のない甘味料での洗口に比較してマルトデキストリンを含む溶液での洗口後に、パフォーマンスが改善されることが注目されている。また、脳領域の研究では、マルトデキストリン摂取後はグルコース摂取後と同様に、眼窩前頭皮質および線条体の報酬系が活性化するのに対し、栄養成分のない甘味料では反応しないことが報告されている。

マルトデキストリンに対する感度の低下は、過体重や肥満の発症と強く関連することも示されつつある。今後の研究では、マルトデキストリンに対する消化管レベルでの味覚の感受性の個人差を測定し、摂取量との関連を解明する必要があるだろう。この関連のメカニズムが明らかになれば、例えば癌悪液質などの消耗性疾患に苦しむ人々を救う新たな食品の開発につながるかもしれない。

文献情報

原題のタイトルは、「Macronutrient Sensing in the Oral Cavity and Gastrointestinal Tract: Alimentary Tastes」。〔Review Nutrients. 2021 Feb 19;13(2):667〕
原文はこちら(MDPI)

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