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安静時代謝量の推算式はトップアスリートには適用できない? どれも信頼性に欠ける可能性

安静時代謝量を推定する計算式は複数提案されているが、トップアスリートへ適用する場合、いずれも信頼性が十分でない可能性を指摘した論文が発表された。トルコからの報告で、同国のオリンピック参加選手と一般成人の計約100名を対象として、間接熱量測定の結果と12種類の推算式の計算値を比較検討したもの。著者は、「オリンピックアスリートの安静時代謝量は、可能であれば、間接熱量測定にて把握することを勧める」と述べている。

安静時代謝量の推算式はトップアスリートには適用できない? どれも信頼性に欠ける可能性

安静時代謝量(RMR)の正確な測定が重要な理由

安静時代謝量(resting metabolic rate;RMR)は、座位行動が多い人では総消費エネルギー量に対して約60〜70%とされる。日々のエネルギー需要を正確に決定することは、最適な体組成を維持し、健康増進のために不可欠。正のエネルギーバランスは体重を増加させ、肥満やメタボリックシンドロームなどの体重関連健康障害を引き起こし、一方、負のエネルギーバランスは栄養不良、倦怠感、筋肉量減少などにつながる。

また、十分なエネルギー可用性を維持することは、スポーツパフォーマンスの向上に最も重要なポイントの一つであり、国際オリンピック委員会(International Olympic Committee;IOC)も低エネルギー可用性(low energy availability;LEA)によるアスリートの健康への影響を強調している。具体的にLEAは、月経異常、骨密度低下、内分泌調節不全などの健康転帰を招く。

ゴールドスタンダードは間接熱量測定(IC)

安静時代謝量(RMR)は、アスリートのエネルギー需要を評価する重要な因子であり、RMRを正確に把握することがスポーツ栄養管理上、重視される。RMR測定のゴールドスタンダードは間接熱量測定(indirect calorimetry;IC)だが、高コスト、測定の煩雑さ、熟練スタッフの確保などのハードルがあり、頻用には向いていない。そこで、体重や身長、年齢、性別、除脂肪量(fat-free mass;FFM)などの変数を用いた推算式が複数提案されている。

それらの推算式は、コストがほぼかからず、簡便などを特徴とする。米国スポーツ医学会(American College of Sports Medicine;ACSM)は、アスリートのRMR推定に2種類の推算式が使用可能としている。ただし、競技種目によってはそれらの推算式の信頼性が高くないことを指摘した報告もみられる。

このような背景のもと、本論文の著者らは、RMRは身体活動レベルや性別によって異なる可能性があるという仮説を立て、12種類の推算式による推算値と、間接熱量測定(IC)による実測値との乖離を検証した。

トルコのオリンピアンと一般成人、計約100人で検討

対象は、49名のトルコからのオリンピック参加アスリートと、座位行動の多い一般成人48名、計97名。

アスリートの選択基準は、

  1. 少なくとも1年間、トルコ代表チームスポーツに参加し、
  2. 総身体活動スコア(total physical activity score;TPAS)が3,000MET-分/週以上、
  3. 代謝性疾患の既往や現在の怪我がなく、
  4. 年齢が18~25歳であること。

一方、一般成人の選択基準は、

  1. 総身体活動スコア(TPAS)が600MET-分/週未満で、
  2. 代謝性疾患の既往がないこと。

アスリート49名のうち男性は25名で、年齢19.1±1.5歳、身長178.7±6.1cm、体重75.4±12.4kg、除脂肪量66.7±7.6kg、体脂肪率10.6±3.9%。女性は24名で、年齢20.3±2.1歳、身長163.3±6.6cm、体重60.6±12.7kg、除脂肪量47.0±5.7kg、体脂肪率19.9±4.5%。競技種目は、陸上8名、長距離水泳6名、近代五種5名、フェンシング3名、空手10名、テコンドー5名、ボクシング8名、サッカー6名。

一般男性48名のうち男性は28名で、年齢19.9±1.4歳、身長176.8±5.5cm、体重78.3±12.8kg、除脂肪量62.1±5.7kg、体脂肪率19.6±4.1%。女性は28名で、年齢20.1±1.6歳、身長163.4±4.1cm、体重60.0±10.3kg、除脂肪量43.4±4.5kg、体脂肪率 26.7±6.3%。

実測値と推算値の乖離が少なくない

間接熱量測定(IC)は、脱水や高強度運動、喫煙の影響を受けたと判断されたケースで再測定が行われ、計106回測定された。アスリートと一般成人の性別の総身体活動スコア(TPAS)と、間接熱量測定(IC)による安静時代謝量(RMR)は次のとおり。

TPASはアスリート男性が3,228.80±426.22MET-分/週、一般男性は534.11±11.47MET-分/週、RMRは同順に1,855.2±322.4kcal/日、1,366.0±282.2kcal/日。女性のTPASはアスリートが3,009.13±267.94MET-分/週、一般女性は480.52±34.15MET-分/週、RMRは同順に1,366.0±232.2kcal/日、1,206.3±161.7kcal/日。

男女ともに上記の結果すべてについて、アスリート群と一般成人群の間に統計的有意差が存在した。

推算式ごとに乖離幅が大きく異なる

12種類の推算式のうち、RMRの実測値と推算値との乖離が有意でなかったものは、男性アスリートでは6種類、女性アスリートでは5種類、一般男性では3種類であり、一般女性については12種類の推算式のすべてが実測値と有意に乖離していた。

男性アスリートにおいて、実測値に対する乖離幅が最も少ないものは平均差-8.9±257.5kcal/日、乖離幅が最も大きいものは平均差344.3±244.0kcal/日、女性アスリートでは同順に-16.7±195.0kcal/日、-255.0±247.2kcal/日、一般男性では-8.1±120.5kcal/日、-286.4±112.7kcal/日、一般女性では53.6±128.3kcal/日、-386.8±125.3kcal/日だった。

二乗平均平方根誤差や級内相関係数から、実測値と推計値との相関は低~中程度にとどまると考えられた。とくに女性に関してはすべての推算式の信頼性が低いと考えられた。

以上より著者らは、「RMRの推算式がRMRの実測値を正確に予測できないことが示された。よって総消費エネルギー量を決定する際に、これらの推算式を使用することは適切でないケースがある」としたうえで、「可能ならオリンピックアスリートのRMRは、ICを使用して測定することを推奨する」と結論付けている。

また今後の研究として、「種々のグループ固有のRMR推算式を確立するために、オリンピックに参加した若年アスリートのより大きなコホート研究を行う必要がある」と提言している。

文献情報

原題のタイトルは、「Current Predictive Resting Metabolic Rate Equations Are Not Sufficient to Determine Proper Resting Energy Expenditure in Olympic Young Adult National Team Athletes」。〔Front Physiol. 2021 Feb 4;12:625370〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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