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やせた若年女性の代謝状態は肥満者と類似 「エネルギー低回転」状態、「代謝的肥満」が関与 順天堂大学

若年日本人女性が年々やせていく傾向にあることが「国民健康・栄養調査」から示されている。若年期の低体重は、高齢になってからの骨粗鬆症のリスク増大、子どもの生活習慣病リスクの増大などとの関連が報告されているが、新たに日本人のやせた若年女性(BMI※1 18.5未満) には、食後高血糖を特徴とする耐糖能異常※2が多いことが報告された。その原因として、主に肥満者に生じる問題と考えられていたインスリン抵抗性※3や脂肪組織の異常が関連しているという。順天堂大学スポートロジーセンターの研究グループの研究によるもので、「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」に論文掲載されるとともに、同大学のサイトにニュースリリースが掲載された。

やせている若い女性は太っているのと同じ!? やせに伴う食後高血糖の実態が明らかに

※1 BMI(body mass index.体格指数):その人がどれくらいやせているか、太っているかを示す指数。体重(kg)を身長(m)で2回割って算出する。国内では、18.5未満をやせ、18.5~25を普通体重、25以上を肥満とする。
※2 耐糖能異常:75g経口ブドウ糖負荷試験で2時間後の血糖値が140mg/dL以上、200mg/dL未満になっている状態。インスリン分泌量の低下やインスリンが効きにくいこと(インスリン抵抗性)により生じる。
※3 インスリン抵抗性:膵臓から分泌され、肝臓や骨格筋に作用して血糖を下げるホルモンである「インスリン」の感受性が低下して効きにくい状態を指す。主に、肥満に伴って肝臓・骨格筋にインスリン抵抗性が出現し、糖尿病やメタボリックシンドロームの重要な原因の一つ。

研究の概要:日本の若年女性の‘やせ’の頻度は先進国で最も高い

研究結果の概要によると、日本人のやせた若年女性は標準体重者に比べて耐糖能異常の割合が顕著に高いこと、やせた若年女性の多くは食事量が少なく運動量も少ないという「エネルギー低回転」状態であり骨格筋量も少ないこと。そして、やせた若年女性の耐糖能異常の原因として、主に肥満者に生じると考えられてきたインスリン抵抗性や脂肪組織の異常となる「代謝的肥満」が関与するという。やせた人の代謝状態が肥満者に類似しているものである可能性を示す研究は、本報告が世界で初めてという。

研究グループでは、「やせた若年女性の比率が約20%と、先進国の中でも最も高い本邦において、やせた若年女性に対する生活習慣病発症への予防的取り組みが必要であることを示唆しており、我が国の予防医学を推進するうえでも極めて有益な情報であると考えられる」としている。

研究の背景:やせているのに、なぜ代謝異常が生じるのか?

食後高血糖を主徴とする耐糖能異常は、主に肥満が原因で生じるもので、糖尿病や心血管疾患のリスクとなることが知られている。欧米諸国では若年層における肥満の増加とともに耐糖能異常も増加してきており、肥満の若年者に対する減量指導が推進されている。

一方、日本ではやせた女性(BMI18.5未満)の比率が先進諸国の中で最も高く、とくに若年女性ではやせ願望を反映して、その比率が約20%と極めて高い。最近の研究により、意外なことに、やせていても肥満と同等に糖尿病のリスクが高いことがわかってきたが、それらの知見はあくまで中年以降を対象としたデータであり、やせた若年女性でも糖尿病のリスクが高いのか否かや、もし実際に高いのであれば、なぜやせていてもそのような異常が生じるのかに関しては、全く明らかになっていない。

そこで今回、研究グループは、やせた若年女性の耐糖能異常の割合と、その特徴を明らかにすることを目的に調査を実施した。

研究の方法と結果:やせている若年女性は「代謝的肥満」の状態にある

研究ではまず、18~29歳のやせ型(BMI16.0~18.49)の若年女性98名と、普通体重(BMI18.5~23.0)の56名を対象に、75g経口ブドウ糖負荷試験を行い、耐糖能異常(糖負荷2時間後140mg/dL以上)の割合を調査した。また、体組成測定(DXA法)、体力測定、食事内容や身体活動量に関するアンケートを実施した。

その結果、普通体重者に比べてやせ型の女性では、耐糖能異常の割合が約7倍高いことが明らかになり(1.8 vs 13.3%)、その割合は米国の肥満者における割合(10.6%)よりも高かった。また、やせ型の若年女性の特徴として、エネルギー摂取量が少なくて身体活動量が低く、筋肉量が少ないことがわかった(図1)。

図1 やせた若年女性では耐糖能異常が多い

図1 やせた若年女性では耐糖能異常が多い

標準体重に比べてやせ型の女性では耐糖能異常の割合が約7倍高いことが明らかになり(1.8 vs 13.3%)、その割合は米国の肥満者における割合(10.6%)よりも高い。また、やせ型の若年女性の特徴として、エネルギー摂取量が少なく、身体活動量が低く、筋肉量が少ないことがわかった。
(出典:順天堂大学)

次に、やせ型の若年女性の耐糖能異常の特徴を詳しく解析したところ、インスリン分泌が低下しているだけでなく、主に肥満者の特徴とされてきたインスリン抵抗性も、中年肥満者と同程度に生じていることが明らかになった。さらに、やせているのにもかかわらず脂肪組織から遊離脂肪酸※4があふれ出て、全身にばらまかれている状態(脂肪組織インスリン抵抗性とリピッドスピルオーバー※5)を来しているという、予想外の結果が得られた(図2)。

※4 遊離脂肪酸:遊離脂肪酸は脂肪組織から血液に放出され、エネルギーの源として活用される脂肪分。人の体では、脂肪は主に中性脂肪として皮下脂肪や内臓脂肪といった脂肪組織に蓄えられている。しかし、主に空腹時などでは脂肪をエネルギーとして利用するために脂肪組織に蓄えられた中性脂肪が分解され、遊離脂肪酸となって放出される。この放出や貯蔵をコントロールしているホルモンがインスリン。
※5 脂肪組織インスリン抵抗性とリピッドスピルオーバー:インスリンは脂肪組織にも作用し、脂質を脂肪細胞に貯蔵させる作用がある。しかしながら、肥満者では脂質を貯蔵する脂肪細胞が容量オーバーとなり、十分にインスリンが作用しなくなる(脂肪組織インスリン抵抗性)。すると、脂肪細胞から脂質が遊離脂肪酸としてあふれ出し、この状態をリピッドスピルオーバーと呼ぶ。放出された遊離脂肪酸は肝臓や骨格筋といったインスリンが作用する臓器に到達すると、細胞内で毒性を発揮し、インスリン抵抗性が生じると考えられている。本研究では、やせた若年女性の耐糖能異常者では、やせているにもかかわらず、肥満者で認めるような脂肪組織インスリン抵抗性・リピッドスピルオーバーが生じていることを世界で初めて発見した。

図2 やせた若年女性の耐糖能異常の特徴

図2 やせた若年女性の耐糖能異常の特徴

やせ型の若年女性の耐糖能異常の特徴として、インスリン分泌が低下しているだけでなく、主に肥満者の特徴とされてきたインスリン抵抗性も中年肥満者と同程度生じていること、やせているのにもかかわらず脂肪組織から遊離脂肪酸があふれ出て、全身にばらまかれている状態(脂肪組織インスリン抵抗性とリピッドスピルオーバー)であるという予想外の結果が得られた。つまりやせ型にもかかわらず、「代謝的肥満」の状態になっていた。さらに、体力レベルが低く、糖質からのエネルギーの摂取割合が低く、脂質からの摂取割合が高いことがわかった。
(出典:順天堂大学)

また、やせ型で耐糖能異常の若年女性では、体力レベルが低く、糖質からのエネルギーの摂取割合が低い一方で、脂質からの摂取割合が高いということがわかった。

従来、インスリン抵抗性は肥満に伴って出現し、やせ型の糖代謝異常はインスリン分泌障害が主体でインスリン抵抗性はあまり関係しないと考えられていたが、本研究は、やせた若年女性における耐糖能異常にも、肥満者と同様にインスリン抵抗性や脂肪組織障害が生じている「代謝的肥満」があることを世界で初めて示した。

今後の展開:栄養と運動が改善のカギ

本研究により、日本人のやせた若年女性では耐糖能異常の比率が13.3%と、顕著に高いことが明らかになった。やせた若年女性の多くは食事量が少なく、運動量も少ないという「エネルギー低回転タイプ」の状態にあり、それとともに骨格筋量も減少していることから、やせた若年女性に対する取り組みとしては、十分な栄養と運動により筋肉量を増やすような生活習慣の改善が重要と考えられる。

また、耐糖能異常の病態に、インスリン抵抗性も関与する可能性が明らかになったが、昨今の研究でインスリン抵抗性は運動をしたり、食事の脂質摂取割合を減らすことにより改善する可能性が示唆されている。糖尿病の予防の観点からは、そのような生活習慣の見直しが必要かもしれない。

ただし、本研究で見つかったやせた若年女性のインスリン抵抗性や脂肪組織異常が生じるメカニズムについてはまだ明らかになっておらず、同研究グループは「さらなる研究が必要」としている。

プレスリリース

食後高血糖となる耐糖能異常が痩せた若年女性に多いことが明らかに~痩せていても肥満者と同様の体質~(順天堂大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Prevalence and features of impaired glucose tolerance in young underweight Japanese women」。〔J Clin Endocrinol Metab. 2021 Jan 29;dgab052〕
原文はこちら(Oxford University Press)

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